中国のBCI研究と政策が加速 2025年中関村フォーラムで見えた全体像
ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)をめぐる中国の最新動向が、2025年の中関村フォーラム(ZGCフォーラム)で一気に浮かび上がりました。AI(人工知能)の急速な発展とともに、BCIは医療リハビリから産業政策までを巻き込む次世代技術として存在感を強めています。
中関村フォーラムで示された「BCI戦略」
BCIをテーマにした分科会では、中国工業・情報化部科学技術司の副司長にあたるDu Guangda氏が登壇し、AIの進化がBCIのような「未来志向の技術」の登場を加速させていると強調しました。そのうえで、同部はBCI分野でのトップレベルの計画を強化し、関係部門と連携してガイドラインを策定・公表していく方針を示しました。
このガイドラインでは、BCI産業の具体的な目標やタスクを明確にすることが想定されており、技術開発だけでなく、産業育成や標準づくりまでを視野に入れた動きといえます。国際ニュースとしてのBCI政策の発信は、今後の国際協調や競争のスタートラインをどこに引くのか、という問いも投げかけています。
基盤技術から産業へつなぐ政策の役割
BCIは、脳の電気信号を読み取り、コンピューターやロボットアームなどの外部機器を制御する技術の総称です。中関村フォーラムでは、この基盤技術を研究室レベルにとどめず、産業や医療現場につなげるための「設計図」を、政策面からどう描くかが議論の中心になりました。
ガイドラインの整備が進めば、企業や研究機関にとっては投資や研究開発の方向性が明確になり、医療機器としてのBCIの位置づけや安全性評価の基準も共有されやすくなります。
半侵襲型BCI「ベイナオ1」が示した臨床応用のリアル
研究と政策の議論と並行して、具体的な医療応用の成果も紹介されました。2025年3月には、中国で開発された半侵襲型BCIシステム「ベイナオ1(Beinao-1)」が、3例目となるヒトへの埋め込み手術を完了しています。
このシステムは、北京天壇病院、宣武病院、北京大学第一医院という3つの病院による共同プロジェクトとして展開されています。半侵襲型とは、体内にデバイスを埋め込むものの、完全な開頭手術などに比べて侵襲性を抑えた方式を指し、リスクと性能のバランスをねらったアプローチです。
3病院での症例が見せた回復の可能性
- 北京天壇病院では、脳卒中の患者が手術から1週間以内に、思考だけでロボットアームを制御することに成功しました。これは、麻痺した身体機能のリハビリを支える新たな手段として注目されています。
- 宣武病院では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者が、128チャンネルの柔軟電極を用いたBCIによって、60字を超える漢字をデコードし、再び意思疎通の手段を得ました。失われつつあったコミュニケーション能力の一部を、脳信号の読み取りで補う試みです。
- 北京大学第一医院では、四肢麻痺の患者が脳制御型ロボットアームによって動く標的をつかむことに成功しました。脊髄損傷からの回復に向けた重要な一歩と位置づけられています。
これらの症例は、BCIが「未来のテクノロジー」という抽象的なイメージから、具体的な患者の生活を変える手段へと移行しつつあることを示しています。
脳と脊髄をつなぐ「神経ブリッジ」の試み
中関村フォーラムの別の分科会「テクノロジーによる障害者支援」では、復旦大学の生体医工学チームが、世界初とされる三位一体型の脳脊髄インターフェース技術を披露しました。
このアプローチでは、脳と脊髄の間に「神経ブリッジ」を構築することで、脊髄損傷などで途絶えた信号の流れを補います。発表によると、4人の対麻痺の患者が手術から24時間以内に脚の動きを取り戻し、そのうち一部の患者は手術から10日ほどで立ち上がる試みも行ったとされています。
BCIと脊髄刺激、リハビリ技術を組み合わせたこの「三位一体」のアプローチは、運動機能回復の新たな可能性として注目されています。
標準づくりと「迅速審査」で支える産業化
医療現場での成果を支えるのが、規制と標準化の動きです。中国食品薬品検定研究院の副院長であるLu Yong氏は、BCI医療機器を対象にした専門家チームを新たに設置し、関連する規格や標準の見直しに取り組む方針を明らかにしました。
さらに、BCI関連の標準については、年次計画に縛られない「ファストトラック(迅速審査)」のプロセスを導入し、提案から立ち上げ、策定までをスピード感を持って進めるとしています。技術の変化が早い分野では、標準や規制の更新が遅れると、研究や産業化の足かせになりかねません。この仕組みは、そのギャップを埋める狙いがあると言えます。
研究から臨床、政策までつながるBCIのイノベーション・チェーン
今回の中関村フォーラムでは、基礎研究、医療機器開発、臨床応用、標準づくり、産業政策という一連の流れが、BCIというひとつのテーマのもとに並べて語られました。中国のBCIイノベーション・チェーンの全体像が、国際ニュースとしても共有された形です。
脳卒中やALS、脊髄損傷を抱える人々にとって、BCIは日常生活やコミュニケーションを取り戻すための新たな選択肢となりつつあります。同時に、脳活動というきわめて個人的な情報を扱う技術でもあり、プライバシー保護や安全性、アクセスの公平性など、世界各地で議論が続くテーマも抱えています。
中関村フォーラムで示されたのは、BCIを「未来の夢の技術」として語るだけではなく、実際の患者、医師、企業、規制当局がそれぞれの立場から関わる現実的な技術領域になりつつある、という姿でした。AIとBCIが重なり合うこの分野が、今後どのようなルールと価値観のもとで育っていくのか。2025年の動きは、その行方を考えるうえでの一つの重要な手がかりになりそうです。
Reference(s):
China advances BCI research and policy at Zhongguancun Forum
cgtn.com








