AI国際協力は不可欠 傅瑩氏がパリサミットで語った「地政学リスク」
パリで開かれた「AIアクションサミット」で、中国の傅瑩(フー・イン)元外務次官が、人工知能(AI)の力を人間の管理下に保つには各国の協力が不可欠だと強調し、地政学的な対立がAI安全を脅かしかねないと警鐘を鳴らしました。
「AIの力を抑え込むには協力しかない」
傅氏はサミットの講演で、各国がそれぞれ単独でAIに向き合うだけでは、AIが人類を打ち負かす可能性すらあると指摘し、国際協調なしにはAIの暴走を防げないとの見方を示しました。
一方で、現在の中国と米国の関係を踏まえると、AI分野での協力には悲観的な見方が広がっていると述べました。傅氏によれば、過去数年にわたり米国が中国の技術発展を封じ込めようとしてきたことが、科学技術分野の協力ムードを損なっていると批判しました。
傅氏は、21世紀第3の10年を図に描けば、急激に上昇する技術革新のカーブと、下向きに傾く米中関係のカーブが交差しているように見えると比喩を用いて説明しました。人類が最も協力を必要としているこの時期に、一部の大国が協力のプラットフォームを閉ざそうとしていると警戒感を示しました。
米国の「仮想空間のAI」と中国の「実社会のAI」
傅氏は現在のAI開発には二つの大きな潮流があると分析しました。ひとつは、AIが駆動する仮想空間で、米国の先端テック企業や研究者が急速なイノベーションを主導している動きです。もうひとつは、中国が現実の産業分野でAIを縦方向に深く展開し、強力な製造業と巨大な市場を背景に、実社会での応用分野で存在感を高めている動きです。
歴史に照らせば、この二つの力を組み合わせることこそ、安全で責任あるAI活用への最善の道だと期待できるはずだと傅氏は述べました。しかし、ここ数年の状況を見ると、そうした将来像を描くことは難しく、地政学的な干渉そのものがAI安全上のリスクになっていると指摘しました。
中国のAI政策と国際的な連携の動き
傅氏は、中国がAIのリスクを十分認識し、国内外でさまざまな対策を進めていることも紹介しました。中国の国務院は2017年に「新世代人工知能発展計画」を公表し、安全で制御可能かつ持続可能なAIの発展を掲げています。
現在、中国では経済・金融、都市管理、医療、科学研究など幅広い分野でAIの応用が急速に広がっており、多くの分野で人々の暮らしに恩恵をもたらしているといいます。こうした拡大と並行して、中国政府はAIを規律する法律や指針を順次打ち出し、イノベーションの促進とリスクの抑制のバランスを取ることを基本方針としています。AI安全に特化した企業も台頭し、リスク低減のための技術開発や導入が進んでいると説明しました。
国際協調の面では、中国は2023年に「グローバルAIガバナンス・イニシアチブ」を打ち出し、AIは人々に利益をもたらすべきだという原則や、リスクレベルに応じた評価・テスト制度の整備を提案しました。また、英国で発表された「ブレッチリー宣言」にも署名しています。さらに昨年7月1日には、第78回国連総会でAI分野の能力構築に関する中国主導の決議が全会一致で採択され、140を超える国々の支持を得ました。
傅氏は、中国の指導部は米中協力とグローバル・ガバナンスに対して比較的落ち着いた姿勢を維持していると述べました。習近平国家主席は、トランプ氏が米大統領に就任する前の電話会談で、両国には広範な共通利益と協力の余地があると強調していたと振り返りました。
オープンソースか、クローズドか──DeepSeekが映し出した論点
近年、中国のAIプラットフォーム「DeepSeek」などをきっかけに、AIモデルをオープンソースで公開すべきかどうかが国際的な議論となっています。この点について傅氏は、中国の多くのスタートアップ企業はオープンソースを好んでおり、それが透明性を高め、技術の進化を加速させるうえで有効だと説明しました。AIは人々に利益をもたらすべきだという中国の考え方とも一致しているといいます。
その一方で、いくつかの大手企業が開発するAIモデルは、仕組みや安全対策がほとんど公開されておらず、こうした「完全な不透明性」の方がむしろ懸念材料だと指摘しました。
研究者間の対話と「分断を越える」ガバナンス
傅氏によると、中国の科学技術コミュニティのリーダーたちは海外の研究者と密接に連絡を取り合っており、AI安全をめぐる考え方は国境を越えておおむね一致しているといいます。パリのサミットにも各国の専門家や政策担当者、産業界の代表が集まり、AIの機会とリスク、ガバナンスのあり方について集中的な議論が行われました。
日本を含む世界への問いかけ
今回の発言は、AIガバナンスをめぐる最大のリスクが技術そのものだけでなく、国際社会の分断にあることを改めて浮き彫りにしています。AIの利便性を享受しつつ、人権や安全、社会の安定を守るルール作りには、米中を含む主要国の協力が欠かせません。
地政学的な対立が続くなかで、どのように対話と協力のチャンネルを維持するのか。日本を含む各国にとっても、AI時代の外交・産業戦略を考えるうえで避けて通れないテーマになりつつあります。
Reference(s):
Fu Ying: Cooperation only way to keep AI power under human control
cgtn.com







