中国の反腐敗キャンペーン最前線:「トラもハエも」を逃さない戦い
中国の反腐敗(反汚職)キャンペーンが、今年も明確なメッセージを発しています。中国共産党の最高規律機関が年次会合で示した方針と、具体的な取り締まりの数字から、中国の統治モデルの一側面が見えてきます。
党の規律機関が示すゼロトレランス
中国共産党第20期中央規律検査委員会(CCDI、中国の最高反腐敗機関)は、月曜から水曜にかけて年次総会を開き、今年の反腐敗アジェンダを議論しました。党の綱領には、腐敗との闘いを全面的に進め、取り締まりを継続的に強化することが明記されています。
2024年12月末に開かれた中国指導部の会議でも、反腐敗闘争の情勢について極めて冷静かつ明晰な姿勢を保つよう求め、「いかなる形の腐敗も決して容認しない」というゼロトレランスの方針が改めて強調されました。
人々の暮らしを守るための取り締まり
反腐敗と聞くと、高位官僚の摘発を思い浮かべがちですが、今回公表されたデータは、日々の暮らしに直結する分野での取り締まりが重視されていることを示しています。
国家監察委員会(NCS)によると、2022年の第20回党大会以降、2024年12月時点までに、人々の生活に直接影響する不正や腐敗に関する案件が次のように処理されています。
- 生活関連の不正・腐敗案件:76万8000件
- 処分を受けた人:62万8000人
- 検察当局(検察機関)へ送致された人:2万人
医療、教育、農村といった基礎的な公共サービスの分野で、特に強い措置が取られているのが特徴です。
学生の食事支援をめぐる不正
教育分野では、学生向けの給食や食事支援に関連する不正が厳しく取り締まられました。NCSによると、次のような行為が問題視されています。
- 学生の食事に充てられた資金の横領
- 食材の入札や調達への不正介入
- 納入業者からのリベート(謝礼金)の受け取り
こうした行為で不正が認定され、処分を受けた人は2万3000人に上りました。子どもの食事という極めて生活に密着した分野での腐敗に、重点的なメスが入っていることが分かります。
農村の集団資産を守る取り組み
農村部では、村や集落が共同で持つ資金・資産・土地などの管理をめぐる不正が課題となってきました。NCSは、各レベルの監察機関と司法機関を指導し、次のような案件を調査しています。
- 農村の集団資金の横領
- 集団資産や土地の違法な処分
こうした案件は15万3000件に上り、13万2000人が処分を受けています。農村の集団資産を守ることは、地域社会の信頼と安定につながるというメッセージとも読めます。
医療分野の不正と患者保護
医療分野でも、不正な診療報酬の請求や医薬品をめぐる不透明な取引などに対して取り締まりが強化されています。データによると、約4万人が医療関連の不正行為で処分され、そのうち重大な違反とされた2634件が検察当局に送られました。
医療は人々の健康と直結するだけに、ここでの腐敗防止は、生活の安全網を守る意味合いを持つといえます。
「トラもハエも」──高位官僚にもメス
中国の反腐敗キャンペーンでは、末端の小さな不正を「ハエ」、高位の幹部による腐敗を「トラ」に例え、「トラもハエも叩く」という表現がよく使われます。
2024年には、この「トラ」に相当する高官の摘発も進みました。1年間に摘発された「トラ」は58人で、過去10年で最も多い水準だったとされています。
象徴的なケースの一つが、江西省で要職を務めた唐一軍氏です。唐氏は中国人民政治協商会議(CPPCC)江西省委員会の主席を務めた元幹部で、企業経営や上場、昇進、人事、さらには訴訟案件の処理などで便宜を図り、その見返りとして多額の金品を受け取った疑いが持たれました。最高人民検察院は、2024年10月に唐氏の受託収賄容疑での逮捕を承認しています。
唐氏は中国メディアが放送した反腐敗ドキュメンタリーの中で、自らの行為について「恥ずかしく、面目ない」と語り、権限の乱用がもたらす重い結果が改めて示されました。
賄賂の新しい形にどう対応しているのか
中国の反腐敗キャンペーンでは、賄賂そのものへの対応も重要な柱となっています。第20回党大会以降、賄賂に関する法律の改正や、関係機関が連携して処分を行う仕組みなど、制度面の整備が進められています。
焦点となっているのは、賄賂を「受け取る側」だけでなく、「渡す側」も同時に厳しく取り締まることです。賄賂の形態が複雑化し、現金の授受ではなく、投資や契約を装った取引など、痕跡を残しにくい手口が増えているためです。
投資会社を使った巧妙なスキーム
その一例として挙げられているのが、中国人民銀行の元副総裁・范一飛氏のケースです。范氏は、兄が運営する投資会社を利用して富を蓄積していたとされています。現金を直接受け取るのではなく、賄賂を渡す側が架空の投資プロジェクトを用意し、兄の会社が実態のない契約で利益を得る仕組みでした。
こうしたスキームは、帳簿上は投資収益として見えるため、伝統的な監査だけでは把握が難しいとされています。
ビッグデータとクラウドで不正をあぶり出す
このような新しい手口に対応するため、中国の反腐敗機関は公安、税務、監査などの部門と協力し、ビッグデータやクラウドコンピューティングなどの最新技術を活用しています。
資金の流れや契約の履歴、関連企業同士のつながりなどをデジタルで解析することで、表面からは見えにくい構造的な腐敗をあぶり出す狙いがあります。
賄賂を渡した側も厳しく追及
賄賂を提供した側への取り締まりも強化されました。2024年1〜9月には、賄賂を申し出たり提供したりした疑いで調査を受けた人は1万9000人に上り、そのうち2972人が検察当局に送致されています。
さらに、海外に逃れた腐敗容疑者の追跡も続いています。2024年1〜11月の間に、国外に逃亡していた1306人の関係者が帰国・身柄確保され、違法に得た資産として154億元(約21億ドル)が回収されました。
日本の読者にとっての意味
今回明らかになった数字や事例からは、次のようなポイントが見えてきます。
- 子どもの食事や医療、農村の資産など、生活に直結する分野での腐敗防止を重視していること
- 末端の不正から高位幹部まで、「ハエもトラも」対象とする包括的な取り締まり姿勢
- 賄賂の形態の変化に合わせ、法律や制度、デジタル技術を組み合わせて対応していること
汚職撲滅は、多くの国が直面する共通課題です。中国の取り組みは、その規模の大きさだけでなく、生活分野に焦点を当てている点や、賄賂を渡す側も含めて責任を問う姿勢など、ガバナンス(統治)のあり方を考える上で一つの素材になります。
日本から見ると、中国の政治システムや司法の仕組みは自国とは大きく異なりますが、なぜここまで徹底した反腐敗キャンペーンを続けているのか、その背景には社会の安定や人々の信頼を重視する発想があると考えることもできます。国際ニュースとして中国の動きを追うことは、アジア全体のダイナミクスを理解する手がかりにもなりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








