国際ニュースで見る中国アート 若手切り絵作家が古い建物の記憶を描く
建物には、その土地で暮らした人びとの時間や記憶が静かに刻まれています。現在、北京の南池子美術館で開催中の「Dian Xi Yi Ben – Shadow Puppetry and Contemporary Art Exhibition(影絵と現代アート展)」では、若手女性アーティストのChen Fenwan(チェン・フェンワン)さんによる切り絵インスタレーション作品「A Wall」が、古い建物と住民の物語を可視化する試みとして注目を集めています。
南池子美術館で出会う、古い建物のストーリー
この「Dian Xi Yi Ben – Shadow Puppetry and Contemporary Art Exhibition」は、影絵(シャドー・パペット)と現代アートを組み合わせ、伝統と現代をつなぐ作品を集めた展覧会です。その中で「A Wall」は、南中国の広東省にある太平墟(Taipingxu)地区を題材にしています。
太平墟はかつてにぎやかな市場と村として知られ、多くの人びとが行き交う場でしたが、今ではほとんど人が住まなくなった、ほぼ放棄されたエリアになっています。そこに残された古い建物は、地域の文化や暮らしの記憶を静かに抱えたまま、時間の流れにさらされています。
「時間が刻んだ彫刻」としての壁
Chenさんは「太平墟の建物に残された痕跡は、時間が刻んだ彫刻のようであり、ある歴史の瞬間を推し進める一刀のようだ」と語っています。彼女にとって、建物の外壁に残る傷や剥がれは、単なる老朽化ではなく、「ある瞬間の生活」が残した痕跡そのものです。
人が出入りし、ものがぶつかり、ポスターが貼られ、はがされる。その積み重ねの結果として生まれた壁の模様を、Chenさんは「時間の彫刻」として読み解きました。
壁の痕跡を切り絵に写し取るプロセス
インスタレーション「A Wall」がユニークなのは、こうした痕跡をそのまま「図案」として切り絵にしている点です。Chenさんは太平墟の建物を歩いて観察し、外壁の剥がれや傷の形を一つ一つ採集しました。
作品づくりのプロセスは、おおまかに次のように進みました。
- 建物の外壁の剥がれや跡を観察し、その形を記録する
- それぞれの痕跡を、かつてそこに暮らしていた住民のあだ名と対応させる
- 痕跡に名前と番号を付け、紙の上に切り絵の技法で写し取る
こうして、壁の「傷跡」は一枚一枚の紙作品へと置き換えられていきました。アーティストは、匿名だった痕跡に名前を与え、個々の住民の存在と結び付けることで、「誰もいない街」に再び人の気配を呼び戻そうとしています。
600枚を超える紙片がつなぐ太平墟の記憶
最終的に、「A Wall」には600枚を超える壁面の切り絵が集められました。それらは一つひとつが異なる形をしており、別々の壁、別々の生活の断片を表しています。
インスタレーションとして並べられた紙片は、一枚の大きな「壁」のようにも見えます。観客は抽象的な形の連なりを目で追いながら、そこにかつて住んでいた人びとのニックネームや、日々の暮らしの痕跡を想像します。物理的にはほとんど放棄されたエリアとなった太平墟ですが、作品の中では、過去の住民の物語が新たなイメージとしてよみがえります。
古い建物と、私たち自身の記憶
日本でも、かつてにぎわった商店街や市場が静まり返り、古い建物だけが残されている風景は珍しくありません。そこに刻まれた傷や汚れを「時間の彫刻」として見つめ直すChenさんの視点は、私たちが暮らす街の見え方も変えてくれます。
取り壊される前に何かを保存するだけでなく、壁に残った痕跡を一度「見つめ直し」、自分なりの物語を紡いでみる。その行為自体が、地域の記憶を受け継ぐ一つの方法なのかもしれません。北京の南池子美術館で展示されている「A Wall」は、そんな問いを静かに投げかけるアート作品と言えます。
Reference(s):
Works by female paper-cutting artist tells story behind old buildings
cgtn.com







