中国科学院が解明 トマトが猛暑でも収量を守る仕組みとは
気候変動で記録的な猛暑が増える中、中国科学院の研究チームが、トマトが高温ストレスから自らを守り、収量を安定させる新しい仕組みを明らかにしました。
猛暑で減る収量 トマトはどう対抗しているのか
気温の上昇は、世界の農業と食料安全保障にとって大きなリスクになっています。産業革命前と比べて気温が1度上がるごとに、世界の作物収量は約6〜8%減ると推計されています。2025年現在、各地で極端な熱波が頻発するなか、作物がどこまで暑さに耐えられるかは、ますます重要なテーマになっています。
しかし、植物が分子レベルでどのように高温ストレスに適応しているのか、その詳しい仕組みはこれまで十分には分かっていませんでした。
中国科学院の新研究 茎頂幹細胞のリプログラミング
中国科学院遺伝発育生物学研究所(IGDB)のXu Cao教授のチームは、トマトの茎頂部にある幹細胞が、高温環境に合わせて発育プログラムを組み替えることで、猛暑から身を守っていることを突き止めました。この研究成果は2025年4月2日付で、科学誌Developmental Cellに掲載されました。
茎頂分裂組織SAMとは
トマトなどの植物の茎の先端には、茎頂分裂組織(shoot apical meristem, SAM)と呼ばれる小さな組織があります。ここには幹細胞が存在し、新しい茎や葉、花といった地上部の構造をつくり出しています。そのためSAMの状態は、最終的な収量に直結します。
ところが、強い暑さにさらされると、SAMの幹細胞が異常な分化を起こしたり、最悪の場合は死んでしまったりすることがあります。その結果、植物の成長が止まったり、形が崩れたりして、大きな収量減につながるおそれがあります。
高温で起こる分子レベルの変化
研究チームは、トマトが暑さを感じたとき、SAMの中でどのような分子変化が起きているのかを詳しく調べました。その結果、次のような適応メカニズムが明らかになりました。
- 高温ストレス下では、SAMに活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)が蓄積する。
- このROSが、terminating flower(TMF)と呼ばれる花成抑制因子の相分離を促す。相分離とは、タンパク質が液滴のように集まり、凝集体(コンデンセート)をつくる現象です。
- 凝集したTMFコンデンセートは、花のアイデンティティー遺伝子の働きを長く抑え込む。
- その結果、トマトは茎や葉を伸ばす栄養成長の期間を引き延ばし、暑さが続いているあいだは、花を咲かせるタイミング(生殖成長への移行)を意図的に遅らせる。
言い換えれば、トマトは茎頂の幹細胞の発達プログラムを組み替えることで、今はまだ子孫を残すタイミングではないと判断し、成熟を後ろ倒しにしているのです。
猛暑の間は一時休止 涼しくなれば成長再開
研究によると、トマトは栄養成長の初期段階で高温ストレスに直面すると、一種の休眠状態に入ることができます。これは、成長や成熟のプログラムを一時的に停止する休止モードのようなものです。
気温が元に戻り、環境条件が改善されると、この休止状態は解除され、植物は再び通常の発育を再開します。こうすることで、トマトは不利な環境の中で無理に花を咲かせて失敗することを避け、安定した収量を確保しやすくなります。
実際に研究チームは、この戦略によって、第一花房における収量損失の34〜63%が防げることを示しています。高温下でも、トマトがある程度の収量を守れるのは、この一時休止戦略のおかげだと考えられます。
酸化還元で制御されるベットヘッジ戦略
研究では、この仕組みを酸化還元制御されたベットヘッジ戦略と位置づけています。酸化還元とは、ROSのような分子によって細胞内の状態が変化する反応のことで、植物のストレス応答を調節する重要な仕組みです。
ベットヘッジとは、先行きが読みにくい環境のもとで、一度にすべてを賭けず、リスクを分散させる生存戦略を指します。動き回ることのできない植物にとって、高温や干ばつがどれくらい続くかを正確に予測するのは難しいため、しばらく成長を遅らせて様子を見るという選択は合理的な判断だと言えます。
トマトがとっているのは、まさにそのような戦略です。環境が悪いあいだは成長と開花を意図的に遅らせ、条件が整ってから一気に生殖成長へと進むことで、最終的な繁殖の成功率を高めていると考えられます。
気候スマート作物づくりへの示唆
研究者たちは、この発見が、環境の変化に応じて収量を安定させる気候スマートな作物を開発するうえで、新しい概念的な枠組みを提供すると強調しています。
今回明らかになったような幹細胞レベルの適応メカニズムを理解すれば、高温に強いトマト品種だけでなく、他の作物でも、暑さや異常気象にしなやかに対応できる品種を精密に設計する手がかりになります。精密な育種技術と組み合わせることで、気候変動の進む世界でも農業生産性を維持し、食料供給の安定に貢献できる可能性があります。
トマトが見せた意外ながまんの戦略は、猛暑と付き合わざるをえないこれからの時代に、どのような作物づくりと農業システムを選び取るのかを考えるきっかけにもなりそうです。
Reference(s):
Chinese scientists reveal how tomatoes beat heat, stabilize yields
cgtn.com








