中国でドローンパイロットが人気職に 低空経済が地方と働き方を変える
中国でドローンパイロットが、エンジニアや配達員に並ぶ人気職として注目を集めています。山あいの農村から大都市まで、低空を飛び交うドローンが新しい物流と働き方を切り開いています。
山あいを飛ぶ40キロのバナナ
中国南西部の雲南省の険しい山あいで、40キロ分のバナナをつり下げたドローンが軽やかに離陸しました。操縦しているのは、20年間トラック運転手として貨物輸送をしてきた40歳の李先全さんです。李さんはハンドルをゲーム機のようなコントローラーに持ち替え、ドローンパイロットとして第二のキャリアを歩み始めました。
低空経済と呼ばれる分野がテック業界や投資家の間で大きな話題になったのは2024年のことです。空飛ぶクルマや電動垂直離着陸機など、派手な技術に注目が集まりましたが、李さんの山あいの果樹園で起きている変化は、もっと地に足の着いたものです。
山間部で育つバナナは甘みが強い一方で、急斜面を人の手で運び下ろすと傷が付きやすく、輸入品と比べて競争力を失ってしまうといいます。雲南省農業部門の担当者によると、同省の土地の94パーセント以上が傾斜地で、そのうち耕作地の約46パーセントは傾斜15度を超えます。
雲南省玉渓市で急傾斜の農地を借りてバナナを育てる農家は「ドローンがなければ、こんな斜面で栽培しようとは思わなかった」と話します。李さんのドローン操作の技術は、このバナナ園にとって重要な競争力になっているのです。
低空経済が生む新しい仕事
趣味でドローンを飛ばしていた人から、農薬散布の熟練オペレーターまで、さまざまな層が李さんのような仕事に転じつつあります。医療用臓器や血清、緊急医薬品の輸送から、送電線の点検、高層ビルのガラス清掃、さらには海を越えて海産物を運ぶなど、無人機による配送サービスは用途を急速に広げています。
2024年6月時点で、中国には登録されたドローンが187万5千機ある一方、操縦資格を持つパイロットは約22万5千人にとどまります。産業調査では、中国のドローン市場は2024年から2029年にかけて年平均25.6パーセントの成長を続け、2029年には市場規模が6千億元を超えると予測されています。
中国の巨大な国内市場は、1,500万人を超える宅配便配達員を生み出してきました。その仕事の一部をドローンに置き換えるだけでも、多くの操縦者が必要になります。人手不足と市場拡大が重なり、ドローンパイロットは「足りない職種」として一気に注目されているのです。
資格取得ラッシュと待遇
上海のドローン養成機関 Funtastic Drone Training School では、ここ数カ月で操縦資格コースへの問い合わせが急増しているといいます。担当者の曽艶さんによると、以前は週に1~2件だった問い合わせが、現在は1日に2~3件に増え、その約半数が受講につながっているといいます。
同校のマルチロータードローン向け講座は18日から28日間で、費用は9千800元から1万5千800元とされています。決して安くはありませんが、資格取得後の就職のしやすさや給与水準の高さが、受講希望者を引きつけています。
メッセージアプリ微信上のミニプログラム I Am a Drone Pilot では、全国の求人情報とドローン操縦者がマッチングされています。ここで提示されている月給はおおむね5千元から1万元で、現場作業には1日200元の手当が付く仕事もあります。
2024年の統計によれば、中国各地の約350の職業学院が、ドローン応用技術を学ぶ3年制プログラムを開設しています。産業の裾野を広げるため、より専門性の高い人材の育成が進んでいることが分かります。
農村で広がるドローンと新農民
中国東部の沿海部では、工場の自動化が進み、必要とされる労働者の数が減ってきています。その一方で、無人機などの新技術は、もともと多くの出稼ぎ労働者を送り出してきた農村部に、新たな仕事を生み出しています。
中部の湖北省宜昌市にある秭帰県では、ドローンの導入がこの数年で一気に進みました。中国ナツミカンの産地として知られる同県では、現在500機を超えるドローンが活躍し、操縦者の数も以前の50人ほどから、現在は1千人以上に増えています。
こうした操縦者の多くは、都市から農村に戻ってきた20代から30代の若者です。彼らは新農民と呼ばれ、ドローンなどの新しい技術を持ち込みながら、高齢化と人手不足が進む農村の労働力を補っています。
深圳で美容師として働いていた王佳鑫さんも、その一人です。故郷に戻り、ナツミカンをドローンで運ぶ仕事に就きました。王さんは「以前は高齢の農家が急な山道をみかんを背負って登り降りしていたが、今の若者にはとても続けられない重労働だ」と話します。
王さんによると、ドローンは1回の飛行で50キロの荷物を運べ、水平に200メートルを飛ぶのに1分しかかかりません。同じ距離を人が担いで歩くと30分はかかるといいます。
大手物流会社の中通快逓によると、人が荷物を運ぶ場合は1キロ当たり0.8〜1元の費用がかかるのに対し、ドローンでは0.4元程度に抑えられます。収穫期には、地元の農家から注文の電話がひっきりなしにかかってくると王さんは笑います。
キャリアとしてのドローンパイロットをどう見るか
テクノロジーが働き方を変えるというと、都市のオフィスワーカーの話になりがちです。しかし、中国の低空経済の広がりを見ると、ドローンパイロットという新しい職業は、むしろ山あいの農村やインフラ現場でこそ大きな役割を果たし始めていることが分かります。
2024年時点で既に操縦者は深刻に不足しており、市場規模の拡大が見込まれる中で、この傾向は今後も続くとみられます。物流や農業、設備点検など、地に足の着いた現場とテクノロジーをつなぐ仕事として、ドローンパイロットは中国の新しいキャリア選択肢の一つになりつつあります。
もし自分がドローンを操縦できるとしたら、どんな場面で活用したいでしょうか。山あいの果樹園か、都市のビル街か。そんなことを想像しながら、低空をめぐる新しい仕事の広がりを眺めてみると、ニュースが少し違って見えてくるかもしれません。
Reference(s):
Drone pilots emerge as next sought-after profession in China
cgtn.com








