中国の半侵襲ブレインマシンインターフェース、失語症患者が中国語を「発話」
中国の半侵襲ブレインマシンインターフェース、失語症患者が中国語を「発話」
脳とコンピュータをつなぐブレインマシンインターフェース(BMI)で、中国・北京の研究チームが失語症の患者に中国語でのコミュニケーション能力を取り戻し、麻痺した患者がパソコンやロボットアームを操作できるようになったと発表しました。
中国語で「話す」ことに成功した半侵襲型BMI
発表を行ったのは、北京の中国脳科学研究院(CIBR)、首都医科大学附属宣武医院、NeuCyber NeuroTech(北京)による共同研究チームです。チームは、全脳皮質を対象とした半侵襲型BMIの臨床試験を複数例で実施し、失語症の患者が中国語を出力できるようになったと報告しました。
このシステムは、脳の広い範囲から信号を読む多数のチャンネルを備えています。初期の患者群のデータによると、手術後も98%以上のBMIチャンネルが機能しており、長期的な安定性への期待も高まっています。
脳表に薄いフィルム電極、ワイヤレスで高精度計測
研究チームが用いたのは、「NeuCyber Matrix BMI System」と呼ばれる半侵襲型のワイヤレスBMIです。薄く柔らかいナノ加工フィルム状のマイクロ電極を使い、半侵襲型のデバイスとしては128チャンネルの高い信号密度を実現しています。
電極は、脳の最外層を覆う硬膜の外側に配置されます。脳内に電極を刺し込む侵襲型BMIとは異なり、脳組織に直接触れないため、神経へのダメージや炎症を抑えつつ、高品質な脳信号(ECoG=皮質脳波)を捉えられるのが特徴です。
頭蓋骨の表面にはコインサイズの制御・信号送信用デバイスも埋め込まれました。このデバイスが、電極で記録された脳信号を処理し、近距離無線を使って外部のコンピュータに送信します。電源は近距離無線給電によって供給され、ケーブルなしで長時間の利用が想定されています。
ALSで話せなくなった患者、3時間で基本的な意思表示
宣武医院の趙国光院長が率いるチームは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で発話能力を失った患者を対象に、世界で初めて中国語に対応したワイヤレスBMIの埋め込み手術を実施しました。手術は脳神経外科用ロボットの支援を受けながら行われ、言語処理を担う左側の脳表の硬膜上に電極フィルムを正確に配置しました。
患者は手術後、3月14日から言語デコーディング(脳信号から言語を読み取る)訓練を開始しました。訓練開始からわずか3時間で、よく使われる62語についてのリアルタイム解読精度が34%に達し、その後は52%にまで向上したと報告されています。
システムは、患者の脳信号から一文字ごとに中国語を解読し、その遅延は1文字あたり100ミリ秒未満に抑えられています。現在までに解読された例として、次のような文が挙げられています。
- 「水が飲みたい」
- 「何か食べたい」
- 「今日はとても気分がいい。家族と散歩に行きたい」
これにより、患者は脳信号だけで基本的な意思を周囲に伝えられるようになりました。
高集積チップとAIが中国語をリアルタイム解読
CIBRの羅敏敏所長によると、この半侵襲型BMIは主に三つの技術で成り立っています。
- 多数の脳信号を低消費電力で処理する高集積マイクロホスト(小型コンピュータ)
- 低消費電力と高速データ伝送を両立させる新世代の短距離無線通信技術
- 細かな手の動きや中国語の言語情報を高精度に解読する、リアルタイム対応のアルゴリズム
さらに、研究チームは大規模言語モデル(大量の文章データで学習したAI)を活用した適応型の誤り訂正アルゴリズムも組み込んでいます。脳信号からの推定が完全でなくても、文脈から意図を補い、より自然な文章に近づける仕組みです。
NeuCyber NeuroTech(北京)の李媛氏は、「BMI技術は、話すことができない人にコミュニケーションの手段を取り戻す助けになります。合成音声技術を組み合わせれば、頭の中で思った言葉を音として周囲に届けることも可能です」と語っています。
麻痺患者の支援から難治性疾患の治療応用へ
今回のシステムは、言語だけでなく運動機能の代替にも使われています。麻痺した患者が、BMIを通じてコンピュータやロボットアームを操作することに成功しており、運動機能の喪失を補うツールとしての可能性も示されています。
趙院長は、半侵襲型BMIが失語症の患者に対する長期的で安定した言語リハビリテーションの新しい選択肢になり得るとした上で、今後は難治性てんかん、脊髄損傷、脳卒中、ALS、失語症など、さまざまな神経疾患への応用を探っていくとしています。
「読みやすいのに考えさせられる」視点
脳とコンピュータを直接つなぐBMIは、世界各地で研究開発が進む分野です。今回の中国における成果は、失われたコミュニケーション能力を取り戻す具体的な手段が現実になりつつあることを示しています。
一方で、脳内情報の扱い方やプライバシー、誰がどのような目的でこの技術を利用できるのかといった、社会的な論点も今後ますます重要になります。テクノロジーの進歩を追いかけるだけでなく、「その技術をどのように使うのか」という視点を持つことが、私たち一人ひとりに問われているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








