嫦娥6号の月面サンプルが示す「月の磁場復活」の謎
中国の月探査機「嫦娥6号」が月の裏側から持ち帰った岩石サンプルの解析で、弱まりつつあった月の磁場が約28億年前に再び強まっていた可能性が示されました。月の内部構造と進化の理解を塗り替えるかもしれない、日本語で読みたい国際ニュースです。
何が新しく分かったのか:月の磁場「復活」の証拠
木曜日付で科学誌Natureに掲載された最新研究によると、月の磁場は約31億年前に大きく弱まったあと、約28億年前にふたたび強くなっていたことが分かりました。従来は、この弱まり以降、月を取り巻く月ダイナモは低エネルギー状態のままだと考えられてきましたが、その通説に疑問を投げかける結果です。
今回得られたのは、月の裏側から初めて得られた古地磁気(過去の磁場の痕跡)データです。岩石中の微細な磁性鉱物が、形成当時の磁場の向きや強さを記録しており、それを読み解くことで数十億年前の環境を復元できます。
- 約42億〜35億年前:月の磁場は地球に匹敵するほど強かった
- その後、2度にわたる大きな弱まりを経験し、特に約31億年前に顕著に低下したとされる
- 従来のモデルでは、その後は弱い状態のまま推移し、10億年前以降に完全に消えたと考えられていた
- 嫦娥6号サンプルの解析から、約28億年前に磁場強度が再び増加していた可能性が見つかり、「一度弱まった磁場が再活性化した」シナリオが浮上した
嫦娥6号サンプルと月の裏側の意味
嫦娥6号は6月25日、月の裏側というこれまで未踏の地域から、1,935.3グラムのサンプルを持ち帰りました。月の裏側は地球から直接見えず、着陸や採取の難易度が高いため、これまで詳細なデータが限られてきた場所です。
中国科学院・地質与地球物理研究所(IGG)の研究チームは、嫦娥6号が回収した岩石のうち、玄武岩質の破片4点を詳しく分析しました。その結果、これらの岩石が形成された時期の古地磁気の強さが予想よりも高く、月の磁場が一時的に再び活発化していた可能性が示されたといいます。
論文の査読者は、この成果を、月の古地磁気記録に空いていた約10億年分のギャップを埋める高い独創性を持つ結果であり、月の裏側から得られた初の古地磁気測定として、月磁場研究における大きな前進だと評価しています。
月のダイナモとは?内部構造への手がかり
研究で鍵となる月ダイナモとは、月が過去にグローバルな磁場を生み出していた背景にあるとされる地球物理学的プロセスを指します。
現在、衛星観測や月面での測定から、月には地球のような全球的な磁場(双極子磁場)は存在しないことが分かっています。かつて強い磁場を持っていた月が、なぜ、いつ、どのような仕組みで磁場を失っていったのかは、長年の謎でした。
今回の研究では、ダイナモが一度弱まった後に再び活性化した背景として、エネルギー源の変化や、ダイナモを駆動する力の再活性化が起きた可能性が指摘されています。論文の責任著者であるIGGの蔡樹輝研究員は、月のダイナモの進化を理解することは、月の内部構造、熱の歴史、そして表面環境を明らかにするうえで大きな意味があると強調しています。
火山活動とのつながり:一連の嫦娥6号成果
嫦娥6号から得られた成果は、磁場だけにとどまりません。11月には、同じIGGのチームが科学誌Natureに掲載された別の研究で、月の裏側で約42億年前と約28億年前の2回の火山活動が起きていたことを報告しました。
さらに、科学誌Scienceに掲載された別の論文では、嫦娥6号が採取したチタン含有量の低いサンプルが、およそ28.3億年前に形成されたものであることが示され、月の裏側で長期にわたって火山活動が続いていた可能性がより強まりました。
今回の研究で示された約28億年前の磁場の復活は、この時期の火山活動の証拠とタイミングが重なります。月の内部でどのような熱的・構造的変化が起き、火山活動とダイナモの再活性化がどのように関係していたのか――これらを結びつけて考えることで、月全体の進化像をより立体的に描けるようになるかもしれません。
残された謎とこれからの注目点
とはいえ、月の磁場の歴史がすべて解き明かされたわけではありません。研究者たちは、磁場の強さがいつからどれくらいの期間保たれ、どのようなメカニズムで変化したのかという時間軸と原因の両方について、まだ多くの疑問が残っていると指摘しています。特に、月の裏側については、これまで観測やサンプルが限られており、理解には大きな空白がありました。
今回の嫦娥6号による成果は、その空白を埋めるための重要なピースの一つです。今後、他の探査で得られたサンプルや観測データと組み合わせることで、月のダイナモがどのように始まり、弱まり、そして最終的に消えていったのかという月の磁場の物語が、より明瞭な姿を見せていくでしょう。各国の月探査が注目されるなか、こうした数十億年前の出来事を読み解く基礎研究が着実に進んでいることも、ニュースを読む私たちが共有しておきたい視点です。
Reference(s):
Chang'e-6 moon samples unveils surprising magnetic field resurgence
cgtn.com








