中国の「2024年10大科学的進歩」、北京ZGCフォーラムで発表
北京で開かれた2025年の中関村フォーラム(ZGCフォーラム)の開幕式で、「中国の2024年における10の科学的進歩」が発表されました。宇宙探査からAI、医療、量子物理まで、多様な分野の最前線が一度に見えるラインアップです。
2025年ZGCフォーラムで「10大科学的進歩」を発表
2025年のZGCフォーラムは、北京で木曜日に開幕し、「新質生産力とグローバルな技術協力」をテーマに3月31日まで開催されました。開幕式では、2024年の中国における代表的な科学成果10件が「中国の10大科学的進歩」として公表されています。
選定は中国の国家自然科学基金(NSFC)が主催し、NSFCの高技術研究発展センター(基礎研究管理センター)が運営しました。基礎科学と応用研究の双方から、長期的なインパクトが期待される成果が選ばれています。
中国「2024年10大科学的進歩」一覧とポイント
1. 嫦娥6号(月の裏側サンプル)が示した28億年前の火山活動
嫦娥6号ミッションで持ち帰られた月の裏側のサンプルから、約28億年前の火山活動の痕跡が見つかりました。玄武岩や角礫岩(かくれきがん)、ガラス片、低密度の明るい岩石片などが含まれ、その組成は「枯渇したマントル」由来とみられる複雑な起源を示しているといいます。
さらに、約42億年前のより古い火山活動の証拠も見つかり、月には長期にわたる火山活動の歴史があった可能性が浮かび上がっています。月の表と裏で地質がどう違うのか、衝突史や内部構造を読み解くうえで重要なデータとなります。
2. 人工汎用知能時代を見据えた大規模フォトニックチップレット「太極」
研究チームは「太極(Taichi)」と名付けられたフォトニック(光)チップレットを開発し、1ジュールあたり160テラ演算という極めて高いエネルギー効率を達成しました。電子回路に頼らず、その場で学習(インシチュトレーニング)を行える新しいアーキテクチャを採用しています。
従来に比べてエネルギー効率を100倍、学習速度を10倍に高めたとされ、基盤モデルや人工汎用知能(AGI)、無人システムなどの高性能化と省エネ化に道を開く技術として注目されます。
3. モノアミン神経伝達物質トランスポーターと向精神薬作用の分子メカニズム解明
ドーパミンやノルアドレナリンなど、モノアミン系の神経伝達物質を運ぶトランスポーター(DAT、NET、GlyT1、VMAT2など)に焦点を当て、その構造と働きが詳しく調べられました。
向精神薬がこれらのトランスポーターとどのように結合し、神経伝達を調整しているのかが分子レベルで示され、新たな結合部位も特定されています。依存性リスクや副作用を抑えた精神・神経疾患治療薬の開発につながる成果です。
4. 原子スケールのナノレーザーと再構成可能な位相アレイ
研究者たちは、独自の分散方程式に基づく原子スケールのナノレーザーを開発し、これまでで最小クラスのモード体積を実現しました。レーザー光の干渉を精密に制御し、「中」「国」といった漢字パターンを描くコヒーレントな発振も示されています。
超小型でエネルギー消費が少なく、高速変調が可能なこれらのナノレーザーは、材料・生命科学の高解像度イメージングや、情報技術分野での新しい光デバイスとしての応用が期待されます。
5. スピン超固体状態における巨大磁気熱量効果と極低温冷却の新機構
コバルト系物質で、固体と超流動の性質をあわせ持つとされる「スピン超固体」状態が観測され、その状態で巨大な磁気熱量効果が確認されました。磁場の操作によって、ヘリウム3を用いずにマイナス273.056度という極低温を実現できる可能性が示されています。
量子技術や基礎物理の実験には超低温環境が不可欠です。新しい冷却メカニズムの提案は、持続可能で高性能な極低温装置の実現に向けた重要な一歩といえます。
6. 重度自己免疫疾患に対する同種CAR-T細胞療法
重い自己免疫疾患の患者に対し、健康なドナーから採取した「ユニバーサル」な同種CAR-T細胞を用いた治療が行われ、大きな臨床効果が得られました。報告によれば、同種CAR-T細胞でこのような顕著な有効性が示されたのは国際的にも初めてです。
患者自身のT細胞を使う従来の方法に比べ、製造コストの低減や治療へのアクセス改善が期待され、難治性自己免疫疾患に対する新たな選択肢となり得ます。
7. 余分なX染色体が男性生殖細胞の発達に与える多面的な影響
男性の生殖細胞に余分なX染色体が存在する場合、その発達異常は胎児期の早い段階から始まることが示されました。余分なX染色体の不完全な不活性化が遺伝子調節を乱し、細胞分化を妨げることで不妊につながるとされています。
発症のメカニズムが明らかになることで、生殖医療や遺伝カウンセリングにおける理解が進み、将来の治療戦略の検討にも役立つ可能性があります。
8. 凝縮系におけるグラビトンモードの実験的発見
ガリウム砒素(GaAs)量子井戸構造の実験で、分数量子ホール効果のもと、スピン2を持つ低エネルギー励起が観測されました。これは「グラビトン様」粒子として解釈され、凝縮系物質の中で重力理論の概念を探る手がかりになります。
量子重力の研究を前進させるだけでなく、半導体構造やトポロジカル量子計算の理解にも貢献し得る成果として位置づけられています。
9. 高エネルギー変換効率のアクチニド系放射光起電マイクロ原子力電池
アクチニド元素を用いた新しいマイクロ原子力電池が開発されました。エネルギー変換部を一体化させた「コアレッセント・エナジートランスデューサー」により、エネルギー変換効率を従来比で8,000倍に高め、記録的な高効率を実現したとされています。
同時に、放射性廃棄物の回収・利用に新たな戦略を示した点も注目されます。長期間にわたって安定した電力を供給する小型電源としての応用が期待されます。
10. 超大質量ブラックホールが母銀河の形成と進化に与える影響の鍵となる証拠
研究では、より重い超大質量ブラックホール(SMBH)を持つ銀河ほど、星形成に必要な冷たいガスの量が少ない傾向が明らかになりました。この関係性は、SMBHがエネルギーを放出しながら銀河中のガスを加熱・散逸させ、活発に星を生む銀河を「静かな」銀河へと移行させる役割を果たしていることを示唆します。
銀河と中心ブラックホールがどのように共進化してきたのかを理解するうえで、重要な観測的証拠といえます。
宇宙から医療まで──広がる中国科学と国際協力の可能性
今回の「中国の10大科学的進歩」は、宇宙探査、AIと次世代コンピューティング、ナノフォトニクス、量子物理、医療・生命科学、エネルギー・電源技術、宇宙物理と、幅広い分野をカバーしています。
- 基礎科学の問いに迫る成果(嫦娥6号、グラビトンモード、超大質量ブラックホールなど)
- 将来の産業や社会インフラを変え得る技術(フォトニックチップ、ナノレーザー、マイクロ原子力電池など)
- 人の健康と生活に直結する研究(CAR-T療法、神経伝達と向精神薬、生殖細胞の発達研究など)
ZGCフォーラムが掲げる「新質生産力とグローバルな技術協力」というテーマのもと、これらの成果は、中国国内だけでなく世界の研究者や企業との連携を通じて、今後どのように発展していくのかが注目されます。
国際ニュースとしての視点で見れば、科学技術が地政学や経済と重なり合う時代において、こうした研究成果を丁寧に読み解くことは、私たち一人ひとりが世界の変化を捉えるための重要な手がかりとなります。
Reference(s):
China's 10 scientific advances of 2024 released at ZGC Forum
cgtn.com








