中国の学校創設者、自閉症の子どもに学びと仕事の場を広げる
中国北部・河北省邯郸市で、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちに学びと仕事の場をつくり続けている女性がいます。自身の子どもの診断をきっかけに学校を立ち上げ、いまは100人を超える人たちの居場所になっています。
自閉スペクトラム症とは何か
自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的なコミュニケーションや対人関係に難しさがあり、興味や行動が限られたパターンに偏りやすいといった特徴を持つ、複雑な神経発達のあり方です。
多くのASDの人は、長く続けていくリハビリテーションや、個々の特性に合わせた教育的支援を必要とします。そのため、家庭だけでなく、地域にどのような支援の場があるかが、本人と家族の生活を大きく左右します。
娘の診断が人生を変えた
張成静さんにとって、その人生の転機は2008年に訪れました。最初の子どもが自閉症と診断されたのです。
それまで張さんは、邯郸市の衣料品企業で幹部として働き、忙しくも安定したキャリアを歩んでいました。しかし、診断をきっかけに、仕事中心だった毎日は一変します。
当時、張さんは自閉症についてほとんど知識がなく、情報も支援先も限られていました。子どもの将来をどう支えればよいのか分からず、強い不安と無力感に押しつぶされそうになったと振り返っています。
張さんは、当時の心境を、子どもの将来をどう支えたらよいのか分からず、途方に暮れていたと語っています。
家を売ってでも始めた特別支援学校
張さんが選んだのは、支援の場そのものを自分でつくる道でした。まず、自閉症の子どもたちのための早期支援と特別支援教育を行う学校を立ち上げます。
資金を集めるために、自宅を売却し、借入を行い、さらに思いに共感した人びとの寄付も募りました。決して余裕のあるスタートではありませんでしたが、張さんは一歩を踏み出します。
子どもたちが初めて言葉を口にしたり、自分でコップに水を注げるようになる。その小さな変化を目の当たりにするたびに、苦労は報われると感じたといいます。
家庭では難しい継続的な訓練や、一定の構造化された環境を提供できる場として、この学校は少しずつ地域に根づいていきました。
成長に合わせて広がる支援のかたち
やがて、教室で過ごしていた子どもたちは成長し、思春期から成人期へと移っていきます。そのとき張さんは、早期支援だけでは支えきれない現実に直面しました。
学校を卒業した後の居場所や、働く経験を積む場がなければ、せっかく身につけた力を生かすことができません。そこで張さんは、支援の範囲を大きく広げていきます。
リハビリテーションや日中の預かりに加え、職業訓練や就労の場を提供する複数の施設を設立しました。いまでは、知的障害や発達障害のある100人を超える人たちが、これらのセンターで学び、働いています。
また、子どもを育てる家族にとっても、ひと息つける時間が生まれました。日中、子どもが安心して通える場所があることで、親は仕事に戻ったり、自分の時間を持ったりしやすくなります。
世界自閉症啓発デーに向けた16年の歩み
張さんの活動は、学校や施設の運営だけにとどまりません。毎年3月になると、世界自閉症啓発デー(4月2日)に向けて、邯郸市でさまざまなイベントを企画してきました。
この16年間、自閉症への理解を広げるための取り組みを続けています。社会全体の認識が変わることで、当事者と家族が暮らしやすい環境に近づいていくという考えからです。
自閉症だからといって特別な存在として距離を置くのではなく、特性を理解したうえで一緒に暮らしていく。そのための対話の場を、張さんは地域の中につくり出そうとしています。
働くことが自己肯定感につながる
張さんがつくってきたのは、単なる保護の場ではなく、人びとが役割を持って生きられる場です。職業訓練や就労機会を重視する背景には、働くことが自己肯定感や社会とのつながりを生み出すという考えがあります。
たとえば、簡単な作業であっても、自分の手で製品を仕上げたり、誰かの役に立つ仕事をしたりする経験は、大きな自信につながります。日々のリハビリテーションと並行してそのような機会を提供することで、本人の可能性を広げているのです。
張さんの取り組みは、障害の有無にかかわらず、一人ひとりのできることに光を当てる発想と言えます。
日本にいる私たちへの問い
中国北部の一都市で始まったこの取り組みは、自閉症や発達障害のある人びとの支援を考えるうえで、国や地域を超えて参考になる点が多いように見えます。
本人の特性に合わせた教育的支援、親の負担を軽減するための預かりやケア、そして成長後の職業訓練や就労支援までを、ひとつの流れとして整えていくこと。張さんは、それを家族としての切実な経験から実践してきました。
日本でも、自閉スペクトラム症や発達障害のある人びとへの支援のあり方が、さまざまな場で議論されています。中国の河北省で続くこうした試みは、私たちにどのような支援のかたちが望ましいのかを、改めて考えさせてくれます。
当事者と家族が、安心して相談できる場や、将来の選択肢を描ける環境をどう整えていくか。張さんの16年にわたる歩みは、その問いに向き合うヒントのひとつとして、静かに問いかけているようです。
Reference(s):
How a Chinese school founder empowers individuals with autism
cgtn.com








