中国AIスタートアップDeepSeekと創業者リャン・ウェンフォンとは何者か
中国発の人工知能(AI)スタートアップ「DeepSeek」が、2025年の国際AI競争の構図を揺さぶっています。本記事では、その中心人物である創業者リャン・ウェンフォン(Liang Wenfeng)の経歴と思想、そしてDeepSeekの特徴を整理します。
シリコンバレーをざわつかせた中国発AI「DeepSeek」
中国浙江省杭州市に拠点を置くAIラボ、DeepSeekは、主力モデルを低コストで学習させたことで、シリコンバレーの専門家たちの注目を集めています。既存の大規模言語モデルに比べ、はるかに少ない計算資源で高性能を実現したとされ、そのインパクトは大きいです。
最新モデル「R1」は、OpenAIのChatGPTなどと比べてはるかに少ないコストで訓練されたと報じられています。このアプローチに対し、一部の米国のAI研究者からは、米国が中国のハイテク分野をめぐって進めてきた政策にとって「逆効果」になりかねないとする見方や懸念も示されています。
R1の公開後まもなく、DeepSeekのアプリは中国と米国の両方でiPhone無料アプリランキングの首位に躍り出て、一時はChatGPTを上回る人気を見せました。中国発のAIサービスが、消費者向けアプリ市場でもグローバル規模で存在感を示した象徴的な出来事と言えます。
技術面の特徴:RL中心の学習アプローチ
DeepSeekが公開した論文によると、R1モデルは、一般的に用いられてきた「教師あり微調整(SFT)」を前段階とせず、「強化学習(RL)」を中核に据えた学習プロセスで訓練されています。
- 教師あり微調整(SFT):人間が用意した正解データを使い、モデルに「正しい答え」を学習させる方法。
- 強化学習(RL):モデルが試行錯誤しながら行動し、良い結果に報酬を与えることで性能を高めていく方法。
DeepSeekは、SFTに大きく依存しなくても、高性能なモデルが構築できることを示そうとしており、この点が既存の大手AI企業のアプローチと対照的だと受け止められています。限られたリソースでも工夫次第で世界水準のモデルを生み出せる可能性を示したという点で、技術コミュニティに刺激を与えています。
創業者リャン・ウェンフォンとは何者か
DeepSeekを率いるリャン・ウェンフォンは、中国東部の名門・浙江大学で人工知能を専攻し、その後、金融とAIをまたぐキャリアを歩んできました。
- 浙江大学で人工知能を専攻し卒業。
- 2016年、クオンツ(数量分析)ヘッジファンド「High-Flyer」を共同創業。
- 2021年までに、High-Flyerの運用をAI中心へと切り替え、機械学習に基づく市場予測や投資判断を本格展開。
- 2023年5月、汎用人工知能(AGI)の研究に特化したラボとしてDeepSeekを設立。
投資の世界で「AIを使う側」として成功を収めた後、リャンはAIそのものの原理に迫る研究に軸足を移しました。金融市場という複雑な環境で培ったデータ活用やリスク管理の発想は、DeepSeekの研究スタイルにも影響していると考えられます。
DeepSeekの「長期主義」:儲けよりも基礎研究
リャンによれば、DeepSeekはあくまで長期的な基礎研究のプラットフォームであり、彼自身にとっては「サイドプロジェクト」や「趣味」に近い存在だとされています。
一般に、基礎研究は短期的な利益につながりにくく、投資回収の観点からは敬遠されがちです。それでもリャンがこの分野に力を注ぐのは、次のような問いに強い関心があるからだと語られています。
- 人間の知能はどのような仕組みで成り立っているのか。
- 複雑な環境で「考える」プロセスを、機械はどこまで再現できるのか。
- 汎用人工知能(AGI)は、どのような段階を経て実現に近づいていくのか。
リャンは、教育や商業的な成功よりも、「知能の本質に迫ること」そのものに価値を置いているとされています。この姿勢は、短期の収益を最優先するビジネスモデルとは一線を画すものであり、DeepSeekの技術開発にも反映されています。
中国国内での存在感:政策議論の場にも
DeepSeekの台頭に伴い、リャン・ウェンフォン個人も中国国内で注目される存在になっています。最近、彼は北京で開かれたシンポジウムに招かれ、中国の李強首相とともに、教育・科学・文化・医療・スポーツなど幅広い分野の専門家や起業家らと意見交換を行いました。
この場では、政府の仕事に関する報告書の草案について、各分野からの提案や意見が求められたとされます。AI分野の若い起業家であるリャンがこうした場に呼ばれたことは、中国におけるAIとイノベーションの重要性が一層高まっていることの象徴だと見ることもできます。
世界のAI競争に与えるインパクト
DeepSeekの登場は、次のような点で国際的な議論を呼んでいます。
- コスト効率の高いAIモデルが普及すると、AI開発の「資本力格差」はどこまで縮まるのか。
- 米国の大手企業(OpenAIやMetaなど)は、技術的優位性をどのように維持・再構築していくのか。
- 中国と米国を中心としたAI競争は、規制や安全性の議論にどのような影響を与えるのか。
特に、豊富な資金と計算資源を持つ企業だけでなく、工夫されたアルゴリズムや研究戦略を持つチームでも世界レベルのモデルを生み出せるとすれば、AI分野の競争地図は大きく変わっていく可能性があります。
これから私たちが考えたいこと
DeepSeekとリャン・ウェンフォンの歩みは、単なる「中国発の成功例」という枠を超え、次のような問いを私たちに投げかけています。
- AIは、短期的なビジネスのためだけでなく、どのように長期的な社会の利益につなげられるのか。
- 基礎研究への投資と、商業化・規制・安全性のバランスをどう取るべきか。
- 日本やアジアの研究者・企業は、この新しい波の中でどのような役割を果たせるのか。
中国発のAIスタートアップDeepSeekと、その背後にいるリャン・ウェンフォンの思想を追うことは、2025年以降の国際AI競争を理解するうえで重要な手がかりになります。ニュースを追いながら、自分なりの視点や問いをアップデートしていくことが、これからの時代を生きる私たちに求められているのかもしれません。
Reference(s):
Behind China's rising AI startup DeepSeek: Who is Liang Wenfeng?
cgtn.com








