中国研究チーム、マリアナ海溝の深海生態系を世界初の「地図化」
地球で最も深い海、マリアナ海溝の最深部に、多様な生命が「暮らしている」ことを中国の研究チームが世界で初めて体系的に示しました。深海の理解とバイオテクノロジー、環境科学に新たな扉を開く成果です。
世界最深部の「生きた姿」を初めて描写
最近、学術誌Cellに掲載された中国の研究チームの論文は、地球で最も深いマリアナ海溝の生態系を「世界初の包括的なポートレート」として描き出しました。これまで「生命なき荒野」とも考えられてきた超深海に、実は多様で活発な微生物と動物のコミュニティが存在することを示したのです。
研究チームは、深さおよそ11,000メートルという極限環境にすむ生物が、強烈な水圧、ほぼ凍るような低温、太陽光の届かない完全な暗闇に適応していることを明らかにしました。この「極限に生きるしくみ」は、新しいバイオテクノロジーや環境保全のヒントになると期待されています。
中国の有人深海艇「奮闘者」が支えた探査
今回の成果を支えたのが、中国で独自開発された有人深海潜水艇「奮闘者(Fendouzhe)」です。奮闘者は2020年、マリアナ海溝の最深部付近、およそ11,000メートルに到達し、海底から貴重な試料を採取しました。
研究チームは、この潜航で得られた試料から、
- 1,600点以上の微生物サンプル
- 11種の魚類
を詳細に分析しました。これほど多く、かつ系統立てて集められたデータは、マリアナ海溝では前例がないとされています。
マリアナ海溝は「死の世界」ではなかった
マリアナ海溝は、太平洋西部に位置し、世界の海で最も深い場所として知られています。その深さゆえに、水圧は地表の約千倍、光は届かず、餌となる有機物も限られています。このため長く、そこはほとんど生命のいない「死の世界」だとみなされてきました。
しかし今回の研究は、こうしたイメージを大きく揺さぶります。深海の堆積物や水、そこに棲む魚類を調べることで、微生物が有機物を分解し、さらに上位の生物へとつながる食物網がしっかりと構築されていることが示されたからです。
極限環境に適応した生命のしくみ
微生物コミュニティの多様性
解析の結果、マリアナ海溝の微生物は、エネルギー源も栄養も乏しい環境で生き延びるため、特殊な代謝経路や酵素を持っている可能性があるとされます。例えば、ほんのわずかな有機物を効率よく利用したり、無機物からエネルギーを取り出したりする仕組みです。
こうした性質を持つ微生物は、産業用の酵素や新しい医薬品の素材、環境浄化技術などへの応用が期待されます。極限環境に適応した「タフな酵素」は、高温や高圧、化学的なストレスに強いため、工場での化学反応や資源リサイクルの場面で役立つ可能性があります。
深海魚と食物網
11種の深海魚の分析からは、マリアナ海溝の食物網が、深海だけで閉じているわけではなく、表層から沈降してくる有機物にも支えられていることが見えてきました。海面付近で生まれたプランクトンや有機物が、時間をかけて深海に届き、それを微生物が分解し、さらに魚類へとつながっていく構図です。
この循環は、地球全体の炭素サイクルや気候システムともかかわっています。深海がどのように二酸化炭素や有機物を受け止めるのかを理解することは、長期的な気候変動を考えるうえでも重要な鍵となります。
なぜ今回の発見が国際的に重要なのか
今回の研究は、中国のチームによる成果であると同時に、国際的な深海研究にとっても大きな一歩です。地球規模で見れば、深海はまだほとんど手つかずの「フロンティア」であり、その生態系を理解することは、次のような点で意味を持ちます。
- 地球上の生命の限界や進化の多様性を知る手がかりになる
- 新しい素材や酵素、医薬品など、バイオテクノロジーの資源探索につながる
- 海洋がどのように炭素や汚染物質を蓄積・分解するかを理解し、環境政策の基礎データとなる
深海研究と環境保護、これからのバランス
深海の理解が進む一方で、資源開発や生物資源の利用が急ぎすぎれば、生態系への影響が懸念されます。深海は一度ダメージを受けると回復に長い時間がかかるとされ、慎重なアプローチが必要です。
今回のような詳細な生態系の「地図」は、今後、深海をどのように利用し、どのように守るのかを考える出発点になります。科学的な知見を共有しながら、国際的な協力とルールづくりを進めることが求められそうです。
マリアナ海溝の最深部で確認された、目には見えない微生物から深海魚までの豊かなつながりは、「どんな場所にも生命は道を見つける」ということを改めて示しています。スマートフォンからニュースを読んでいる私たちにとっても、足元の海の深みに広がるもう一つの世界を想像するきっかけになりそうです。
Reference(s):
China unveils groundbreaking insights into Earth's deepest ecosystem
cgtn.com








