中国で世界初の旅客eVTOL運航証明 低空経済「乗客時代」が本格始動
中国で、旅客を乗せて飛行する自律型eVTOL(電動垂直離着陸機)の商業運航に道を開く世界初の運航証明が発行されました。低空経済の「乗客時代」が正式にスタートし、2035年を見据えた未来産業戦略の象徴的な一歩となっています。
世界初の旅客eVTOL運航証明 何が起きたのか
中国の民間航空当局である中国民用航空局(CAAC)は、2025年3月28日、遠隔操縦航空機システム向けとして世界初となるエア・オペレーション・サーティフィケート(運航証明)を発行しました。対象となったのは、EHang(億航)の都市型航空モビリティ(UAM)運航会社2社です。
証明を受けたのは次の2社です。
- 広東億航通用航空(Guangdong EHang General Aviation):ナスダック上場企業EHangの全額出資子会社
- 合肥和翼航空(Hefei Heyi Aviation):合肥市の国有資本とEHangが共同で設立した商業UAM運航会社
この運航証明の発行により、中国の低空経済において「旅客を乗せた商業飛行」が正式に認められ、乗客市場の本格的な立ち上がりが始まりました。
鍵を握るEH216-S 自律飛行eVTOLの特徴
今回運航証明の対象となったEH216-Sは、これら2社が運用する旅客用自律型eVTOLです。この機体は、次のような特徴を持っています。
- 旅客を乗せた完全自律飛行が可能なeVTOL
- 型式証明、標準耐空証明、生産証明という三つの認証をすべて取得した世界初かつ中国唯一の旅客用自律eVTOL
- これまでに6万回以上の安全な飛行実績
- 都市の空の移動(UAM)、物流、観光など幅広い場面で利用可能
すでに安全な試験飛行実績を積み上げてきたEH216-Sに運航証明が追加されたことで、「技術的に飛べる機体」から「一般の人がチケットを買って乗れる機体」へと段階が進んだことになります。
広州と合肥で始まる「空の移動」 乗客はどう使えるか
運航証明の取得を受けて、広東省の広州市と安徽省の合肥市にある指定運航ポイントでは、一般の乗客向けにチケット販売が始まります。
提供されるサービスは主に次の二つです。
- 低空観光飛行:都市や観光地を上空から眺める遊覧フライト
- 都市内エアコミューター:地上交通の混雑を避けた短距離移動手段
これにより、広州や合肥では、日常の移動や観光の選択肢として「空のルート」が現実のものとなります。都市交通や観光産業にどのような変化をもたらすかが、今後の注目ポイントです。
低空経済とは何か 1000メートル以下の新しい経済圏
今回のニュースは、中国が重視する「低空経済」の動きと直結しています。低空経済とは、高度およそ1000メートル(場合によっては3000メートル)以下の空域で行われる活動やビジネスの総体を指し、次のような特徴があります。
- ドローンやeVTOLなど、低空を飛行する航空機を活用
- 救助活動、測量、監視、物資輸送、旅客輸送など、多様な用途に対応
- 航空機製造、デジタルインフラ、ソフトウェア、サービス産業が横断的に結びつくエコシステム
中国では、この低空経済が「新しい質の生産力(new quality productive forces)」を支える重要な柱の一つと位置づけられています。eVTOLの旅客運航は、その象徴的なユースケースと言えます。
2035年を見据えた未来産業としての位置づけ
低空経済と一般航空は、2035年に向けた重要な未来産業としても明確に位置づけられています。中国電子信息産業発展研究院(CEIID)は、2025年に北京で開催された中関村フォーラムで発表した未来産業トラック研究報告の中で、これらを2035年の重点産業として示しました。
CEIID未来産業研究センターの蒲松濤所長は、未来産業が世界的な技術競争の中心になっていると指摘しています。2024年には工業情報化部を含む7つの部門が共同で戦略的枠組みを発表しており、その後、中国の未来産業への戦略的な展開は一段と加速しているとされています。
地方からも広がる未来産業戦略
中央レベルの戦略に呼応して、中国各地の地方政府も独自の未来産業戦略を打ち出しています。
- 北京:20以上の重点分野を設定し、特に汎用人工知能や商業宇宙分野を重視
- 上海:未来の健康・医療分野に焦点を当てた産業クラスターを育成
- 長江デルタ地域:地域全体で低空経済の協調的な発展を図る枠組みを構築
今回のeVTOL運航証明は、こうした国家レベル・地方レベル双方の未来産業戦略の中で位置づけられる動きであり、低空経済が単なる技術トレンドではなく、長期的な産業設計の一部になっていることを示しています。
日本の読者にとっての意味 空のインフラをどう捉えるか
中国における低空経済とeVTOLの商業運航開始は、日本やアジアの読者にとっても無関係ではありません。少なくとも三つの観点から考えることができます。
- モビリティの変化:都市の移動手段としてeVTOLがどこまで定着するのかは、アジア全体の交通インフラの将来像にも影響します。
- ビジネスモデル:観光、物流、災害対応など、低空を活用した新サービスがどう収益化されるのかは、日本企業や自治体にとっても参考になる点が多い分野です。
- 長期戦略:2035年という中長期の時間軸で未来産業を設計するアプローチは、日本の産業政策や企業戦略を考える際の比較軸になります。
eVTOLやドローンを「ガジェット」としてではなく、「インフラ」としてどう位置づけるか。その問いに早い段階から向き合っているのが、中国の低空経済の動きだとも言えます。
まとめ:低空をめぐる競争は静かに、しかし着実に進む
世界初とされる旅客用自律eVTOLの運航証明は、中国の低空経済が実験段階から実サービス段階へ移りつつあることを象徴しています。広州や合肥で始まる商業運航は、その第一歩に過ぎません。
同時に、低空経済と一般航空を2035年の未来産業として位置づける国家戦略、そして人工知能や商業宇宙、未来医療などと並べて捉える地方の取り組みは、「空」をめぐる競争がすでに始まっていることを示しています。
アジアの一員として、日本の読者にとっても、低空経済とeVTOLの動きは、これからの都市づくり、インフラ投資、産業戦略を考えるうえで避けて通れないテーマになりつつあります。今後どのような安全規制、料金体系、サービス設計が積み上がっていくのかを丁寧に追うことで、私たち自身の未来の移動の姿も、少しずつ具体的に見えてくるはずです。
Reference(s):
China issues first Operation Certificate for passenger eVTOLs
cgtn.com








