北京の影絵展でよみがえる伝説の女英雄・穆桂英
北京の南池子美術館で開催中の影絵展「Dian Xi Yi Ben – Shadow Puppetry and Contemporary Art Exhibition」では、古くから中国文化で親しまれてきた伝説の女英雄・穆桂英(Mu Guiying)が、迫力ある現代アートとしてよみがえっています。本記事では、国際ニュースとしても注目したいこの展示と作品の見どころを、日本語でわかりやすく整理します。
北京・南池子美術館で影絵と現代アートが出会う
現在、北京中心部にある南池子美術館では、影絵と現代アートをテーマにした企画展「Dian Xi Yi Ben – Shadow Puppetry and Contemporary Art Exhibition」が開かれています。伝統的な影絵人形の技法を生かしながら、現代のアーティストたちが新しい表現に挑戦しているのが特徴です。
会場には、物語や歴史上の人物を題材にした影絵の作品が並びます。その中でもひときわ目を引くのが、北宋時代の伝説の女英雄・穆桂英を主題にした巨大な影絵作品です。
伝説の女英雄・穆桂英とは
穆桂英は、古代中国・北宋時代を舞台とする民間説話「楊家将」の物語群として知られる「Generals of the Yang Family Legends」に登場する伝説上の女英雄です。物語の中で穆桂英は、勇敢さと知恵を兼ね備えた武将として描かれ、家族や国を守るために戦う存在として語り継がれてきました。
その姿は、長い時間をかけて「揺るがない女性像」の象徴として中国文化の中に根付き、今日に至るまで多くの人々を勇気づける存在となっています。オペラ、ドラマ、絵画など、さまざまな表現のなかで再解釈されてきた穆桂英が、今回は影絵と現代アートのかたちで再び現れました。
高さ3.8メートルの影絵「桃花馬」
南池子美術館の展示の中でも中心的な位置を占めるのが、王氏一門に伝わる影絵芸術の四代目継承者、王海燕(Wang Haiyan)さんが制作した作品「桃花馬(Peach Blossom Horse)」です。
この作品では、高さ約3.8メートルの穆桂英の影絵が、甲冑をまとい、長い槍を手に堂々と立つ姿で表現されています。巨大なシルエットは見る人を圧倒しつつも、細部には繊細な美しさが宿っています。
特徴的なのは、影絵の表面に施された緻密な文様です。紙をくり抜き、透かし模様を作り出す切り紙の技法が用いられており、装飾的な模様が細部にまで丁寧に彫り込まれています。この「透かし」の技法によって、穆桂英の甲冑や衣装、馬の装飾などが、光を通すことで立体感と奥行きを持って浮かび上がります。
会場では、装飾窓から差し込む光が作品の背後から照らされ、穆桂英のシルエットと文様が壁面にくっきりと映し出されます。その姿は、静止した影絵でありながら、今にも動き出しそうな気配を漂わせ、雄々しさと華やかさを同時に感じさせます。
光と影が描く新しいヒロイン像
影絵は、もともと光と影のコントラストを楽しむ芸能です。「桃花馬」では、その基本原理が現代アート的なスケールとともに拡張されています。光が強まると穆桂英の輪郭はより鋭くなり、細かな透かし模様までくっきりと浮かび上がります。見る位置を少し変えるだけで印象が変化し、観客一人ひとりが自分だけの穆桂英像を見出していくような体験になります。
長槍を構えた穆桂英の姿は、伝統的な英雄像であると同時に、現代の感覚から見れば「リーダーシップを持つ女性」「困難に立ち向かう個人」のメタファーとしても読み取ることができます。影絵という一見ノスタルジックなメディアを通じて、現代社会における女性の役割や強さについて静かに問いかける作品だとも言えるでしょう。
伝統芸能と現代アートが生む対話
今回の「Dian Xi Yi Ben – Shadow Puppetry and Contemporary Art Exhibition」は、伝統芸能としての影絵を、そのまま保存するだけでなく、現代アートの文脈の中で再解釈する試みでもあります。
- 伝統の技法(切り紙や影絵人形の造形)
- 現代的なスケール感(高さ3.8メートルの巨大作品)
- 光の演出によるインスタレーション的な見せ方
これらを組み合わせることで、影絵は単なる懐かしい民間芸能ではなく、現代の観客に語りかけるアートとして立ち上がります。スマートフォンで写真や動画を撮りたくなるようなビジュアル性を持ちながら、その背後には千年以上続く物語や価値観が静かに息づいています。
なぜ今、穆桂英に注目するのか
2025年の今、世界各地でジェンダーや多様性をめぐる議論が続いています。そのなかで、古い時代の物語に登場する女英雄が、現代のアーティストによって再び描き出されることには意味があります。
穆桂英は、単に「強い女性」というだけではなく、家族や仲間との関係、責任感、知恵を総合して描かれてきた人物です。この重層的な人物像は、現代の私たちが「リーダーシップ」や「主体性」を考えるうえでも示唆に富んでいます。
影絵という紙と光のシンプルな表現を通して、観客は自分自身の中にある「強さ」や「揺るがなさ」を見つめ直すきっかけを得るかもしれません。北京を訪れる機会があれば、こうした展示を通じて中国の伝統文化と現代アートの交差点に触れてみることは、国や言語を超えて共感できる体験になりそうです。
読み手へのささやかな問いかけ
スマートフォンの画面越しにニュースや作品の写真を見ることが当たり前になった今、遠く離れた北京の美術館で生まれている表現にも、すぐにアクセスできるようになりました。影絵の穆桂英は、そうしたデジタル時代の私たちに、次のような問いを投げかけているようにも見えます。
- 自分にとっての「揺るがないもの」は何か
- 過去の物語を、今の社会でどう生かしていくのか
- 伝統文化を、どのように未来へ手渡していくのか
南池子美術館の巨大な影絵の前に立つと、光と影のコントラストの中に、自分自身の輪郭も浮かび上がってくるような感覚を覚えるかもしれません。ニュースとしての事実だけでなく、そこから生まれる問いや感覚もまた、国際ニュースを読むうえでの大切な要素になっていきます。
Reference(s):
The image of legendary heroine Mu Guiying in shadow puppetry artwork
cgtn.com








