中国四川省ゾゲ湿地と長征 世界湿地の日が問う未来 video poster
中国四川省のゾゲ湿地は、紅軍の長征の最も過酷な行程を見守ってきた場所であり、いまは世界湿地の日が掲げる「湿地保全」の意味を考える上で象徴的な存在でもあります。本稿では、その自然と歴史、そして世界湿地の日2025のメッセージをコンパクトに整理します。
長征の記憶をたたえる高地の湿地
ゾゲ湿地は、中国南西部・四川省に位置する高地の湿地です。標高が高く酸素が薄いことに加え、広大な沼沢地が続くため、人間にとっては非常に厳しい環境です。一方で、この過酷さこそが、クロヅル(黒い首を持つツル)やオオカミなど、多様な野生生物にとっての貴重なすみかを形づくっています。
長征の時代、紅軍はこのゾゲ湿地を踏破しました。ぬかるんだ湿地と低酸素の環境は行軍を極度に困難にし、ここでの数日は、長征の中でも特に険しい局面だったと伝えられています。人間の足にとっては試練の地でありながら、同じ場所が野生生物にとっては命を育む「避難所」となっていることが、湿地という存在の二面性をよく表しています。
世界湿地の日2025 共通の未来のために湿地を守る
2025年2月2日には、第29回世界湿地の日が「Protecting Wetlands for Our Common Future(私たちの共通の未来のために湿地を守る)」というテーマで迎えられました。世界湿地の日は、湿地の価値と保全の必要性を世界に呼びかける国際的な記念日です。
湿地は、地球上で最も価値の高い生態系のひとつとされ、知られている全生物種の約4割を支えています。気候変動へのレジリエンス(適応力)を高め、災害から人々を守り、地域経済の安定にも関わる、まさに「縁の下の力持ち」のような存在です。
- 炭素の貯蔵:大気中の二酸化炭素を吸収し、長期的に蓄えることで、気候変動の緩和に役立ちます。
- 洪水・干ばつの緩衝:スポンジのように大量の水を蓄え、急な増水や渇水を和らげる自然のダムとして機能します。
- 生計の維持:漁業、農業、観光など、多くの人々の暮らしを直接・間接に支えています。
こうした機能があるからこそ、湿地は単なる「ぬかるんだ土地」ではなく、人と自然の未来を支える基盤として注目されています。
湿地を脅かす3つのプレッシャー
その一方で、世界の湿地はさまざまな脅威にさらされています。世界湿地の日2025のメッセージでも、次のようなプレッシャーが指摘されています。
- 汚染:生活排水や産業排水、農地から流れ出す栄養塩などによって水質が悪化し、生態系が傷つきます。
- 外来種:人為的にもたらされた生物が在来の生き物を圧迫し、食物網や生態系のバランスを崩します。
- 劣化・改変:土地開発や資源の過剰利用により、湿地が埋め立てられたり細分化されたりして、本来の機能を失っていきます。
これらの変化は、生物多様性の損失だけにとどまりません。湿地が傷つけば、炭素を貯蔵する力や、洪水・干ばつを和らげる力も弱まり、気候変動対策や持続可能な開発の達成にも影響が出ます。湿地の保全と再生は、環境保護と経済・社会の安定を同時に考える課題になりつつあります。
都市計画・気候政策・防災に湿地を組み込む
世界湿地の日2025のテーマが強調するのは、湿地を「特別な自然保護区」として遠くに置くのではなく、都市計画や気候政策、防災戦略の中心に組み込んでいくという発想です。
- 都市計画との連携:河川沿いや沿岸部の湿地を、開発一辺倒で埋め立てるのではなく、水害を和らげる緩衝帯として位置づけることで、より安全な都市づくりにつながります。
- 気候政策との連携:森林と同様に、湿地の炭素貯蔵機能を評価し、保全や再生を温室効果ガス削減策の一部として位置づけることができます。
- 防災戦略との連携:堤防やコンクリートの護岸だけに頼るのではなく、自然の地形と植生を活かした「自然を活かす防災」に湿地を活用することも検討されています。
人と自然の双方にとってしなやかな社会をつくるには、湿地をインフラや公共空間の一部として捉え直す視点が重要になっています。
ゾゲ湿地が映し出す過去と未来
長征の行軍を見守ったゾゲ湿地は、20世紀の激動の歴史と、21世紀の環境課題が交差する場所でもあります。人間にとっては一歩進むだけで消耗を強いられる高地の沼沢が、クロヅルやオオカミをはじめとする生き物にとっては命をつなぐ安全な空間になっている。その対比は、自然と人間社会の関係をどう結び直していくかという問いを静かに投げかけます。
2025年の世界湿地の日から少し時間がたった今も、湿地の保全と再生は続いていく長い道のりの途中にあります。遠くの有名な湿地だけでなく、身近な沼地や河川敷、小さな水辺に目を向けることが、気候危機の時代をしなやかに生き抜くための一歩になるのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








