中国最高人民法院の業務報告 2024年司法の焦点
中国の全国人民代表大会で、最高人民法院の張軍院長が2024年の司法の動きをまとめた業務報告を行いました。暴力犯罪や金融犯罪、汚職、知的財産権、信用制度など、中国の法制度とビジネス環境に直結するポイントを、日本語で分かりやすく整理します。
全人代で最高人民法院の業務報告を審議
報告は、第14期全国人民代表大会第3回会議の第2回全体会議で、最高人民法院(SPC)の張軍院長によって提出されました。内容は主に昨年(2024年)の司法の動きと、その特徴を示す各種の統計に基づいています。
報告によると、中国の裁判所は昨年、重大な暴力犯罪や金融犯罪、汚職事件などに対して「断固とした行動」を取る一方、企業活動や知的財産権の保護、外国関係事件の処理にも力を入れたとされています。
暴力犯罪への厳格対応と死刑判決
まず注目されるのが、凶悪な暴力犯罪に対する対応です。報告によれば、2024年に中国の裁判所が終結させた殺人などの重大暴力犯罪に関する事件は4万9,000件で、前年から5.8%減少しました。10年前と比べると28.7%の減少となり、長期的にも減少傾向が続いていることがうかがえます。
一方で、法と倫理の「底線」を揺るがすような凶悪事件に対しては、厳しい姿勢を維持しています。報告は具体例として、広東省のスポーツセンターで車を群衆に突入させ多数の死傷者を出した范偉球被告と、江蘇省の職業学校で8人を殺害し17人にけがを負わせた徐家進被告の2件を挙げ、いずれも死刑判決が言い渡されたと説明しました。
こうした判決は、犯罪抑止と市民の安全確保に一定の役割を果たしていると報告は評価しています。
金融犯罪の取り締まりと企業の権利保護
金融分野でも、犯罪の取り締まりが重点となりました。2024年に全国の裁判所が終結させた金融関連の事件は266万件で、前年から12.3%減少しました。全体の件数は減る一方で、違法な資金調達やマネーロンダリングに関する事件は2万5,000件と、前年より5.3%増えています。
これは、金融秩序を揺るがす行為に対する監視と摘発を強めつつ、通常の金融・経済活動については紛争解決や調整を通じて処理している姿を示しているといえます。
同時に、報告は「営利目的の違法な越境執行」や、経済紛争に刑事手段を乱用するような行為に対する監督を強めたと強調しました。これは、企業や起業家の権利を守り、「法に基づくビジネス環境」をつくる取り組みの一環と位置付けられています。
国有企業と民営企業の双方について、合法的な権益は平等に保護する一方で、違法行為は厳しく処罰したとしています。昨年は財産権に関わる事件46件が再審の結果、是正され、そのうち72人の関係者のうち13人が無罪となりました。誤判の是正を進める姿勢を示す数字といえます。
汚職・職務犯罪の摘発が2割超増加
汚職や職務犯罪に対する司法の対応も、2024年は大きく動きました。報告によると、収賄や横領などの職務犯罪に関する事件は全国で3万件が終結し、前年から22.3%の増加となりました。
収賄側だけでなく、賄賂を提供した側も合わせて処罰対象としており、賄賂に関する事件は2,473件が終結したとされています。汚職構造全体を断ち切る狙いがうかがえます。
具体例としては、男子サッカー中国代表の元監督である李鉄氏に対し、20年の刑が言い渡されたなど、スポーツ界の高官を含む一連の汚職事件にも触れています。スポーツとビジネス、行政が交錯する領域でも、司法が制裁の役割を果たしていることを印象付ける内容です。
外国関係事件と投資環境へのメッセージ
報告は、外国人や外国企業が中国の裁判所を選択するケースが増えていると指摘しました。外国投資法に基づき、外国投資を含む企業紛争の重要案件を処理したことが、中国を投資先として選ぶ魅力を支える一因になっていると説明しています。
2013年以降、中国の各級裁判所が外国要素を含む第一審の民商事事件として終結させた件数は約41万7,000件に達し、当事者は100以上の国や地域に広がっています。国際的な商取引に関する紛争解決の場として、中国の司法制度が一定の存在感を高めていることが数字から見て取れます。
国際ビジネスに関わる日本企業や日本在住者にとっても、こうした外国関係事件の動きは、契約や紛争解決のリスクを考えるうえで押さえておきたいポイントです。
信用ブラックリストが10年ぶりに減少
市場秩序や取引の信頼性に関わる数字として、信用情報の「ブラックリスト」の動きも報告されました。2024年に新たにリスト入りした信用失墜者は約246万人で、前年から23.4%減りました。これは、制度が始まった2013年以来初めての減少とされています。
一方で、「信用修復」の仕組みにより市場への復帰が認められた人は約282万人で、前年より35.4%増加しました。単に排除するだけでなく、一定条件を満たせば再び市場で活動できる道を広げていることになります。
報告は、信用失墜者の減少は、法や契約を守る意識の向上と、法執行・司法環境の改善を反映していると分析しています。企業にとっては取引先の信用リスクを判断しやすくなり、個人にとっては行動が信用情報として可視化されるというプレッシャーにもつながる制度です。
知的財産権とAIをめぐる司法の役割
技術と産業の競争力に直結する知的財産権(IPR)の保護も、報告の重要な柱です。2024年、中国の裁判所は次世代情報技術、高度製造業、バイオ医薬、新素材などの分野で、知的財産権の司法保護を強化したとしています。
最高人民法院は、人工知能(AI)関連の知財紛争も効果的に処理したと報告しました。AIを合法的に活用する取り組みを支えつつ、AIを使った権利侵害には制裁を科すというスタンスを示した形です。生成AIやデジタルコンテンツを巡る争いは、今後さらに増えることが予想されます。
2024年に各級裁判所が終結させた知的財産権関連事件は49万4,000件で、前年から0.9%増加しました。件数の微増は、権利保護へのニーズの高まりと同時に、紛争も増えている現実を映し出しています。
数字から見える中国司法の今と今後の論点
今回の業務報告に示された数字からは、次のような傾向が読み取れます。
- 凶悪犯罪、金融犯罪、汚職などに対する厳格な処罰の継続
- 企業の財産権保護や誤判是正、信用制度の運用によるビジネス環境整備
- 外国関係事件と知的財産権・AI分野での司法の役割拡大
同時に、犯罪件数の減少と、汚職・職務犯罪や一部の金融犯罪の増加という、異なる動きが共存していることも見えてきます。これをどう評価するかは、統計の裏側にある社会や経済の変化をどう読むかによって変わってきます。
グローバルなビジネスやテクノロジーに関わる読者にとっては、中国の司法の方向性はリスク管理と機会の両方に影響します。暴力犯罪や汚職への厳罰化、企業の権利保護、知財・AIのルールづくりなど、今回の報告に示された数字を手がかりに、自分の業界やビジネスにどのようなインパクトがあり得るのか、一度立ち止まって考えてみるタイミングかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








