IOC新会長キルスティ・コヴェントリー誕生 アフリカ発の「アスリート主導」改革
国際オリンピック委員会(IOC)の新会長に、ジンバブエ出身の五輪金メダリスト、キルスティ・コヴェントリー氏(41)が選出されました。史上初の女性、そしてアフリカ出身のIOC会長の誕生は、スポーツ界のリーダーシップが大きく変わりつつあることを象徴しています。
史上初の「女性」かつ「アフリカ」出身IOC会長
IOCは131年の歴史を持ちますが、そのトップに女性が選ばれたのは今回が初めてです。アフリカ出身の会長も初であり、コヴェントリー氏は一度の投票で当選を決めた初の女性候補者でもあります。
ジンバブエ・オリンピック委員会のCEO、マーレン・ガジラヤイ氏は、中国とアフリカの関係を伝えるメディア「China-Africa Talk」の取材に対し、こう語っています。
「彼女はアフリカでもっとも多くのメダルを獲得したオリンピアンです。この勝利は個人の成功にとどまりません。ジェンダー平等、アフリカの存在感、そして世界のスポーツにおける代表性にとって、大きな前進なのです」
コヴェントリー氏の選出は、IOCがその名の通り「国際」機関として、地域や性別を超えた多様なリーダーシップを求め始めていることを映し出しています。
安定したIOCを引き継ぎ、どこへ舵を切るのか
ジンバブエ・オリンピック委員会会長のタバニ・ゴニエ氏によれば、コヴェントリー氏が引き継いだIOCは、トーマス・バッハ前会長の「オリンピック・アジェンダ」改革によって、比較的安定し将来を見据えた組織になっています。
そのうえで、コヴェントリー氏が優先課題として掲げるのが、次のようなテーマです。
- スポーツ界で女性を守るための専門タスクフォースの設置と強化
- 大会運営や施設整備を含む持続可能性(サステナビリティ)と気候変動対策
- 地政学的な緊張が高まるなかでも、オリンピック精神を守るための対話と調整
- とくに十分な資源が届きにくい地域での、若い世代へのスポーツ機会の拡大
単なるイベント運営にとどまらず、スポーツを通じて社会課題にどう向き合うか――。その問いにIOCとしてどう答えるのかが、コヴェントリー体制の評価軸になりそうです。
「アスリート・ファースト」を貫くリーダー
ガジラヤイ氏とゴニエ氏が共通して強調するのが、「コヴェントリー氏は何よりもアスリートであり、政治家ではない」という点です。
ガジラヤイ氏は、次のようなエピソードを紹介しています。
「彼女はアスリートの心と身体のケアを、自分自身の経験からよく理解しています。国際会議に出席していても、ジンバブエの選手が出場する競技は決して見逃しませんでした。それが彼女の心の在り方を示しています」
コヴェントリー氏はジンバブエ国内で、アスリートの待遇改善に関する政策を後押ししてきました。世界レベルでも、「メダルを取ってから」ではなく、「競技人生のスタート段階から」必要な支援を届けるべきだと繰り返し訴えています。
ダカール2026:アフリカ初の五輪イベントへ
コヴェントリー氏の就任とともに注目されるのが、2026年に予定されている「ダカール・ユースオリンピック」です。アフリカ大陸で初めて開催されるオリンピック関連イベントであり、その準備を監督する委員会の議長を務めてきたのがコヴェントリー氏です。
ガジラヤイ氏は、「彼女はアフリカの課題を肌で知っています。ダカール大会を一度きりのイベントに終わらせるのではなく、インフラ整備や人材育成を含めた長期的な遺産(レガシー)につなげようとしています」と話します。
ダカール2026が成功すれば、将来の五輪招致や、アフリカ各地でのスポーツ投資の呼び水になる可能性があります。IOC会長としてのコヴェントリー氏は、その流れを後押しする役割を担うことになります。
スポーツと政治:難しいバランスをどう取るか
近年、国際政治の対立がスポーツ大会のボイコットや参加制限という形で表面化する場面が増えています。こうした政治的な圧力にどう向き合うのかは、新会長にとって避けて通れないテーマです。
米国など大国が政治的理由から参加制限を求めてきた場合、どう対応するのか――。その問いに対し、コヴェントリー氏は落ち着いた口調でこう述べています。
「コミュニケーションが鍵になります。私たちの価値観からぶれることはありません。連帯を重んじ、オリンピックに出場する資格を得たすべてのアスリートが大会に参加し、安全に競技できることを守ります」
ジンバブエのスポーツ大臣として、国内外の政治・社会情勢のなかでスポーツ政策を調整してきた経験は、こうした難しい局面での判断に生かされると見られます。
中国とのつながりとIOCのこれから
コヴェントリー氏にとって、中国は特別な場所でもあります。2008年の北京オリンピックは、7個の五輪メダルのうち4個を獲得した大会であり、本人も「北京は私の心に温かい記憶として刻まれている」と折に触れて語ってきました。
中国が世界的なスポーツ大国として存在感を高めるなか、IOCと中国の協力関係は今後も国際スポーツの発展に大きな影響を与えると考えられます。コヴェントリー氏の個人的な経験とつながりは、こうした協力をさらに深めるうえでプラスに働く可能性があります。
次世代へのロールモデルとして
ハラレのプールから世界の舞台へ、そしてIOC会長へ――。コヴェントリー氏の歩みは、粘り強さと挑戦を重ねて道を切り開いてきたストーリーでもあります。
ガジラヤイ氏は、「彼女は言葉だけでなく、自らが掲げる価値を体現してきました。だからこそ、世界中の若い人たちにとって大きなインスピレーションになっているのです」と語ります。
ジェンダー平等、地域間の格差是正、そしてアスリートの保護。これらの課題にどう応えていくのか。コヴェントリー氏のリーダーシップは、オリンピック・ムーブメントだけでなく、私たちが「スポーツの力」をどう信じるかを問い直すきっかけにもなりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








