嫦娥6号サンプルが示す月最古の巨大クレーターの年齢は42.5億年前
中国の月探査機嫦娥6号が月の裏側から持ち帰ったサンプルの分析により、月で最も古く最大の衝突クレーターである南極-エイトケン盆地が約42.5億年前に形成されたことが、中国の研究チームによって示されました。月と太陽系初期の歴史を組み立て直すうえで重要な成果です。
- 南極-エイトケン盆地の形成年代を約42.5億年前と精密に決定
- 嫦娥6号が月の裏側から持ち帰ったサンプルを詳細分析
- 月と太陽系初期の「時間軸」を見直すための新たな基準点に
研究の概要:嫦娥6号サンプルから読み解く月の初期史
中国科学院地質地球物理研究所のChen Yi氏らのチームは、嫦娥6号が持ち帰った月のサンプルを詳細に分析し、南極-エイトケン盆地(South Pole-Aitken basin、SPA盆地)の形成年代を約42.5億年前と精密に求めました。この成果は学術誌National Science Reviewに掲載されています。
SPA盆地は月の裏側に広がる巨大な衝突盆地で、月で最も古く、最も大きい衝突痕と考えられてきました。太陽系が誕生してから最初の数億年間に、多数の小天体が各地を激しく衝突した時期に形成されたとみられていますが、その正確な年齢を求めることは長らく難題でした。
これまでSPA盆地の年代は、クレーターの数を数えるなどの間接的な推定に頼っており、おおよそ42.6億〜43.5億年前という幅のある数値にとどまっていました。研究者たちは長年、この盆地そのものの岩石サンプルを手に入れ、より確かな証拠を得ることを待ち望んできました。
嫦娥6号がもたらした初の直接サンプル
中国の嫦娥6号ミッションは、SPA盆地から初めて岩石や土壌を地球に持ち帰ることに成功しました。探査機は2024年5月3日に打ち上げられ、同年6月25日には帰還カプセルが中国北部に着地し、月の裏側から計1,935.3グラムのサンプルを届けました。
嫦娥6号着陸機はSPA盆地内のアポロ盆地の海(マーレ)玄武岩地域に着陸しました。このエリアはSPA衝突の後も複数回の衝突や玄武岩の噴出を経験しており、異なる時代の物質が混ざり合っています。そのため、サンプルからSPA盆地形成の年代だけを取り出すのは容易ではありませんでした。
1,600個の粒から20個を選び出す地道な分析
Chen氏らは、約5グラムの月試料の中に含まれていたおよそ1,600個の岩片を詳細に調べ、その中から衝突起源の特徴を持つ20個の代表的なノーライト(斜長石と輝石を主体とする岩石)を特定しました。これらのノーライトには、衝突の熱で溶けた物質が一度液体になり、再び結晶化したことを示す組織や、特徴的な鉱物組成・化学組成が見られました。
研究チームは、これらの岩片の中に含まれるジルコン(ジルコニウムを含む鉱物)に注目し、鉛同位体を用いた年代測定(Pb–Pb年代測定)を行いました。その結果、42.5億年前と38.7億年前という二つの異なる衝突イベントの証拠が浮かび上がりました。
より古い42.5億年前のノーライトは、同じ巨大な衝突溶融体の中で異なる深さにおいて結晶化したとみられます。SPA盆地に関する広範な地質調査や岩石学的な比較分析も踏まえ、研究チームは42.5億年前という年代がSPA盆地を生んだ大衝突そのものの時期を示す可能性が最も高いと結論づけています。
太陽系誕生から3.2億年後の衝突が意味するもの
今回の研究によって、月最大の衝突盆地は太陽系の始まりから約3.2億年後、すなわち42.5億年前に形成されたことを示す、初めての直接的なサンプルベースの証拠が得られました。
月面の地形の年齢は、表面に刻まれたクレーターの数をもとに推定されます。このクレーター年代学は、月だけでなく火星や小惑星など他の天体の年齢を見積もる際の基準にもなっています。しかし、その基礎となるいくつかのアンカー年代が不確かだと、全体の時間軸も揺らいでしまいます。
SPA盆地の年代が42.5億年前と定まったことで、月の初期進化の時間配列をより精密に組み立てることができるようになり、太陽系の初期に起きた激しい衝突の歴史を描き直す手がかりにもなります。
これからの月探査と惑星科学への広がり
月の裏側からのサンプルリターンは技術的にも科学的にもハードルが高く、嫦娥6号がもたらしたデータは今後も長く分析が続けられるとみられます。今回明らかになったSPA盆地の年代は、その第一歩に過ぎません。
今後、月の他地域や他の天体からもサンプルが集まり、年代測定が進むことで、太陽系の初期環境や、岩石惑星がどのように現在の姿に至ったのかという問いに、より立体的な答えが与えられていくと考えられます。
月探査は、中国をはじめ複数の国と地域がそれぞれの計画を進める国際的な取り組みになりつつあります。サンプルを持ち帰って詳細に分析するサンプルリターンは、その中でもとりわけ多くの知見をもたらす手法です。今回の成果は、今後の世界各地の探査計画にとっても重要な比較データとなっていきそうです。
Reference(s):
Chang'e-6 samples date moon's oldest impact crater to 4.25b years ago
cgtn.com








