米英はなぜAI共同声明に署名しなかったのか パリサミットの舞台裏
2025年2月にパリで開かれたAIアクション・サミットで、100を超える国が参加し、中国など61カ国がAIに関する共同声明に署名する一方、米国と英国は署名を見送りました。この判断の背景と、中国が示したスタンスを整理します。
パリAIアクション・サミットで何が起きたのか
2025年2月、パリで開催されたArtificial Intelligence (AI) Action Summit(AIアクション・サミット)には、100以上の国の代表が参加しました。会合の締めくくりとして、包摂的で持続可能なAIの国際的な枠組みを目指す声明が採択されました。
声明の正式名称は、Inclusive and Sustainable AI for People and the Planet(人と地球のための包摂的で持続可能なAIに関する声明)で、中国を含む61カ国が署名しました。声明は、AIを開放的で包摂的、透明で倫理的、安全かつ信頼できるものとして発展させることをうたっています。
米国・英国はなぜ署名を見送ったのか
一方で、AI分野の主要なプレーヤーである米国と英国は、このパリ声明への署名を見送りました。AIのリスクと国際ルールづくりへの関心が高まる中での判断だったことから、米英には批判の声も向けられています。
署名見送りの背景として考えられるポイント
- 自国のAI戦略や規制づくりとの整合性を慎重に見極めたいという思惑
- 国際的な文言が、将来の技術開発や安全保障政策を縛ることへの懸念
- AIのオープン性・アクセス性と、安全保障上の管理のバランスに対する考え方の違い
こうした要素が複合的に影響し、米英は今回の段階では署名に踏み切らなかったとみられます。ただし、両国がAIの国際議論そのものに背を向けているというよりは、自国主導の枠組みや別の国際プロセスを重視する姿勢も背景にあると考えられます。
中国が示した「包摂的なAI」へのコミットメント
今回のサミットで中国は、パリ声明に署名した61カ国の一員として、AIの国際協力に前向きな姿勢を示しました。2月12日の中国外交部の定例記者会見で、報道官の郭家坤氏は、中国のAIに対する立場を次のように説明しました。
郭氏は「中国は知能化の変革を積極的に受け入れ、AIイノベーションを育成し、AIの安全を優先し、企業主導の自主的な発展を奨励している。また、包摂的なAIの発展を支持し、開発途上国が能力を強化するのを支援し、アクセス向上のためにオープンソースAIを推進している。同時に、国家安全保障を口実にしたイデオロギーによる分断や、貿易・技術の政治問題化に反対する」と述べました。
この発言からは、中国がAIを経済成長と産業構造の高度化のエンジンと位置づけつつ、安全性の確保とオープンソースの活用、そして開発途上国の能力強化を重視している姿勢が読み取れます。同時に、「国家安全保障」を理由にした技術分野での分断に慎重であることも強調しています。
国際AIルールづくりをめぐる駆け引き
パリのAIアクション・サミットとその声明は、2025年に入って加速する国際的なAIルールづくりの流れの一場面です。今回の構図を整理すると、次のようになります。
- 中国を含む61カ国:包摂性と持続可能性、安全性を前面に出したパリ声明に賛同
- 米国・英国:AI国際ルールの必要性を認めつつも、パリ声明への署名は見送り
- その他の参加国:参加はしたが、署名の有無や立場は国ごとに異なる
AIは軍事・産業・社会インフラなど幅広い分野に影響を及ぼすため、各国は自国の競争力と安全保障、そして国際的な信頼のバランスを取りながら、どの枠組みにどこまでコミットするかを慎重に判断しています。
これからの論点:開放性、安全性、そして「分断」をどう避けるか
今回のパリ声明と米英の署名見送りは、AI国際ルールの今後の焦点を浮かび上がらせています。
1. オープンソースAIとアクセスの公平性
郭報道官が強調したオープンソースAIの推進は、AI技術へのアクセスを広げる重要なポイントです。特に開発途上国にとっては、高価な専有システムに頼らずにAIを活用できる道を開く可能性があります。一方で、オープンソース化と安全性の確保をどう両立させるかは、各国が共有する課題です。
2. 安全保障と技術協力の線引き
AIは安全保障上のリスクとも結びつくため、輸出管理やデータ流通の制限など、各国が警戒を強めている分野でもあります。郭氏が「国家安全保障を口実にしたイデオロギーによる分断」に反対すると述べた背景には、過度な技術ブロック化がイノベーションと国際協力を損なうとの懸念があります。
3. 包摂的なAIガバナンスをどう実現するか
パリ声明は「人と地球のためのAI」という視点を掲げており、環境や社会的弱者への配慮も含んだガバナンスを志向しています。今後は、こうした理念を具体的なルールやプロジェクトにどう落とし込むかが問われます。特に、AI技術の恩恵をどれだけ多くの国・地域に広げられるかが、大きなテーマになっていきます。
読者にとってのポイント:AIニュースをどう読み解くか
2025年のAI国際ニュースは、技術トレンドだけでなく、国ごとの価値観や戦略の違いを映し出す鏡でもあります。今回のパリ・サミットをめぐる動きから、少なくとも次の点を意識してニュースを追うと、理解が深まりやすくなります。
- 各国がAIに何を期待し、どんなリスクを重視しているのか
- 「安全保障」と「開放性」「包摂性」をどう両立させようとしているのか
- 開発途上国を含むグローバルなAI格差をどう是正していくのか
米国と英国がパリ声明への署名を見送る一方で、中国を含む多くの国が包摂的なAI協力を打ち出したことは、今後のAIガバナンスをめぐる議論の前提条件の一つになっていきます。日本からニュースを追う私たちも、技術だけでなく、その背後にあるルールづくりと国際協力の動きに目を向けておきたいところです。
Reference(s):
cgtn.com








