マーベル失速?『キャプテン・アメリカ4』と中国アニメ『哪吒2』が映す潮目
マーベル最新作と中国アニメ大ヒット作、2025年の「明暗」
2025年2月のバレンタインデーに公開されたマーベル・スタジオの最新作『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(以下『キャプテン・アメリカ4』)が、興行と評価の両面で伸び悩みました。一方で、中国のアニメ映画『哪吒2(Ne Zha 2)』は歴代アニメ映画の世界興行収入1位となる快挙を達成し、世界の映画市場の潮目を象徴する対照的な構図が浮かび上がっています。
国際ニュースとしても注目されるこの対比は、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の「失速」と、中国本土の映画産業の台頭、そして観客の好みの変化を読み解く手がかりになりそうです。
『キャプテン・アメリカ4』の評価は「無難で詰め込みすぎ」
『キャプテン・アメリカ4』は、アンソニー・マッキー演じるサム・ウィルソンが新たなキャプテン・アメリカとして前面に立つ作品です。ハリソン・フォード演じるアメリカ大統領サディアス・ロスが、過去の過ちを正そうとしながら暗殺の脅威に向き合うという政治スリラーの要素を持ち、物語のスケールも小さくはありません。
しかし、批評の世界では評価が割れました。映画批評サイトのロッテン・トマトでは、約300本の評論に基づく支持率が49%、平均スコアは10点満点中5.5点にとどまりました。批評家の総評では、マッキーのキャプテン・アメリカとしての演技は評価しつつも、作品そのものは「類型的で、興味を引かないイースターエッグ(小ネタ)の詰め込み過ぎ」により、新たなアベンジャーズのリーダーにふさわしい単独作とは言い難いとされました。
ゲーム・エンタメ系メディアのIGNも、タイトルとは裏腹に「勇敢でも新しくも感じられない」と辛口です。一方で、ニューヨーク・タイムズは本作を「コミック映画の枠を超え、文化的なメッセージも備えた、まずまずの政治スリラー」と評しており、必ずしも酷評一色ではありませんでした。
数字が語るマーベルの「疲れ」
公開直後の興行成績を振り返ると、『キャプテン・アメリカ4』は最初の週末こそ健闘したものの、第2週末には興行収入が前週比68%減の2,820万ドルに落ち込みました。北米(アメリカとカナダ)の累計は1億4,100万ドル、世界全体の興行収入は約2億8,940万ドルに達した段階で、最終的には世界で4億2,500万ドルとされる損益分岐点は越えるだろうとの見方も示されていました。
ただし、その見通しについても、当時の業界関係者からは「今後しばらく大型作品の公開が少ないため、競合作品の少なさに助けられている面がある」との指摘がありました。勢いで押し切るヒットというより、ライバル不在に支えられた数字という見方もあったわけです。
中国本土での状況はさらに厳しいものでした。公開から約2週間時点での興行収入は9,800万元にとどまりました。同じ時期に公開されていた中国本土の大作『唐人街探案1900(Detective Chinatown 1900)』が初週だけで18億元、『哪吒2』が31億元を稼いでいたことを考えると、その差は歴然です。中国のチケット予約プラットフォーム・猫眼(Maoyan)は、『キャプテン・アメリカ4』の最終興行予測を1億2,000万元まで引き下げています。
評価サイトでも苦戦が続きました。中国の大手レビューサイト「豆瓣(Douban)」でのスコアは10点満点中5.2点と低く、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』や『マーベルズ』といった、興行的にも苦戦した先行作品と同じような評価帯に並ぶ結果となりました。
『哪吒2』は歴代アニメ映画1位、観客を惹きつけたものは何か
そんな中、『キャプテン・アメリカ4』とほぼ同じ時期の話題作として世界の注目を集めたのが、中国の長編アニメ映画『哪吒2』です。中国神話の少年英雄・哪吒(ナタ)を題材にしたシリーズの最新作で、2025年の公開後、爆発的なヒットとなりました。
公開から間もない時期には、同作は世界のアニメ映画として歴代興行収入1位の座に就きました。海外公開はまだ限定的であるにもかかわらず、世界興行収入は137億元(約19億ドル)に達し、その後も世界の歴代興行収入ランキングで記録を更新し続けています。
『哪吒2』の成功は、単に中国市場の大きさを示すだけではありません。観客が「見たことのない物語」や「新しい視点」を求めていること、そしてハリウッド以外の映画にもそれに応える力が備わってきていることをはっきりと示しています。
中国本土の観客はなぜ自国映画を選ぶのか
中国本土では、『キャプテン・アメリカ4』はかつてのマーベル作品ほどの熱狂を生み出していません。映画館の観客は、ハリウッドの続編よりも、中国本土の大作やアニメを選ぶ傾向が強まっていると指摘されています。
南京師範大学の映画研究者・張鵬氏は、中国メディアの取材に対し、マーベルが中国本土で勢いを失っている理由について、次のように分析しています。
マーベルの最近の低迷は、「作品の質の低下」「物語のつながりの悪さ」「キャラクター造形のワンパターン化」が重なり、世界的な観客の疲労感を生んでいるためです。
張氏によれば、問題は単に一つひとつの作品の出来にとどまりません。近年のマーベル作品に込められた暗黙の価値観やメッセージが、中国の観客の感覚からはやや距離のあるものになっており、そのギャップが「文化的なずれ」として意識されているというのです。
マーベルの苦戦は、「個人英雄」そのものが拒否されているわけではなく、作品の質、文化的なズレ、市場戦略の誤りが重なった結果です。物語の中で暗示される価値観が、中国の観客の感覚から浮いて見えてしまうことで、距離感が広がっています。
同時に、中国本土の映画そのもののレベルも上がっています。張氏は、観客の多くが、個人のヒーロー像だけでなく、家族や仲間、社会全体を描く「集合的な物語」に惹かれやすくなっていると指摘します。『哪吒2』や『唐人街探案1900』のように、キャラクター同士の関係性やコミュニティ全体を描く作品がヒットしているのは、その一つの表れだと言えます。
ハリウッドに求められるのは「物語の強さ」と「文化への目配り」
では、ハリウッド映画、とくにマーベル作品は今後どう変わる必要があるのでしょうか。張氏は、国や文化を超えて響く映画づくりに不可欠な条件として、「物語の力」と「文化的な感度」、そして「市場への適応力」を挙げています。
良い物語は国境を越えます。ただし、その届け方は時代や社会に合わせて変えていかなければなりません。
これは、中国本土だけでなく、日本や他のアジア諸国、欧米を含む世界の観客にも共通するポイントと言えます。シリーズのブランド力や過去作の成功に頼るだけではなく、一作ごとに完結した魅力的な物語を提示できるかどうかが、今あらためて問われているのです。
- クオリティ第一:視覚効果よりも、脚本とキャラクターの厚みが求められている
- 文化的な文脈:作品に込める価値観やメッセージが、各地域の観客にどう受け止められるかへの配慮
- ブランド頼みからの転換:「マーベルだから見る」から、「この物語だから見る」へのシフト
多様な物語が競い合う時代に、観客としてどう向き合うか
『キャプテン・アメリカ4』と『哪吒2』の対照は、単にハリウッド対中国本土という構図に回収してしまうには惜しいものがあります。むしろ、世界の観客が、より多様で新鮮な物語、文化的背景の異なる視点を求めるようになっていることの表れと受け止める方が自然かもしれません。
2025年の今、国際ニュースとしての映画興行を眺めると、英語圏の大作だけでなく、中国本土、韓国、インド、ヨーロッパ、そして日本の作品も含め、多様な映画が世界の観客の選択肢になっています。マーベル作品の失速を「終わりの始まり」と断じるのではなく、より広がった映画地図の中で、どんな物語が支持されているのかを考えるきっかけとして捉えることができそうです。
私たち観客にできることはシンプルです。話題作に流されるだけでなく、自分の感覚に合う作品を主体的に選び、気になった作品や視点を周囲と共有することです。『キャプテン・アメリカ4』のようなハリウッド超大作と、『哪吒2』のような中国本土発のアニメを見比べてみると、物語のつくり方や価値観の違いが、より立体的に浮かび上がるはずです。
世界の映画市場は今、静かに曲がり角を迎えています。マーベルの失速と『哪吒2』の大ヒットは、その変化を象徴する分かりやすい対比と言えるでしょう。
Reference(s):
Is Marvel losing its grip? When 'Captain America 4' meets 'Ne Zha 2'
cgtn.com







