小麦の新しい免疫メカニズム タンデムキナーゼとNLRの協力をScience誌が報告
小麦の病気に立ち向かう新しい「免疫のしくみ」が報告されました。中国科学院の研究チームが、タンデムキナーゼと呼ばれるタンパク質とNLRタンパク質のペアが、複数の病原菌から小麦を守る仕組みを明らかにし、Science誌に論文を発表しました。
小麦タンデムキナーゼとNLRの新しい協力モデル
今回の研究は、中国科学院の遺伝学・発育生物学研究所(IGDB)の劉志勇(Liu Zhiyong)教授が率いる植物免疫チームが、南京師範大学、Yazhouwan National Laboratory、Xianghu Laboratoryと協力して行いました。
研究チームは、小麦の新しい免疫メカニズムとして、非典型的なNLRタンパク質「WTN1(Wheat Tandem NBD 1)」が、タンデムキナーゼ「WTK3」とペアを組み、病原菌が放出するエフェクターと呼ばれる分子を検知して免疫反応を開始することを示しました。このWTK3–WTN1ペアは、センサーと実行役が協力する「センサー・エグゼキューターモデル」によって働き、小麦を複数の真菌性病害から守ります。
研究のポイント
- 小麦のタンデムキナーゼWTK3と非典型NLRタンパク質WTN1がペアを形成し、病原菌エフェクターを検知して免疫反応を開始
- このペアは小麦うどんこ病だけでなく、複数の真菌性病害に対する抵抗性に関与
- タンデムキナーゼとNLRの協力という新しい免疫モデルを提示し、広域抵抗性品種の精密な育種に理論的基盤を提供
タンデムキナーゼとは何か
今回の成果の鍵となるタンデムキナーゼは、小麦や大麦で最近見つかった新しいタイプの病害抵抗性タンパク質です。2つ以上のキナーゼドメインが直列に並んでいることが特徴で、さまざまな真菌性病原体に対する抵抗性を示すことが知られています。
これまでに、小麦や大麦のタンデムキナーゼは、stripe rust、leaf rust、stem rust、powdery mildew、wheat blast、smutといった複数の真菌性病害に対する抵抗性をもたらすことが報告されており、育種への応用価値が高いことが示されています。
劉教授の率いる植物免疫グループは、2020年にNature Communications誌で、小麦の広域うどんこ病抵抗性遺伝子Pm24(WTK3)を同定し、2024年には野生エンマー小麦に由来する新しいタンデムキナーゼPm36(WTK7-TM)を報告してきました。いずれも中国の在来小麦系統や野生種に由来する遺伝子であり、タンデムキナーゼが持つ病害抵抗性の重要性を示してきました。
未解明だった「タンデムキナーゼの免疫回路」に迫る
一方で、これらの新しい抵抗性タンパク質については、これまで重要な疑問が残されていました。たとえば、タンデムキナーゼがどのようにして病原菌側のエフェクター(Avr)を認識しているのか、タンデムに並んだ複数のキナーゼドメインが免疫の中でどのような役割分担をしているのか、そしてどのような免疫経路を通じて抵抗性を活性化しているのか、といった点です。
今回のScience誌の論文「A wheat tandem kinase and NLR pair confers resistance to multiple fungal pathogens」は、Pm24(WTK3)に由来する抵抗性経路を手がかりに、こうした疑問の一部に答えようとするものです。研究チームは、うどんこ病抵抗性遺伝子Pm24(WTK3)を持ちながら感受性を示すEMS誘発変異体をスクリーニングし、その中からWTK3経路に不可欠な要素としてWTN1を同定しました。
WTN1はWTK3と強く連鎖した非典型的なNLRタンパク質であり、遺伝学的解析から、WTK3による小麦うどんこ病抵抗性にはWTN1が必須であることが示されました。このことから、WTK3とWTN1がペアとなって病原菌エフェクターを検知し、免疫シグナルを起動する協調モデルが提案されています。
複数の病原菌に効く「広域抵抗性」への手がかり
研究チームはさらに、WTK3が小麦うどんこ病だけでなく、小麦いもち病のエフェクターPWT4も認識し、免疫反応を引き起こすことを示しました。このことは、WTK3が小麦いもち病に対する抵抗性を持つ可能性を示唆しており、単一の遺伝子で複数の病原菌に対処できる「広域抵抗性」の理解を深める結果となっています。
論文の著者らは、この研究がタンデムキナーゼの機能理解を大きく前進させるとともに、タンデムキナーゼとNLRが協力して病害抵抗性を発揮するという新しいパラダイムを提示したと位置づけています。また、これまで十分に分かっていなかった「タンデムキナーゼによる免疫制御経路」の空白を埋める成果であり、真菌性病害に対して広域かつ多病原性の抵抗性を備えた作物品種を精密に設計するための理論的・実践的な土台になるとしています。
私たちがこのニュースから考えられること
今回の成果は、タンデムキナーゼという比較的新しい抵抗性タンパク質の働きを、具体的な分子ペアと免疫モデルとして描き出した点で、基礎研究としての意義が大きいものです。同時に、複数の真菌性病害に対する抵抗性を一つの遺伝子ペアで説明できる可能性を示したことで、今後の品種改良や病害管理の発想にも影響を与えそうです。
小麦の病害抵抗性をめぐる研究は、今後もタンデムキナーゼとNLRの組み合わせ、さらには他の免疫経路とのネットワーク解明へと広がっていくとみられます。今回のWTK3–WTN1ペアの発見は、その起点の一つとして記憶されるかもしれません。
Reference(s):
Scientists uncover novel immune mechanism of wheat tandem kinase
cgtn.com








