世界湿地の日に考える:神農架・大九湖のコケが支える2万年の湿地 video poster
地球の「腎臓」とも呼ばれる湿地は、その高い生物多様性と水を浄化する力で知られています。今年2月の世界湿地の日をきっかけに、中国中部・湖北省の神農架にある大九湖湿地では、目立たない小さなミズゴケが、およそ2万年続く湿地の景観を支えてきたことが改めて注目されています。湿地の価値と、私たちの未来とのつながりを考えてみます。
神農架・大九湖のサブアルパイン湿地
湖北省神農架の大九湖一帯には、標高の高い場所に広がるサブアルパイン湿地があります。ここでは、ミズゴケ(泥炭コケ)が何百万年もの長い歴史の中で繁栄し、現在見られる大九湖の湿地景観を形づくってきました。
ミズゴケには、水分を驚くほどたくさん蓄え、湿度を安定させる力があります。この性質が長い時間をかけて厚い泥炭層をつくりあげ、大九湖周辺におよそ2万年続くとされる湿地環境を育んできたとされています。
小さなコケが担う大きな役割
一見すると目立たないミズゴケですが、その働きは決して小さくありません。
- スポンジのように水を吸収・保持し、乾燥や洪水の揺れを和らげる
- 分解されにくい有機物として泥炭を形成し、長期的に炭素を蓄える
- 湿地特有の酸性で冷涼な環境をつくり、多様な生き物のすみかを支える
こうした積み重ねによって、神農架・大九湖のようなサブアルパイン湿地は、独特の景観と生態系を保ってきました。
2025年の世界湿地の日:共通の未来のために
2025年2月2日は、第29回「世界湿地の日」にあたりました。今年のテーマは、英語で Protecting Wetlands for Our Common Future、日本語にすれば「私たち共通の未来のために湿地を守る」です。
世界湿地の日は、湿地の保全が生物多様性や気候、私たちの暮らしにとってどれほど重要かを考える日です。湿地は地球上で最も価値の高い生態系の一つとされ、知られている全生物種の約4割が湿地に依存しているとも言われます。
湿地は次のような形で、地球と人間社会を支えています。
- 気候レジリエンス(回復力)の向上:二酸化炭素を蓄え、気温上昇の緩和に貢献する
- 災害からの保護:洪水や高潮を和らげ、干ばつ時には水を放出して水不足を緩和する
- 経済と暮らしの安定:漁業、農業、観光など、多くの生業や地域経済を支える
つまり湿地は、気候危機や自然災害が頻発する今の時代に、私たちの「共通の未来」を守るインフラでもあるのです。
それでも湿地が失われている理由
こうした重要性にもかかわらず、世界各地の湿地は今も減少や劣化に直面しています。その背景には、次のような要因があります。
- 水質汚濁:生活排水や産業排水などによる汚染
- 外来種の侵入:在来の生態系のバランスを崩す生物の拡大
- 開発や土地利用の変化:湿地の埋め立てや過度な利用による劣化
湿地を守り、失われた湿地を再生することは、生物多様性の保全だけでなく、持続可能な発展や気候目標の達成にも直結しています。
都市計画と気候政策に湿地の視点を
湿地の保全と再生を前に進めるには、自然保護の枠を超えて、都市計画や気候政策、防災戦略の中に湿地の視点を組み込むことが重要だとされています。
例えば、次のような方向性が考えられます。
- 都市の近くに残る湿地を「自然のインフラ」として位置づけ、保全・再生を進める
- 気候変動対策の議論に、湿地による炭素蓄積や災害緩和機能を組み込む
- 防災計画のなかで、堤防やダムとあわせて湿地の保水機能を活用する
こうした取り組みは、湿地だけを守るのではなく、人と自然の双方にとってしなやかで持続可能な社会づくりにもつながります。
私たちにできる、小さな一歩
では、日々の暮らしの中で、私たちは湿地のために何ができるでしょうか。大九湖のミズゴケのように、目立たない一つ一つの行動が、長い時間をかけて大きな変化を生み出します。
- 自分の住む地域や行きやすい場所にある湿地や葦原、干潟に関心を持つ
- 湿地や水辺の保全に取り組む団体の情報を知り、学びや寄付で応援する
- 家庭や職場での節水やごみ削減など、水環境への負荷を減らす行動を続ける
- SNSなどで湿地の写真や学んだことを共有し、話題にしていく
地球規模の課題に見える湿地保全も、その一歩は身近な水辺への関心から始まります。中国・神農架の大九湖でミズゴケが静かに湿地を支えてきたように、私たちもまた、日々の選択で未来の景観を形づくっていくことができます。
Reference(s):
Our wetlands: Where tiny moss supports a 20,000-year-old wetland
cgtn.com








