ボアオ・フォーラム2025で語られたデジタル格差解消の処方箋
アジアの国際会議ボアオ・フォーラム・フォー・アジアの年次会議2025で、「デジタル格差」をどう埋めるかが主要テーマとして取り上げられました。会期中のセッションでは、各国の政策担当者や企業幹部、専門家が、誰も取り残さないデジタル化に向けた具体策を議論しました。
ボアオ・フォーラム2025で議論されたデジタル格差
会期中の火曜日に行われたセッション「Enhancing Digital Capacity Building & Bridging Digital Divide」では、デジタル格差の解消に向けて、包摂的な政策づくり、公民連携(パブリック・プライベート・パートナーシップ)、教育を通じたスキル向上という三つの柱が強調されました。
ここでいうデジタル格差とは、インターネットやデジタル技術へのアクセスや活用能力に生じるギャップのことです。高速回線が届かない地域、小規模事業者のIT投資不足、デジタル教育を受けられない人々など、さまざまな形で格差が表れます。
セッションでは、次のような方向性が共有されました。
- 所得や居住地にかかわらず、誰もが接続できる環境を整える包摂的な政策
- 通信インフラやクラウドサービスの整備を進めるための公民連携
- 学校教育から社会人教育まで、デジタルスキルを底上げする人材育成
協調と「人への投資」がカギ
議論の口火を切ったのは、フィンランド元首相のエスコ・アホ氏です。アホ氏は、これまでの技術革新の歴史を振り返り、政府と民間企業が協力して投資を行うことが大きな原動力になってきたと指摘しました。
その具体例として、アメリカのアポロ計画を挙げました。冷戦期の宇宙開発競争のなかで行われた戦略的なイノベーション投資が、現在のデジタルインフラや関連技術の基盤を形づくったと述べ、長期的な視点での投資の重要性を強調しました。
同時にアホ氏は、最大の課題は「人の能力づくり(キャパシティ・ビルディング)」にあると強調しました。インフラだけでなく、人々がデジタル技術を使いこなせるようにするため、教育制度を長期的に改革し、世代を超えてスキルを磨ける環境を整えるべきだと訴えました。
カンボジアの事例:女性主導の中小企業を支えるデジタル戦略
カンボジア商業省のスヴァイ・ナクリ次官補は、自国が進めるデジタル包摂のための五つの柱からなる戦略を紹介しました。特に中小企業がデジタル経済に参加しやすくするための支援策に力点が置かれています。
紹介された主な施策は次の通りです。
- 中小企業のために、インターネット接続やクラウドコンピューティングのコストを補助する制度
- 地方を含む全国でのブロードバンド回線の拡大
- 国内企業と海外市場をつなぐ電子商取引プラットフォーム「CambodiaTrade.org」の立ち上げ
ナクリ氏は、カンボジアの中小企業の約7割が女性によって経営されていると指摘し、こうした女性主導のビジネスを支えることが、デジタル包摂とジェンダー平等の双方につながると強調しました。デジタル化の施策が、社会の中でどの層を支えるのかまで意識する必要があるという視点です。
イランの事例:AIとプログラミング教育の早期導入
イランの進歩・開発センターのサッジャード・アハドザデ氏は、自国で進めているイノベーション政策を紹介しました。技術系企業が集まるテックパークの整備や、知識や技術を強みとする企業への税優遇措置などを挙げ、知識集約型産業を育成していると説明しました。
また、オープンアクセスのAIプロジェクト「DeepSeek」などを活用し、幅広い人々が先端技術に触れられる環境づくりを進めていると述べました。アハドザデ氏は、プログラミングやAIリテラシー(AIを理解し活用する力)を早い段階から学校教育に組み込むべきだと主張し、人材育成の前倒しがデジタル格差是正につながると訴えました。
国際協力なくしてデジタル格差は埋まらない
パネル参加者は、国ごとに事情は異なるものの、デジタル格差という課題に一国だけで対処することはできない点で一致しました。規制やルールづくりの課題に対処し、成功した政策モデルを共有しながらスケールさせていくには、国際的な協力と対話が不可欠だと強調しました。
セッションの終盤には、中国本土におけるAIの進展に関する質問が聴衆から寄せられました。パネリストたちは、どの国や組織も単独ではデジタル格差を解消できないとしたうえで、技術が格差を広げる「壁」ではなく、包摂的な成長をもたらす「橋」となるような国際的エコシステムを構築する必要があると述べました。
日本の読者への示唆:3つのポイント
ボアオ・フォーラム・フォー・アジア年次会議2025での議論は、日本を含む多くの国・地域が直面する課題とも重なります。今回のセッションからは、少なくとも次の三つのポイントが浮かび上がります。
- インフラ整備だけでなく、教育改革やスキル習得の機会を通じた「人への長期投資」が欠かせないこと
- 中小企業や女性が率いるビジネスを支えるデジタル政策が、経済成長と包摂を同時に促すこと
- AIを含む先端技術の活用には、各国がルールづくりやベストプラクティスの共有で連携する国際協力の枠組みが重要であること
デジタル技術が生活のすみずみに浸透しつつある今こそ、どのような投資と協力を通じて格差を埋めていくのかが問われています。ボアオ・フォーラムで交わされた対話は、その問いに向き合うためのヒントを、多くの国に投げかけています。
Reference(s):
Global leaders talk about bridging the digital divide at Boao Forum
cgtn.com








