DeepSeekがiPhone無料アプリ首位に AI競争の何が変わる?
中国発のモバイルAIアプリ「DeepSeek」が、2024年末に中国と米国のiPhone無料アプリランキングでChatGPTを抜いて首位になりました。低コストかつオープンな「推論モデル」を武器にしたこの動きは、国際ニュースとしても、生成AIの勢力図を考えるうえで見逃せない出来事です。本稿では、この出来事がAI産業と私たちの日常に何を示しているのかを整理します。
DeepSeekとはどんなAIアプリか
DeepSeekは、スマートフォンやウェブから利用できるAIチャットアプリです。開発企業は、「推論モデル」と呼ぶDeepSeek R1を搭載し、特に論理的な推論や数学的な問題に強みがあると説明しています。
「DeepThink (R1)」モードの特徴
ユーザーが「DeepThink (R1)」モードをオンにすると、DeepSeekは最終的な回答を出す前に、自分の思考プロセスを画面上に表示します。途中の推論の道筋が見えることで、複雑な問題にどのように取り組んでいるのかを人間側が確認しやすくなっています。
- 論理パズルや数学問題など、ステップを追う必要がある課題に強い
- 思考過程が見えるため、ユーザーが誤りや前提条件をチェックしやすい
開発元の説明によると、R1モデルの性能はOpenAIの推論特化モデルOpenAI-o1と「同等レベル」でありながら、計算コストはおよそ30分の1に抑えられているとされています。
無料提供とモデル公開という戦略
当時の発表によれば、モバイルアプリとウェブ版チャットボットは一般ユーザーに無料で開放され、プログラマー向けのAPI利用のみ有料とされていました。さらに、フルサイズのモデル本体も無償でダウンロード可能とし、十分な計算資源があればローカル環境で動かせるようにしています。
高性能なマシンを持たないユーザー向けには、薄型ノートPCからゲーミングPCまで、さまざまな端末向けに軽量化されたバージョンも用意されています。また、R1の開発プロセスをまとめた研究論文も公開されており、他の開発者が自分たちのデータで同様のモデルを再現できるよう配慮されています。
世界のAIコミュニティはどう受け止めたか
R1の公開とアプリの急上昇は、世界のAI関係者にも強いインパクトを与えました。コメントの多くは、その技術水準と「開かれた姿勢」に注目しています。
著名プレーヤーの評価
- 米投資家でネットスケープ共同創業者のマーク・アンドリーセン氏は、R1を「これまで見たなかでも最も驚くべきブレイクスルーの一つ」であり、「世界への深い贈り物」と高く評価しました。
- 検索系スタートアップPerplexityのアラヴィンド・スリニヴァスCEOは、DeepSeekがOpenAI-o1-miniを大きく再現し、それをオープンソースとして公開した点を指摘しました。
- Nvidiaのシニアリサーチマネージャーであるジム・ファン氏は、DeepSeekを米国外企業でありながら、オープンでフロンティアな研究を通じて多くの人を力づけている存在だと位置づけています。
- MetaのチーフAIサイエンティスト、ヤン・ルカン氏は、この出来事を「中国が米国を追い越した」話としてではなく、「オープンソースのモデルがクローズドなモデルを上回りつつあることの象徴」として捉えるべきだと強調しました。
- 元グーグル中国社長の李開復氏は、DeepSeekの登場が、中国の生成AIエンジニアリングには大きな潜在力があるという自らの主張を裏付けたと述べています。
こうした声から見えてくるのは、DeepSeekが「技術力」だけでなく、「オープンソースとして広く共有したこと」でも評価されているという点です。
DeepSeekの躍進が示す3つのポイント
1. モバイル発のAI利用がさらに日常化
DeepSeekが中国と米国のiPhone無料アプリランキングで首位となったことは、生成AIが一部の技術好きのツールではなく、一般ユーザーのスマートフォンアプリとして受け入れられつつあることを示しています。通勤時間やスキマ時間に、高度な推論AIをポケットから呼び出せる環境が広がれば、情報収集や学習、仕事の進め方は大きく変わっていきます。
2. 低コストかつオープンなAIは競争の前提を変える
性能が競合モデルと同等とされながら、コストが約30分の1という設計、さらにモデル本体と研究手法まで公開する姿勢は、AI競争の前提を揺さぶります。研究者やスタートアップは、巨額の資金や巨大データセンターがなくても、高度な推論モデルを活用したサービス開発に挑戦しやすくなります。
ヤン・ルカン氏が指摘するように、これは「どの国が勝つか」という単純な国別競争ではなく、「オープンなモデル」と「クローズドなモデル」の競争という新しい軸を際立たせる動きと言えます。
3. 中国発イノベーション像のアップデート
DeepSeekの梁文峰CEOは、2024年7月のインタビューで「中国は米国の技術を応用するだけ、というステレオタイプを超えなければならない」と語っています。経済規模の拡大に見合う形で、世界のイノベーションに主体的に貢献すべきだという問題意識です。
梁氏は、イノベーションはビジネス上の成功の追求だけでなく、「純粋な好奇心」からも生まれると強調しました。また、DeepSeekのチームは若手を中心に構成され、以前のV2モデルの開発には海外在住の中国人は関わっていないことも明かしています。「この分野のトップ50人の人材が中国にいないとしても、私たちは自分たちで人材を育てられる」との言葉は、長期的な人材育成への意欲を示すものです。
これから私たちが考えたいこと
2024年末のDeepSeekの躍進は、2025年の今も、生成AIとの付き合い方を考えるヒントを与えてくれます。
- AIが示す「思考過程」を、どこまで信頼し、どのように検証するのか
- 無料で高度なAIを使えることと、データの扱い・持続可能なビジネスモデルをどう両立させるか
- オープンソースのAIが広がる中で、研究開発や教育、政策はどのように追いついていくべきか
スマートフォンから誰もが強力なAIにアクセスできる時代に、私たち一人ひとりがどのようなリテラシーとルールを持つのか。DeepSeekをめぐる動きは、その問いを静かに突きつけています。
Reference(s):
cgtn.com








