中国の深海ロボット、世界最深部に挑む工学の新たな一歩
中国の研究チームが、世界で最も深い海溝でも動作できる小型の深海ロボットを開発しました。今週公表された研究によると、このロボットはマリアナ海溝の水深1万666メートルでの実験に成功し、深海探査の常識を塗り替えつつあります。
研究成果は、ロボット工学の専門誌Science Roboticsに掲載されており、中国発の最先端技術として国際的な注目を集めています。
巨大な有人艇から50センチのロボットへ
今回開発された深海ロボットの特徴は、その「小ささ」と「しなやかさ」です。全長はおよそ50センチとコンパクトですが、これまで数トン級の大型で硬い有人潜水艇だけがこなせたとされる高圧環境での作業を実現しました。
ロボットは泳ぐ・滑空する・はい回るといった多彩な動きができるよう設計されており、バットフィッシュ(コウモリダイ)という魚の独特な動き方から着想を得ています。
中国本土の北京航空航天大学(Beihang University)の機械工学・自動化学科の温力(Wen Li)教授は、高圧の深海でも常温・常圧の陸上と同じか、それ以上にスムーズに動けるようにする方法を見いだしたと述べています。
実証フィールドは水深1384メートルと1万666メートル
研究チームは、まず水深1384メートルのHaima Cold Seepと呼ばれる海底の湧水域でロボットを試験し、遊泳や移動に成功しました。さらに、世界最深クラスのマリアナ海溝では、水深1万666メートルという極限環境での実験も行い、ロボットが無事に泳ぎ、滑空し、はい回ることを確認しました。
論文によると、ロボットは尾びれを振って推進力を生み出し、最大毎秒5.5センチの速度で遊泳できます。海底をはい回る際には、脚にあたる部分を使い、砂地の上を毎秒3センチの速さで移動しました。
- 全長:約50センチ
- 最大遊泳速度:毎秒5.5センチ
- はい回り速度:毎秒3センチ(砂地)
- 実験水深:1384メートル、1万666メートル
110メガパスカルの圧力を「味方」にする発想
水深1万600メートル級のマリアナ海溝では、水圧は約1億1000万パスカル(110メガパスカル)に達します。これは、親指のつめほどの面積に1トンの重りが乗るのに相当する圧力です。
この極限環境に対応するため、研究チームはシリコーンゴムのような柔らかい素材が高圧下で硬くなる性質を逆手にとった柔軟アクチュエータ(駆動装置)を作り出しました。
論文の第一著者である潘飛(Pan Fei)氏は、素材の構造が外部の高圧をアクチュエータの速度や振幅を高める力に変えてくれると説明し、弱点だと思われていた点を強みに転換できたとしています。
2〜4度の冷たい深海でどう動くのか
深海の水温は2〜4度と低く、多くの機械にとっては動作が鈍くなりがちな環境です。研究チームは、この課題に対して形状記憶合金(温度によって元の形に戻る金属)を組み込むことで対応しました。
ロボットのアクチュエータには形状記憶合金のばねが取り付けられており、そこに周期的に電流を流して発熱させることで、ばねが収縮と復元を高速で繰り返します。この振動が尾びれなどの部分の高周波の揺れにつながり、低温・高圧の深海でも力強い推進力を生み出します。
AIと「変形ロボット」で広がる深海ビジネスと科学
研究チームは現在(2025年12月時点)、人工知能(AI)と変形可能な深海ロボット(deep-sea morphable robotics)を組み合わせた研究をさらに進めているとしています。目的は、深海での知能的な作業をより幅広く実現することです。
たとえば、次のような応用が考えられます。
- 海底生態系の長期観測や生物多様性調査
- 海底資源や地形の高精度マッピング
- 海底ケーブルやインフラ設備の点検・保守
- 深海の温度・化学成分の観測による気候変動研究
従来の大型潜水艇に比べ、小型で柔軟なロボットが普及すれば、深海探査のコストは下がり、参入できる研究機関や企業も増える可能性があります。
日本と世界にとっての意味
今回の中国発の深海ロボットは、単なる技術的な驚きにとどまりません。深海という未開拓のフロンティアに、各国の研究機関や企業がよりアクセスしやすくなることで、海洋資源、環境保全、気候変動といった地球規模の課題をめぐる国際協力の新たな形につながる可能性があります。
日本も独自の深海探査技術を持つ国として、この分野での協力や健全な競争を通じて、より安全で持続可能な海洋利用のあり方を模索していくことが求められています。深海ロボットをめぐる動きは、これからの国際ニュースやテクノロジーの行方を考えるうえで、注目しておきたいテーマと言えるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com







