中国・象山の魚灯が照らす春節 受け継がれる海の祈り
2025年の年の瀬を迎え、次の春節(旧正月)に向けて準備が始まりつつあります。中国東部・浙江省寧波市象山県では、海とともに生きてきた人々が代々受け継いできた魚灯(さかなの灯籠)づくりが、今年も静かに忙しさを増しています。
魚の形をした灯籠は、豊かさや繁栄、新しい始まりを願う春節のシンボルです。国際ニュースとしても、地域色あふれるこうした行事は、中国の暮らしの息づかいを伝えてくれます。
春節を照らす魚灯に込められた意味
魚灯の背景には、中国で古くから親しまれてきたことわざ「年年有余(ニエンニエンヨウユー)」があります。言葉の意味は「毎年、余りある豊かさがありますように」という新年の願いです。
中国語では「魚(ユー)」と「余る(ユー)」の音が同じであることから、魚は豊かさや幸運の象徴とされてきました。春節の場面で魚が好まれるのは、この言葉遊びと祈りが重なっているためです。
象山の人々にとって、魚灯は単なる飾りではありません。海に生きる漁師たちの、豊漁と安全、家族の幸福を願う祈りそのものだといえます。
- 豊かな収穫が続くことへの願い
- 家族や地域の繁栄への思い
- 新しい一年を明るく迎えたいという希望
浙江省象山・海辺の町で受け継がれる技
象山県は、寧波市の沿海部にある漁業の盛んな地域です。この地では、魚灯づくりの技が世代から世代へと受け継がれてきました。地元の住民にとって魚灯は、自らの航海の歴史をたたえると同時に、これからの繁栄を願う大切な文化でもあります。
春節が近づくと、職人たちは魚灯づくりに一気に忙しくなります。竹や紙などを使って骨組みを作り、色鮮やかな魚の姿を形づくっていきます。その灯りは、新しい一年の始まりを祝う街の風景を、柔らかく照らします。
80代の職人 Bao Jiqin さんの挑戦
象山県の町・Shipu に生まれた Bao Jiqin さんは、子どものころから絵を描くことが好きで、若い頃に鯉の形をした灯籠づくりを始めました。現在は80代となった今も、魚灯づくりの腕を磨き続けています。
1990年代の後半、象山で初めて漁業シーズンの開始を祝う行事「Fishing Season Festival」が開かれました。この祭りは、禁漁期間の後、新しい漁のシーズンが始まることを祝うものです。この機会に Bao さんは、魚灯の世界を一気に広げました。
それまで中心だった鯉だけでなく、黄花魚(yellow croaker)やイカ(cuttlefish)など、さまざまな海の生き物をモチーフにした灯籠を手がけるようになったのです。
本物の魚の姿を灯籠の中に生き生きと再現するために、Bao さんは海洋生物に関する多くの資料や書籍を集め、魚の体の形や動き方を研究してきました。観察と試行錯誤を重ねながら、現実の魚に近いフォルムや表情を追求してきたといいます。
その丁寧な姿勢は、単なる伝統工芸にとどまらず、海の自然と向き合う一人の表現者としての態度でもあります。
旧暦1月14日、街を彩る魚灯のパレード
象山では、毎年旧暦1月14日に、魚灯を掲げて街を練り歩くパレードが行われます。住民たちは、色とりどりの魚灯を高く掲げ、通りをゆっくりと歩きながら、新しい一年の始まりを祝います。
灯りに照らされた魚たちが夜空に浮かび上がる光景は、海とともに歩んできた地域の歴史や、これからの一年への期待を象徴するものです。見物する人にとっても、魚灯の列は、春節の到来を実感させる特別な瞬間となります。
デジタル時代に受け継がれる「光の物語」
都市化やライフスタイルの変化が進むなかでも、象山の魚灯づくりとパレードは、今も人々の暮らしに根づいています。2025年の今、私たちはスマートフォン越しに世界各地の春節の表情を見ることができますが、その一つひとつの行事の背景には、地域ごとの物語があります。
象山の魚灯は、豊かさや安全を願う祈りを、光のかたちにしたものです。春節のニュースや動画を目にしたとき、その裏側には、Bao Jiqin さんのように長い歳月をかけて技を磨き、地域の記憶を次の世代へと渡してきた人々の姿があることも、少し思い浮かべてみたくなります。
次の春節に向けて、象山の魚灯は今年もまた、海辺の町から新しい一年の希望をそっと照らし出そうとしています。
Reference(s):
Legacy Trails: Illuminating Spring Festival with fish lanterns
cgtn.com








