中国で深刻化する睡眠障害 拡大する睡眠健康産業と医療のいま
中国で睡眠障害に悩む人が増え、専門外来の整備と「睡眠ビジネス」の拡大が同時に進んでいます。本記事では、2025年の最新データにもとづき、中国の睡眠健康とヘルスケア産業の動きを日本語で整理します。
大学院生活で崩れた睡眠リズム
中国政法大学とも訳される China University of Political Science and Law(CUPL)で博士号を取得したトニー・マーさんは、4年間にわたり慢性的な睡眠障害に苦しみました。
博士論文の執筆のために連日深夜まで作業を続けた結果、体内時計が大きく乱れ、
- 寝つきが悪い
- 夜中に何度も目が覚める
- 睡眠時間が短い
といった状態が続いたといいます。
今年、マーさんは中国北西部・寧夏回族自治区にある銀川市第一人民病院(First People's Hospital of Yinchuan)を受診しました。医師はうつ病や不安障害などの心理的要因を除外したうえで、漢方をベースにした睡眠薬と生活習慣の見直しを提案しました。
約1か月の治療の後、マーさんはようやくぐっすり眠れる感覚を取り戻したといいます。
「病院で相談する」選択肢が広がる
マーさんのケースは、中国で睡眠障害を医療の問題として捉える意識が広がっていることを象徴しています。ソーシャルメディア上では、睡眠外来を受診した経験や診断内容、治療の経過を共有する投稿が数多く見られ、睡眠健康をめぐる議論が活発になっています。
中国の国家衛生健康委員会トップの雷海潮氏は最近、2025年末までに、中国のすべての地級市で睡眠とメンタルヘルスの外来を整備する方針を明らかにしました。すでに多くの公立病院がここ数年のあいだに、こうした専門外来を立ち上げています。
2025年「中国睡眠健康調査」が示す厳しい現実
中国睡眠ビッグデータセンターが公表した「2025年中国睡眠健康調査報告」によると、中国の18歳以上の成人の平均睡眠時間は、1日あたり7.06〜7.18時間にとどまっています。
さらに、回答者の48.5%が何らかの睡眠障害を抱えているとされています。報告書は、
- 男性よりも女性のほうが睡眠問題の影響を受けやすい
- 年齢が上がるほど、睡眠の質の低下や障害が増える
- 若い世代ほど就寝時刻が遅い
といった傾向も示しています。
具体的には、2000年以降に生まれた人の57.3%、1990年代生まれの49.4%が、深夜0時を過ぎてから眠りにつくとされています。中国でも夜更かし世代の広がりが、睡眠負債の一因になっていることがうかがえます。
専門的な診断が必要な睡眠障害
一口に睡眠障害といっても、その中身は多岐にわたります。代表的なものとして、
- 不眠症
- 睡眠時無呼吸症候群(いびきや呼吸停止を伴うもの)
- 体内時計の乱れによる概日リズム睡眠障害
などが挙げられます。
正確な診断には、脳波や呼吸、心拍などを一晩かけて測定する終夜睡眠ポリグラフ検査などの専門的な検査機器が必要になる場合もあります。
医師が警鐘 放置すれば全身の病気リスクに
中国中部・湖南省の長沙中央病院で神経内科の主任医師を務める何国華(He Guohua)氏は、中国メディアCMGに対し、睡眠障害がもたらす健康リスクについて警鐘を鳴らしています。
何氏によると、睡眠障害は、
- 記憶力の低下
- 反応速度の鈍化
- 集中力の低下
などの認知機能の障害を引き起こし、日常生活や仕事の効率に悪影響を与えるおそれがあります。
さらに、代謝のバランスが崩れることで、
- 高血圧
- 肥満
- 心血管疾患のリスク増大
- 免疫力の低下による感染症や腫瘍のリスク増加
といった慢性的な健康問題につながる可能性も指摘しています。
急成長する睡眠健康産業 2030年に1兆元超えの予測
こうした健康不安と受診ニーズの高まりを背景に、中国の睡眠関連市場は急速に拡大しています。前述の報告書によれば、睡眠健康産業の市場規模は、
- 2016年:2,616.3億人民元(約360億ドル)
- 2023年:4,955.8億人民元(約680億ドル)
と、7年間でほぼ倍増しました。2023年の市場規模は前年から8.6%増加しており、このペースが続けば2030年には1兆人民元の大台を超えるとの予測も示されています。
市場の拡大にともない、睡眠をめぐる商品・サービスも多様化しています。報告書は、
- メラトニンなどのサプリメント
- 非侵襲的な人工呼吸器(在宅で使う睡眠時無呼吸治療器など)
- マウスピース型の口腔装置
- ノイズキャンセリング機能付き耳栓
- 睡眠状態を記録するスマートリストバンド
- 眠りをサポートするスマートフォンアプリ
といった分野で需要が伸びていると指摘します。産業全体として、より高度なデジタル化、専門化、そして他業種との連携が進んでいるとされています。
よく眠るために必要なことは何か
中国では今、睡眠障害を抱える人の増加と、それに応える医療体制・産業の整備が同時に進んでいます。個人のレベルでは、
- 眠れない状態が続く場合は、早めに専門外来で相談する
- アプリやサプリメントに頼りすぎず、生活習慣の見直しと組み合わせる
- 仕事や学業のための徹夜や夜更かしをどこまで許容するかを見直す
といった視点が重要になりそうです。
一方で、睡眠をめぐる市場が急成長する今こそ、本当に健康につながるサービスや製品は何かを見極める目も求められます。中国の動きは、忙しい日常を送る日本の読者にとっても、自分の睡眠を見つめ直すヒントになりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








