ドイツ銀行が読む中国経済:「意外と健全」と中国株に強気の理由
中国経済に悲観的なニュースが目立つなか、ドイツ銀行(Deutsche Bank)の最新分析は「中国経済はむしろ健全で、中国株は大きく見過ごされている」と強気の見方を示し、世界の投資家の間で話題になっています。
国際ニュースでは中国本土の減速リスクが繰り返し語られてきましたが、このレポートは中国企業の競争力や成長余地を丁寧に検証し、「中国経済はもっとよく見た方がよい」と投資家に問いかけています。本記事では、その主なポイントを日本語で整理します。
ドイツ銀行レポートが描く「中国経済は意外と健全」像
今回のレポートは、香港を拠点とするアジア太平洋担当アナリスト、ピーター・ミリケン氏が執筆しました。トーンは一貫して強気ですが、数字や産業構造を丹念に追いながら、中国本土の経済と市場を評価している点が特徴です。
レポートはまず、中国本土の株式が世界の投資家から「大きく見落とされている」と指摘します。今は不人気に見えるものの、いずれその成長力と収益力が再評価され、その時には「より高いプレミアム(割高な価格)を払わざるを得なくなる」との見方です。
一方で、欧米メディアなどで広がる中国経済への悲観論については、「循環的な減速こそあるが、構造的な成長力は依然として強い」と評価し、単純な悲観シナリオに疑問を投げかけています。
見過ごされてきた中国株の割安感
レポートによれば、中国株は現在、世界の投資マネーから過小評価されている可能性があります。背景として挙げられているのは、次のような要素です。
- 悲観的なニュースや論調が多く、投資家心理が冷え込んでいる
- 政治・地政学リスクへの懸念から、ファンダメンタルズ(企業の実力)以上に割り引かれている
- 中国企業の競争力向上が、欧米の投資家に十分理解されていない
レポートは、「優位なビジネスモデルと高い参入障壁、いわゆる堀を持つ企業を好む投資家は、中国企業を無視することはできない」と強調します。その上で、「経済的に優位だと見られがちな西側企業ではなく、今もっとも広く深い堀を持っているのは中国企業だ」と主張しています。
AIとハイテクが象徴する中国企業の競争力
中国企業の競争力を象徴する例として、レポートは人工知能(AI)分野を挙げています。2024年にある中国企業が公開した大規模言語モデル「DeepSeek」は、シリコンバレーの起業家から「AI版のスプートニク・モーメント(歴史の転機)」と評されました。
レポートは、この事例を単なる話題作りではなく、中国本土の企業が高付加価値分野で存在感を増している流れの一部と位置づけています。特に次のような領域で、中国企業の「コスパ」と品質が無視できない水準にあると指摘します。
- 電気自動車や電池などの先端製造業
- スマートフォンや通信機器などの電子機器
- クラウドサービスやデジタル・プラットフォームなどのサービス産業
レポートは、「多くの製造業分野で、中国企業は価格だけでなく品質の面でも優位に立ちつつあり、その傾向はサービス分野にも広がっている」と分析しています。
5%成長は「減速」か、それとも新しい「奇跡」か
中国経済の議論でよく取り上げられるのが、「成長率の鈍化」です。かつて2桁成長を続けていた時期と比べると、確かに伸びは落ち着いて見えます。
しかし、2025年11月に公表された2024年の公式統計によると、中国の実質GDP成長率は目標としていた5%に到達しました。レポートは、これは中国本土の歴史から見れば控えめな数字に映るかもしれないものの、「米国、日本、欧州連合(EU)など多くの主要先進国と比べれば、なお大きく上回るペースだ」と評価しています。
著者のミリケン氏は、「景気循環の局面としての減速はあるものの、中国は依然として多くの先進国の2倍以上の速度で成長している」と指摘します。そのうえで、しばしば中国経済を日本の「失われた数十年」と重ねて語る見方に疑問を投げかけます。
レポートは、1980年代の日本が「経済の奇跡」と呼ばれた時期でさえ、GDP成長率はおおむね4%前後だったことに触れます。これと対比し、「現在の中国の4~5%成長を『遅い』と見なす不安は、後から振り返ると、むしろ『奇跡』と評価される可能性もある」との見方を示しています。
また、中国が歩んでいる道は、米国やシンガポール、欧州諸国など、他の先進国が過去に経験してきた経路と本質的には大きく異なるわけではない、とも指摘。中所得国の水準で成長が止まる「中所得国の罠」にとらわれているのではなく、多くの製造業やサービス産業で世界的なリーダーになりつつあると分析しています。
人口高齢化と「二つの強み」
中国経済に対する懸念として頻繁に取り上げられるのが、人口の高齢化です。日本の経験になぞらえ、「高齢化が成長を押し下げ、中国も日本のように長期停滞に陥るのではないか」という見方は根強く存在します。
しかしレポートは、中国には他国と異なる二つの強みがあり、それが高齢化のマイナス効果を和らげる可能性があると指摘します。
1. 世界最大規模の自動化とロボット導入
一つ目は、高度な自動化です。レポートによれば、世界の産業用ロボットの約7割が中国本土に設置されているとされ、生産現場の効率化が急速に進んでいます。ロボットや自動化設備の活用によって、労働力人口が減少しても、生産性向上によって一人当たりの所得や付加価値を高める余地があるという見立てです。
2. 一帯一路でつながる若い新興市場
二つ目は、「一帯一路」構想です。レポートは、中国本土の産業力が、BRICS諸国やASEAN各国など、若い人口を抱える新興市場と広く結びついている点に注目します。
中国本土が持つ製造能力やインフラ開発力は、一帯一路を通じて、世界各地の新興市場に展開されています。こうした国・地域は人口構成が若く、エネルギー需要や都市化のポテンシャルが高いことから、中国の高齢化による内需の伸び悩みを、対外経済関係がある程度補う可能性があると、レポートは見ています。
日本の読者・投資家が押さえておきたい視点
このドイツ銀行レポートは、あくまで一つの見方に過ぎませんが、中国経済に対する議論のバランスを取り戻す材料として、注目に値します。日本の読者や投資家にとっては、次のようなポイントが示唆になりそうです。
- 成長率の「水準」だけでなく「相対的な強さ」を見る
中国の4~5%成長は、自国の過去と比べれば減速でも、他の主要国と比べればなお高い水準であることを意識する。 - ハイテク・高付加価値分野での存在感
AIや電気自動車、産業用ロボットなど、中国企業が強みを持つ領域は、日本企業にとっても競争と協業の両面で重要な意味を持つ。 - 人口高齢化の捉え方
高齢化は確かにリスクだが、自動化や新興市場との連携といった要素を合わせて見ることで、より立体的な評価が可能になる。 - センチメントとファンダメンタルズを切り分ける
政治・地政学リスクへの不安や、メディアの論調と、企業の実際の収益力・競争力を分けて考える視点が重要だと、レポートは示唆している。
「悲観一色」ではない中国経済をどう読むか
中国本土をめぐる国際ニュースは、どうしてもリスクや不安に焦点が当たりがちです。そうした情報ももちろん重要ですが、ドイツ銀行の今回の分析は、「同じデータを別の角度から見ると、違う風景が見える」ということを思い出させてくれます。
中国経済の行方は、日本を含むアジアや世界経済にとって、今後も大きな影響を持ち続けます。悲観的なシナリオとあわせて、このような強気の分析にも目を通しておくことは、自分なりの納得感を持って世界を理解するうえで有益だと言えるでしょう。
「読みやすいのに考えさせられる」視点として、このレポートが投げかける問いを、皆さん自身の中国観や世界経済の見方をアップデートする材料として活用してみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








