中国の天文学者が中間質量ブラックホールの有力証拠を発見
中国の天文学者が、球状星団M15から飛び出した1つの星を手がかりに、中間質量ブラックホール(IMBH)の存在を強く示す証拠を示しました。ブラックホール進化の「失われた環」を埋める成果として注目されています。
球状星団M15から弾き飛ばされた「逃走星」
中国科学院の国立天文台(National Astronomical Observatories, NAOC)を中心とする研究チームは、J0731+3717と呼ばれる高速の星を観測しました。この星は球状星団M15から約2,000万年前に弾き飛ばされ、毎秒およそ550キロメートルという極めて高い速度で移動しているとされています。
研究チームは、欧州宇宙機関のガイア宇宙機や、中国のLarge Sky Area Multi-Object Fiber Spectroscopic Telescope(LAMOST)を含む複数の大規模分光観測プロジェクトのデータを解析しました。その結果、この星の化学組成や年齢がM15とほぼ同じであることが分かり、もともとM15に属していた星が外へ放り出されたとみられています。
この成果は、NAOCの研究者らと複数機関の共同研究としてまとめられ、学術誌National Science Reviewで表紙論文として掲載されています。
中間質量ブラックホールとは何か
今回の国際ニュースの焦点である中間質量ブラックホール(IMBH)は、「恒星質量ブラックホール」と「超大質量ブラックホール」のあいだの質量をもつブラックホールを指します。恒星質量ブラックホールは大質量の星が一生の終わりに崩壊して生まれ、超大質量ブラックホールは大きな銀河の中心に存在すると考えられています。
一方で、その中間に位置するIMBHは、ブラックホールがどのように成長し、初期の「種」となるブラックホールがどのように超大質量ブラックホールへと進化したのかを理解するうえで、重要な役割を果たすとされています。これまでIMBH候補はごく少数しか見つかっておらず、その多くも議論の余地が残るものでした。そのため、IMBHの実在は長く天体物理学の大きな謎の1つとなってきました。
逃走星が示した重力の「証拠」
これまでの観測から、M15の中心には太陽の1,700〜3,200倍の質量をもつIMBHが存在している可能性が指摘されてきました。ただし、その重力の影響とされてきた信号は、中性子星が高密度に集まった集団など、別の天体によっても説明できる余地があり、決定的とは言えませんでした。
今回、J0731+3717が示す極端な速度が、その議論に決着をつけつつあります。NAOCと中国科学院大学のHuang Yang副教授は、これほどの高速で星を弾き飛ばすには、非常に接近した連星(ペアになった2つの星)が中間質量ブラックホールのごく近くを通過する必要があると説明しています。
この現象は「ヒルズ機構」として知られています。IMBHに1天文単位というきわめて近い距離まで連星が近づくと、ブラックホールの強い潮汐力によって連星は引き裂かれ、片方の星はブラックホールに捕獲され、もう片方はものすごい速度で外へ弾き飛ばされます。J0731+3717は、まさにそのような過程で放出された逃走星だと考えられます。
ヒルズ機構が働くためには、数千個分の太陽質量が、わずか数天文単位の大きさの領域に集中していなければなりません。これは、中性子星などコンパクトな天体が集団で存在しているだけでは説明が難しく、M15の中心に中間質量ブラックホールがあるという解釈を強く支持するものです。
中国発の観測とデータが果たした役割
今回の研究は、中国科学院の国立天文台(NAOC)のLiu Jifeng所長らが中心となり、複数の機関と協力して進められました。欧州宇宙機関のガイア宇宙機のデータと、中国のLAMOSTを含む大規模分光観測のデータが組み合わされています。
Liu所長らの解析により、逃走星J0731+3717の化学組成や年齢がM15とほぼ同じであることが示され、この星がM15から放出されたものである可能性が強まりました。観測データ同士を突き合わせることで、1つの星の軌道と起源から、見えないブラックホールの存在が浮かび上がってきたと言えます。
今後見込まれる「第2、第3の逃走星」
北京大学物理学院の天文学部を率いるZhang Huawei氏は、今回の成果は始まりに過ぎないと見ています。ガイアやLAMOSTなどの大規模な分光サーベイからのデータが今後も蓄積されていけば、J0731+3717のような逃走星がさらに複数見つかると期待されているからです。
そのような星が増えれば増えるほど、中間質量ブラックホールの存在や、その性質をより確かな形で検証できるようになります。これは、ブラックホールがどのように成長し、初期の種ブラックホールから超大質量ブラックホールへとつながっていくのかという、宇宙の長期的な進化を理解するうえで重要な手がかりとなるでしょう。
読み手への問いかけ:宇宙をどう捉え直すか
今回の発見は、1つの星の異常な速度というミクロな現象から、ブラックホール進化というマクロな宇宙像へとつながる興味深い事例です。スマートフォンの画面越しに宇宙ニュースを追う私たちにとっても、「見えない重力の存在をどう証明するか」という科学のプロセスは、社会のさまざまな課題を考える際のヒントになるかもしれません。
今後もガイアやLAMOSTをはじめとする観測から、新たな逃走星と中間質量ブラックホール候補が報告されていく見込みです。ブラックホール研究の「欠けていたピース」が少しずつ埋まりつつある今、次にどのようなニュースが飛び込んでくるのか、引き続き注目していきたいところです。
Reference(s):
Chinese scientists find proof of intermediate-mass black holes
cgtn.com








