中国・深セン発 AIが変える医療現場 心疾患患者の歯科治療もサポート
中国・深センの病院で、人工知能(AI)を活用して複雑な持病を抱える患者の診療を支える取り組みが進んでいます。心疾患を持つ57歳の男性のケースから、AIが医療サービスをどう変えつつあるのかを見ていきます。
心疾患を抱える患者の「歯の悩み」にAIが対応
深センに住む57歳の Li Hualiang さんは、高血圧と心疾患を抱えながら、歯のインプラント(人工歯根)治療を受けたいと考えていました。ただし、心臓への負担を心配して、どこから相談すべきか迷っていたといいます。
Li さんが向かったのは、深センの羅湖人民医院(Luohu People's Hospital)です。この病院には、複雑な症状を持つ患者を案内するためのAIガイダンスシステムが導入されています。
病院に到着した Li さんは、まずAIシステムに自身の症状や持病について説明しました。すると、AIはその情報をもとに適切な診療科を判断し、心臓を専門とする循環器内科での受診を勧めました。Li さんはその案内に従い、スムーズに診察予約を完了させることができました。
診察当日、循環器内科の診察室に入ると、医師のパソコン画面にはすでに Li さんの症状や既往歴(これまでの病気の履歴)が表示されていました。医師が短時間の問診を行うと、AIシステムはわずか約8秒で診断の候補や考えられる状態を提示しました。
さらに、Li さんが希望している歯のインプラント治療について、医師はAIツールを使って手術に伴うリスクや注意点を確認しました。心疾患を抱える患者にとって、こうした事前のリスク評価は重要であり、AIがその検討を後押しした形です。
16分野・63シナリオ 約450のAI製品が医療現場に
羅湖人民医院がある深センは、医療分野でのAI活用を進める先進的な地域として位置づけられています。これまでに、医療サービスに関わる16のカテゴリーで63種類の場面(シナリオ)にAIを組み込み、さまざまなレベルの医療機関において、合計約450種類のAI製品(診療支援システムなど)が導入されているとされています。
これらのAIは、受付・予約、診断の支援、治療方針の検討、リスクの評価など、多様なプロセスをサポートしています。今回のLi さんのケースのように、
- どの診療科にかかればよいかを案内する
- 医師が診察を始める前に、患者情報を整理して提示する
- 合併症リスクをふまえた治療の注意点を示す
といった役割を担うことで、患者と医療者双方の負担を軽減しようとしています。
専門分野の「すき間」を埋めるAIの役割
羅湖人民医院の心血管内科(循環器)の責任者である Pei Xiaoyang 医師は、AIの役割について次のように説明しています。
患者はしばしば複数の病気を同時に抱えており、ある分野の専門医であっても、隣接分野や別の診療科の薬・治療に詳しくない場面があります。Pei 医師によれば、AIはそうした「専門のすき間」を補い、多様な薬や治療法の情報を提示することで、より精密な医療につながるといいます。
例えば、心疾患を抱える患者が歯科治療を受ける場合、
- 心臓への負担になり得る処置や薬剤は何か
- どの程度のリスクが考えられるのか
- 事前に調整すべき薬や生活習慣はあるか
といった点を総合的に検討する必要があります。AIは、こうした情報を短時間で整理し、医師に判断材料を提供することで、「より安全で患者に合った治療」を後押ししているといえます。
これからの医療サービスはどう変わるのか
医療分野でのAI活用が注目されるなか、深センの取り組みは、AIがどのように患者の受診体験を変えうるのかを示す具体的な事例となっています。今回のケースから見えてくるポイントを整理すると、次のようになります。
- AIが「最初の相談役」になる:症状や持病を入力することで、適切な診療科への案内がスムーズになります。
- 診察前の情報共有が進む:医師が診察を始める前に、患者の情報がAIによって整理されているため、限られた診療時間を有効に使うことができます。
- 複数の持病をふまえた治療方針の検討:心疾患と歯科治療のように、異なる領域が関わるケースでも、AIが横断的な情報を提供し、リスクや注意点の見落としを減らすことが期待されます。
2025年現在、AIが医療現場で果たす役割はまだ発展途上ですが、深センのように具体的な導入が進む地域では、すでに患者の受診プロセスや医師の意思決定のあり方が変わり始めています。
今回紹介したLi さんの事例は、「AIが医師を置き換える」のではなく、「AIが医師と患者を支えるパートナーとして機能する」姿を映し出しています。こうした動きは、今後の日本やアジア各地の医療サービスを考えるうえでも、一つの参考例になりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








