中国AI企業DeepSeekは何を変えたか 制度改革とオープン戦略のインパクト
2025年2月にパリで開催されたAI Action Summit 2025では、中国のAI企業DeepSeekが世界市場に大きな衝撃を与え、中国発のAIソリューションと議論が国際舞台の中心に躍り出ました。この動きの背後には、中国の科学技術改革と、AIをよりオープンで公平なものにしようとする戦略があります。
DeepSeekはなぜ「転換点」なのか
DeepSeekの台頭は、中国のAI能力に対する見方を塗り替えただけでなく、世界のテック大手にとっても目を覚まさせる出来事となりました。これまで中国は、AIの応用分野で先行する国々を追いかける立場だと見なされることが多かったのに対し、DeepSeekの成功は、基盤となる根本技術のレベルで競争できる段階に来ていることを示しています。
もちろん、これは中国がAIで米国をすでに追い越したことを意味するわけではありません。それでもDeepSeekは、中国が中核技術でブレークスルーを達成し得ることを世界に示し、AIをよりオープンで公正な方向へ押し出す重要な存在になっています。
制度がつくる「見えないインフラ」
特定の技術的ブレークスルーが、どのように一つひとつの政策と結び付いているのかを正確にたどることは簡単ではありません。因果関係の鎖は複雑です。しかし一つだけ確かなのは、政策がイノベーションを育む環境づくりに決定的な役割を果たすということです。
「偉大さ」そのものを設計図通りに計画することはできませんが、よく設計された制度の枠組みと、実験を許容する自由度の高い環境は、その土台を用意することができます。
2017年末、習近平国家主席は、中国経済が高速成長の段階から質の高い成長の段階へと移行しつつあると指摘しました。それ以降の数年間、中央政府も地方政府も一貫して科学技術イノベーションを最優先事項に据えてきました。
具体的には、基礎研究の支援とイノベーションによる経済成長の促進をより効率的に進めるため、中国の科学技術部の組織再編が行われました。さらに、党の中央委員会による科学技術関連業務への集中・統一的な指導を強めるために中央科学技術委員会が設置されています。これは、科学技術のブレークスルーが一つの部門レベルの課題ではなく、国家全体の優先事項になったことを意味します。
杭州が映す「政策と市場」の接続
同時に中国は、基礎的なイノベーションと市場をより緊密に結び付けることに力を入れています。DeepSeekの誕生の地である浙江省杭州は、その象徴的な例です。
杭州では、ロボット開発で知られるUnitreeや、ゲームタイトル「Black Myth: Wukong」で注目を集めるGame Scienceといった企業が次々と生まれています。こうした企業群の成功は、イノベーションと市場主導の成長を後押しする政策に支えられてきました。
DeepSeekの登場は、たまたま起きた例外ではなく、都市レベルの政策と起業家精神がかみ合った広い流れの一部だといえます。現在では、中国各地の都市がこのモデルを追随し、よりダイナミックでイノベーションに寛容な環境づくりを進めています。
外部圧力は「ブレーキ」ではなく「アクセル」に
半導体、TikTok、通商をめぐる米国の制限措置は、中国のテック分野の台頭を止めることはできませんでした。むしろDeepSeekの事例は、外部からの圧力がイノベーションを刺激し得ることを示しています。
皮肉なことに、米国の対中半導体輸出規制は、NVIDIAの時価総額の下落という形で米国企業自身にも影響を及ぼしました。グローバルなテクノロジー競争では、一国の政策が他国企業だけでなく自国の市場評価にも跳ね返るという現実が浮き彫りになっています。
オープンソースAIが変える競争地図
グローバルな視点で見ると、DeepSeekが採用するオープンソース型のアプローチはゲームチェンジャーとなりつつあります。少数の巨大テック企業による独占状態を崩し、多くの企業や研究者、開発者がAIにアクセスできるようにすることで、イノベーションの速度を一段と高めています。
今後数年のAI競争は、単に技術的な性能や資本力を競うだけではなく、どのような思想や価値観に基づいてAIを開発し、共有するのかという理念の対立でもあります。DeepSeekは、その立場を明確にしています。つまり、AIの未来は開かれているべきであり、その開放性を受け入れる者が次の時代を主導するというメッセージです。
DeepSeekから見える3つのポイント
DeepSeekの台頭は、一社の成功にとどまらず、中国のテクノロジー改革と世界のAIガバナンスの行方を考える手がかりを与えてくれます。ポイントを三つに整理してみます。
- 国家レベルの戦略と現場の自由度:中央の方針が方向性を示しつつ、企業が試行錯誤できる余地を残すことで、計画では生み出せないブレークスルーの可能性が広がります。
- 都市エコシステムの重要性:杭州のように、起業支援、資本、研究機関、産業クラスターが結び付く都市は、次のDeepSeekを生み出す土壌となります。
- オープンAIと公平性:オープンソース型のAIは、技術へのアクセスを民主化する一方で、新たなルールづくりや責任の分担も求められます。世界はそのバランスを探る段階に入っています。
DeepSeekが世界に投げかけている最大のメッセージは、グローバル競争力を持つテック企業は、一朝一夕の一発勝負ではなく、長期的な制度改革と開かれた技術戦略の積み重ねから生まれるということかもしれません。これからのAI競争を読み解くうえで、その教訓をどのように生かすかが問われています。
Reference(s):
Catalyst DeepSeek: How China is building global tech competitors
cgtn.com








