中国本土とマレーシアをつなぐ海の記憶 Ong Chunとは
中国本土とマレーシアの沿岸部で受け継がれてきた民間儀礼 Ong Chun。海の災いを鎮め、人々を守ると信じられてきたこの風習は、アジアの海洋史を映す貴重な手がかりです。
海の守り神を送り出す儀礼
Sending Off the King Boat ritualとしても知られるOng Chunは、Wangchuanや王船祭とも呼ばれます。中心にいるのは、Wang YeまたはOng Yahと呼ばれる守護神です。
Wang Yeは、天界から派遣され、海辺の集落を巡回し、疫病を追い払い、台風や災害から人々を守る存在とされてきました。Ong Chunでは、こうした守護神を乗せた船を海へ送り出すことで、災いを遠ざけ、共同体の無事を祈ります。
起源は中国本土の福建・広東沿岸
この民俗儀礼の起源は、中国本土の福建省や広東省などの沿海地域にあります。古くから海上交易が盛んだったこれらの地域では、海に生きる人々にとって、目に見えない危険から守ってくれる存在への信仰が重要でした。
やがて、こうした信仰と儀礼は、台湾南部にも伝わっていきます。海を渡る船に乗って移動したのは、人や物だけでなく、物語や祭り、祈りのかたちでもありました。
マラッカ海峡へと広がった海の信仰
中国本土沿岸から台湾地域を経て、さらに南へ向かった人々は、マラッカ海峡沿いにも多く住み着きました。中国本土からの移民と海上交易の波に乗って、Ong Chunの儀礼もまた、マラッカ海峡沿岸の中国系コミュニティへと広がっていきます。
こうして、海に囲まれた村や港町では、Ong Chunが、祖先の出身地と新たな暮らしの場をつなぐ象徴的な儀礼になっていきました。海を挟んで離れていても、同じ守護神を祀り、同じように船を送り出す行為を通じて、人々は見えないつながりを保ち続けてきたのです。
中国本土とマレーシアが共有する「海の記憶」
今日、Ong Chunは、中国本土の沿岸部とマラッカ海峡沿いのマレーシアなどで受け継がれてきた、共有の海洋文化として語られています。単なる宗教行事ではなく、移住や交易、感染症や自然災害との向き合い方など、海とともに生きてきた人々の経験を記憶する装置でもあります。
国境を越えて続いてきたこの儀礼は、アジアの海が、モノや資本だけでなく、信仰や物語も行き交う空間であったことを思い出させてくれます。中国本土とマレーシアという二つの場所で共有されるOng Chunは、まさに「海がつなぐ歴史」を象徴する存在だと言えるでしょう。
いま私たちが読み取れるメッセージ
Ong Chunに込められた意味は、2025年のいまを生きる私たちにも、いくつかの問いを投げかけています。
- 感染症や自然災害にどう向き合い、共同体としてどのように安心感を育てるのか。
- 移住や国際移動が当たり前になった時代に、文化や儀礼はどのように引き継がれ、変化していくのか。
- 国境を越えて共有される記憶を、対立ではなく対話や協力のきっかけとして生かせるのか。
中国本土とマレーシアをつなぐOng Chunの物語は、国際ニュースとしてだけでなく、海の向こうの人々と自分たちの日常を静かにつなぎ直してくれる題材でもあります。通勤時間の合間に、そんな海の記憶に思いを巡らせてみるのも、悪くないのではないでしょうか。
Reference(s):
Ong Chun: A shared maritime memory preserved by China and Malaysia
cgtn.com








