BYDの新型電池は「DeepSeekモーメント」か EV充電5分で400kmの衝撃
2025年12月の今週、中国の電気自動車(EV)大手BYDが、5分の急速充電で約400キロ走行できるとする新型電池と充電システムを発表しました。ガソリン車の給油に近い時間で充電が完了する可能性があり、世界のEV普及を左右しかねない技術として国際的な注目を集めています。
5分で400km、「充電不安」解消を狙う新システム
BYDが今回発表したシステムは、わずか5分の充電で約400キロメートルの走行を可能にするとされています。量産されているEVとしては最速の充電速度だと同社は説明しており、充電時間そのものの常識を塗り替えるポテンシャルがあります。
BYDの会長Wang Chuanfu氏は発表イベントで、この新型電池によって多くのユーザーが抱える「充電不安」を解消できると強調しました。ガソリン車のドライバーもEVのドライバーも、給油・充電スタンドで同程度の航続距離を得るのに必要な待ち時間は5〜8分ほどだとし、EVでも同じ感覚で使える世界を目指すと語っています。
海外アナリストはどう見ているか
調査会社バーンスタインのシニアアナリストであるNeil Beveridge氏は、英フィナンシャル・タイムズに対し、BYDの新たな充電システムは現時点で市場最速だと評価しました。そのうえで、この技術が広く採用されれば、EV普及の最大のハードルの一つとされてきた航続距離と充電に対する不安が取り除かれ得ると指摘しています。
"DeepSeekモーメント"とは何を意味するのか
今回のニュースを伝えた米テックメディアAxiosは、BYDの新型電池を、AI分野で話題となったDeepSeekになぞらえ、EV業界にとっての"DeepSeekモーメント"になり得ると表現しました。
数カ月前、同じく中国企業のDeepSeekは、既存の大手であるOpenAIなどに挑戦し得る強力なAIモデルを、はるかに小さなコストで提供し得る存在として一気に世界の注目を集めました。少ない資源で既存の構図を揺さぶる技術革新の象徴として、DeepSeekの名前は語られています。
AxiosがBYDの新技術を"DeepSeekモーメント"と呼ぶ背景には、EV業界でも同じ構図が見えてきたからだと考えられます。すなわち、EV普及のボトルネックとなってきた「充電時間」「航続距離」という課題に対し、中国企業がより効率的な技術で突破口を開こうとしている、という見立てです。
テスラとの比較、中国EV各社の動き
ロイターは、BYDの新システムによる1,000キロワット級の充電速度は、現在最大500キロワットとされるテスラのスーパーチャージャー網の約2倍にあたると比較しています。数字だけ見ても、そのインパクトの大きさがうかがえます。
英ガーディアン紙は、より手頃な価格帯のEVを中心に、テスラがBYDをはじめとする中国メーカーからの競争圧力に直面していると指摘しています。価格に加えて、充電速度という分かりやすい性能指標でも差がつけば、世界市場での勢力図に影響が出る可能性があります。
一方、中国の他のEVメーカーも急速に追い上げています。Nio(ニオ)、Li Auto(リーオート)、Xpeng(シャオペン)、Zeekr(ジーカー)といった各社は、独自の充電ネットワークの拡大を進めており、近い将来、同様の超高速充電技術を投入する可能性があるとみられています。
たとえば、Zeekrは昨年、800ボルトの高電圧プラットフォームを採用し、セダン「Zeekr 007」ではバッテリー残量を10%から80%までおよそ10分で充電できるとしています。同様に、Li AutoやXpengも、10分の充電で400キロメートル超の走行を可能にする技術を提供しており、各社が「10分充電」のラインを争うなか、BYDは「5分充電」で一歩抜け出した形です。
EV普及の「最後の壁」は崩れるか
EV購入をためらう理由としてよく挙げられるのが、「一回の充電でどれだけ走れるか」と「長く充電を待たされるのではないか」という不安です。Neil Beveridge氏が指摘するように、もしBYDの新しい充電技術が広く普及すれば、この「航続距離・充電時間の不安」は大きく和らぐ可能性があります。
充電時間がガソリン給油とほぼ変わらない水準まで短縮されれば、日常利用の感覚は大きく変わります。長距離ドライブの途中で、高速道路のサービスエリアに5〜8分立ち寄るだけで数百キロ分の電力を補給できるなら、ドライバーの行動パターンもガソリン車時代に近いものになるかもしれません。
一方で、このような超高速充電が当たり前になるためには、対応する充電インフラの整備や、電力システムへの負荷といった新たな論点も浮かび上がります。技術そのものだけでなく、どのような形で社会に組み込まれていくのかが、これからの重要な争点になりそうです。
これからの注目ポイント
- 量産と採用のスピード:この新型電池と充電システムが、どの車種から、どの市場で採用されていくのか。
- 競合各社の打ち手:テスラを含む各社が、独自の超高速充電技術や価格戦略でどう応じるのか。
- インフラとエネルギー政策:高出力充電に対応した設備を、どのようなビジネスモデルと政策で整えていくのか。
- ユーザーの行動変化:充電時間が短くなったとき、人々のクルマの使い方や、ガソリンスタンド・充電スタンドの役割はどう変わるのか。
AI分野のDeepSeekに続き、EV分野ではBYDの新型電池が「ゲームチェンジャー」になり得るのか。2025年の今、世界のテックとモビリティをめぐる議論の中心に、中国発の技術が相次いで躍り出ていることは確かです。数字のインパクトだけでなく、その技術がどのように社会に組み込まれていくのかに注目していくことで、次の変化をより早く読み解けるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








