陝西省のナツメ木彫職人 ヤン・ヤンフェイがつなぐ3000年の記憶
中国北西部・陝西省から、伝統工芸と現代アートの感性をつなぐ木彫り職人の物語が伝えられています。ナツメの木を素材に作品を生み出すヤン・ヤンフェイ氏の仕事は、3000年続く自然と人のつながりを、いまの私たちに静かに問いかけます。
中国・陝西省のナツメ木彫とは
舞台は、中国北西部に位置する陝西省榆林市です。この地域では、ナツメの木が省内で3000年以上にわたり栽培されてきたとされ、人びとの暮らしに深く根づいてきました。果実として親しまれるだけでなく、その木は硬く美しい木目を持ち、工芸の素材としても重宝されています。
ヤン・ヤンフェイ氏は、こうしたナツメの木を用いた木彫りの世界で腕を振るう職人です。長い時間をかけて育った木と向き合いながら、その魅力をどう引き出すかに心を砕いてきました。
ナツメとともに育った職人の原点
ヤン氏とナツメの木との関係は、幼少期から始まっています。陝西省で長く栽培されてきたナツメの木は、子どものころから身近な存在でした。その風景のなかで育ったことが、のちに木彫りの道を選ぶ土台になりました。
木彫りを本格的に始めたのは16歳のときです。多感な年頃にナツメの木と向き合い始めたヤン氏は、素材そのものの形や表情を生かすことを大切にしながら、独自の制作スタイルを育てていきました。
自然の形を生かす独自の制作プロセス
ヤン氏の作品づくりで特徴的なのは、まず素材の声を聞くように、ナツメの木そのものをじっくり観察する姿勢です。木を削り始める前に、その自然な形が何に見えるのか、どのような物語を秘めているのかを時間をかけて考えます。
- ナツメの木の曲がりや節、色合いを細かく観察する
- その形が動物や人物、あるいは抽象的な形など、何を連想させるか想像する
- 木の持つ線や面を壊しすぎないよう、必要な部分だけを彫り出す
このプロセスによって、作品は素材の自然な姿を保ちながらも、新しいイメージとして立ち上がっていきます。ヤン氏は、ナツメの木が本来持っている形をできるだけ残すことで、その木が内に秘めてきた価値を浮かび上がらせようとしているのです。
伝統工芸と現代アートのあいだで
ナツメ木彫という伝統的な技法に、素材の形を尊重するこうしたアプローチが重なるとき、作品は工芸でありながら、現代アートにも通じる表現を帯びてきます。大きく形を作り変えるのではなく、もともとの形を生かして意味を見いだす考え方は、彫刻やデザインの世界で重視される発想にも通じます。
最小限の加工で素材の魅力を引き出すスタイルは、環境への配慮や、ものを長く大切に使う発想とも相性がよいと言えます。一つとして同じ形のないナツメの木から、それぞれ異なる表情をすくい上げていくヤン氏の仕事は、量産品では得がたい、個性と物語を持った作品を生み出していると言えるでしょう。
3000年の木と共鳴する、これからのものづくり
ナツメの木が陝西省で栽培されてきた長い時間と、16歳から木彫りに向き合ってきた一人の職人の時間。その二つが重なり合うことで、伝統と現代をつなぐ工芸が形づくられています。
高速に変化するデジタル時代にあって、木の形をじっくり見つめ、一つひとつの素材と対話しながら作品を生み出す姿勢は、ものづくりの原点を思い出させてくれます。過去から受け継いだ自然と技を、どのように現在の表現へと橋渡ししていくのか。その一つの答えが、ヤン・ヤンフェイ氏のナツメ木彫に示されているように見えます。
私たちの身近な素材を見直すきっかけに
ヤン氏の物語は、中国の一地方の伝統工芸にとどまらず、私たち自身の暮らしを振り返るヒントにもなります。身の回りに当たり前のようにある素材や風景を、改めて観察してみたら、そこからどんな形や物語が立ち上がってくるでしょうか。
スマートフォン越しに世界のニュースやアートを眺める私たちにとっても、3000年育まれてきた一本の木と向き合う職人のまなざしは、ものを見る速度を少しだけ緩めてくれるかもしれません。
Reference(s):
Traditional craft that bridges heritage and contemporary artistry
cgtn.com








