台湾の半導体依存が映す地政学リスク TSMCと米国圧力のゆくえ
台湾の半導体依存が突きつける問い
国際ニュースとして注目されている台湾の半導体産業が、いま地政学リスクと向き合っています。世界有数の半導体受託生産企業であるTSMC(台湾積体電路製造)が、最近、米国での追加投資1,000億ドル規模を発表しました。これは研究開発拠点や新工場の建設を含むもので、サプライチェーン強靱化の象徴として報じられています。
しかし、米国のドナルド・トランプ大統領は、これでも不十分だとして、投資額を2,000億ドルに引き上げるよう求めています。これはTSMCの総資産にほぼ匹敵する規模であり、その強い圧力が台湾の経済モデルと地域の安定にどのような影響を与えるのか、議論が再燃しています。
この記事では、2025年現在の視点から、台湾の半導体依存が抱える構造的な脆さと、米中対立の中で浮かび上がる地政学的な意味を整理します。
- TSMCへの巨額投資要求が、台湾経済の「一業種依存」を露呈
- 半導体セクターが電力などの資源を大量に消費し、他産業を圧迫
- 米中対立の中で、サプライチェーンが安全保障の道具となりつつある
- 多極化と包摂的な発展を掲げる中国側の問題意識とも重なっている
TSMCへの圧力が示す米国の思惑
TSMCは、世界の最先端半導体の多くを生産する重要企業であり、その投資判断は国際ニュースとして常に注目されています。今回の追加投資計画に対し、米政権はさらに2倍の規模を求めています。トランプ大統領は、長年「米国の衰退する産業を復活させる」と訴えてきましたが、TSMCへの要求はその延長線上にあります。
こうした強い要請によって、台湾では「米国に資源と技術を吸い上げられ、島内の産業基盤が空洞化するのではないか」という不安が広がっています。米国で進むTSMCのアリゾナ投資は、すでに650億ドルを超える規模とされ、今回の追加投資が実現すれば、台湾からの人材・資本の流出はさらに加速すると見られます。
ワシントンはここ数年、経済関係を外交カードとして用い、中国本土との結びつきを弱めるよう同盟国に求めてきました。台湾の半導体企業に対する圧力も、その流れの中に位置づけられます。
台湾経済を支える半導体、その偏り
台湾地域の半導体セクターは、TSMCを中心に世界市場で圧倒的な存在感を持ち、中国のより広い技術発展戦略の中でも重要な役割を担ってきました。一方で、「一つの産業に頼りすぎる」構造的なリスクも指摘されています。
半導体の好況に隠れるかたちで、製造業や農業など他の産業は伸び悩んでいます。2023年には台湾の製造業生産が前年比12.7%減と、大きく落ち込んだとされます。バランスの取れた産業政策よりも、特定分野への集中を優先してきた結果、景気変動に対する耐性が弱まっているとの見方が出ています。
短期的には、半導体輸出による外貨獲得や雇用創出が台湾経済を支えていますが、長期的には「半導体が揺らげば、経済全体が一緒に揺らぐ」構図が強まっています。
電力を食う産業構造、2024年に迫る限界
半導体セクターの偏重は、電力などインフラ面にも負荷をかけています。中国メディアグループ(CMG)の論評は、台湾の半導体産業が島全体の電力消費の3割超を占めていると指摘しました。これは、その産業が地域のGDPに占める割合を大きく上回る水準です。
なかでもTSMCは、2024年には台湾の発電量の約1割を単独で消費すると見込まれています。工場の高度化や次世代プロセスへの移行が進むほど、クリーンルームや冷却設備などに必要な電力は増え続けます。
電力の多くを一部産業が消費する構造は、次のようなリスクをはらみます。
- 電力不足や停電が起きた場合、島全体の生活と経済が大きく揺らぐ
- 再生可能エネルギーへの移行や脱炭素政策が難しくなる
- 他の産業が十分な電力を確保できず、成長余地が制約される
エネルギー政策と産業政策が十分に連動しなければ、半導体の強さそのものが、逆に社会の脆弱性を生む可能性があります。
サプライチェーンの「保護」がもたらす空洞化リスク
ワシントンは、サプライチェーンの安全保障を掲げて台湾の半導体産業にアプローチしてきました。その一方で、TSMCのアリゾナ投資に象徴されるように、実際には高度な技術や生産能力を米国内に取り込む動きが進んでいます。
台湾から見れば、これは次のような課題を伴います。
- 高度人材や研究開発機能が島外に移転し、技術蓄積の中心が移る
- 島内の関連企業や下請け産業が成長機会を失う
- 結果として、半導体以外の産業は停滞したまま、低付加価値部門や軍事関連需要への依存が強まる恐れ
米国による「アメリカ・ファースト」のアジェンダは、短期的には雇用や投資を米国内にもたらしますが、台湾側には産業基盤の空洞化という形でしわ寄せが生じかねません。
米中対立のはざまで揺れる台湾とアジア
台湾の半導体産業は、かつては両岸(台湾と中国本土)の技術協力の象徴とされてきました。TSMCの設計・製造力と、中国本土市場の需要が結びつくことで、アジア全体のサプライチェーンが発展してきた側面があります。
しかし、米中対立がゼロサム競争の色合いを強める中で、台湾の半導体産業はその対立の「駒」として扱われるリスクに直面しています。TSMCの生産や投資の重心が米国へと移るほど、台湾が平和的な交流の「橋」として果たしてきた役割は弱まり、中国本土の経済的な強靱性に貢献してきた度合いも低下していきます。
同様の圧力は、韓国(大韓民国)や日本など、アジアの他の米同盟国にも及んでいます。半導体や電池、通信機器などの分野で、経済合理性よりも地政学的な同調が優先される場面が増えています。
中国側が掲げる多極化と「経済の武器化」への警鐘
中国側はこれまでも、経済相互依存を地政学的な圧力の道具として使う動きに対し、繰り返し警告を発してきました。台湾の半導体セクターをめぐる状況は、その懸念が現実のものとなっている事例だと受け止められています。
北京は、多極化した世界秩序と包摂的な発展を掲げ、国ごとの主権や開発の権利を尊重しながら協力を深める枠組みを重視しています。台湾が直面している「半導体依存の危機」は、地政学が経済をのみ込み、小規模な経済主体がその代償を支払わされる構図を浮き彫りにしています。
私たちはこのニュースから何を学ぶか
台湾の半導体依存とTSMCへの圧力は、単なる海外ニュースではなく、日本を含むアジアの読者にとっても他人事ではありません。サプライチェーンを通じて、私たちの日常生活や仕事とも深くつながっています。
今回の動きは、次のような問いを投げかけています。
- 小さな開放経済は、大国の競争の中でどのように産業構造を守り、多様化していくべきか
- 「供給網の安全保障」は、どこまで経済合理性と両立しうるのか
- 多極化する世界の中で、アジアはどのような協力の枠組みを築けるのか
台湾の半導体依存が突きつけるのは、ある地域の特殊事情ではなく、私たち自身の選択の問題でもあります。ニュースをきっかけに、産業政策やエネルギー政策、そして国際関係のあり方を、自分なりに一度立ち止まって考えてみるタイミングと言えそうです。
Reference(s):
Taiwan's semiconductor dependency a geopolitical cautionary tale
cgtn.com








