嫦娥5号サンプルが示す「弱く長寿な」月の磁場 中国探査が埋める空白
月にはかつて、弱いながらも長く持続した磁場が存在していた――中国の月探査機「嫦娥5号」が持ち帰ったサンプルの最新解析から、そんな姿が浮かび上がってきました。本記事では、この国際ニュースのポイントと、月探査の次の問いを整理します。
嫦娥5号サンプルが示した「弱いが活動的」な磁場
中国科学院の地質地球物理研究所の研究チームは、嫦娥5号が月の中緯度に位置する「嵐の大洋」から採取した玄武岩サンプル9点を詳細に解析しました。これらは、およそ30億〜10億年前にあたる期間の月の磁場の歴史を探る、貴重な手がかりです。
研究の結果、この時期の月には「ダイナモ」と呼ばれる内部発電機構によって生み出される、弱い磁場が存在していたことが分かりました。強さはおよそ2〜4マイクロテスラで、現在の地球の磁場の1割未満とされています。研究成果は、学術誌「Science Advances」に掲載され、表紙も飾りました。
なぜ月の磁場が重要なのか
月の磁場の強さや構造、その進化を理解することは、次のような点で重要だとされています。
- 月の内部構造がどうなっているか
- 月の中でどのように熱が移動し、冷えてきたのかという「熱史」
- 太陽風など宇宙環境が、長い時間スケールで月面をどう変えてきたか
今回、嫦娥5号サンプルから検出された弱い磁場は、完全ではないものの、月面を宇宙線や太陽風から部分的に守る「磁気シールド」が、中盤の時代まで存在していた可能性を示しています。これは、月面の風化(スペースウェザリング)や、水など揮発性物質がどの程度残り得たのかを考えるうえで、重要なベンチマークになります。
月の内部で何が起きていたのか
研究チームによると、こうした弱いダイナモ磁場を支えていたのは、月の深部で続いていた熱対流の可能性があります。熱対流とは、内部の高温の物質が上昇し、冷えた物質が沈み込む循環のことです。
論文では、月の磁場を駆動したエネルギー源として、次のような要因が挙げられています。
- 月の核(コア)が結晶化していく過程
- 月のわずかな「首振り運動」(ウォブル)
- 初期の高密度物質が深部へ沈み込む現象
こうしたプロセスが、完全に磁場が消えてしまう前の時期に、火山活動に必要な熱を追加で供給していた可能性も指摘されています。
嫦娥6号が伝える「磁場の再活性化」の兆し
研究チームは、科学誌「Nature」に発表した別の研究でも、月の磁場に関する意外な姿を報告しました。嫦娥6号が月の裏側から持ち帰った岩石サンプルを解析したところ、約28億年前に月の磁場が再び強くなった時期があった可能性が示されたのです。
この結果は、月の磁場が単に弱まりながら消えていったのではなく、中盤の時期に強さがゆらぎ、変動していたことを示唆します。嫦娥5号による「弱く続いた磁場」と、嫦娥6号による「一時的な再活性化」の証拠が組み合わさることで、月の磁場進化像はより立体的になってきました。
火山活動と月の「中年期」を読み解く
2024年11月には、地質地球物理研究所のチームが、月の裏側で約28億年前と約42億年前の2回の火山活動があったと報告しました。さらに、嫦娥6号が採取したチタンをあまり含まない岩石サンプルが、およそ28億3000万年前のものだとする研究も公表され、月の裏側での火山活動の証拠が補強されています。
これらの成果を総合すると、月の中年期ともいえる時代においても、内部では熱と物質の動きが続き、それが磁場や火山活動として表面に現れていた可能性が高まっています。
サンプルリターンが変える月科学
今回のような精密な議論ができる背景には、サンプルリターンミッションの存在があります。
- 嫦娥6号は、2024年6月25日に月の裏側から地球へ帰還し、1935.3グラムのサンプルを持ち帰りました。
- 嫦娥5号は、2020年12月17日に帰還し、主に月面の岩石と土壌からなる1731グラムのサンプルを回収しました。
年代や化学組成、磁気特性が分かった実物サンプルがあることで、月の内部構造や磁場の歴史に関する理論モデルを、これまで以上に具体的に検証できるようになっています。
これからの月探査と私たちの問い
嫦娥5号と嫦娥6号の成果は、月が「冷えて止まった世界」ではなく、想像以上に動的な歴史をもつ天体だった可能性を示しています。
今後の月探査や国際協力によって、例えば次のような問いにどう迫っていくのかが注目されます。
- 月の磁場は、いつ、どのようなメカニズムで完全に消えたのか
- 磁場の有無が、月面に残る水やその他の揮発性物質にどの程度影響したのか
- 人類の長期滞在や資源利用を考えるうえで、過去の磁場と火山活動の知見をどう生かすのか
宇宙ニュースとしての「月の磁場」という少し専門的なテーマも、背景や意味を整理してみると、私たちの将来の月利用や宇宙観に直結する話題であることが見えてきます。SNSなどで、身近な人と「月の中身」について語り合ってみるきっかけにもなりそうです。
Reference(s):
Chang'e-5 samples reveal moon's weak but persistent magnetic field
cgtn.com








