中国研究チームが発見 がん増殖を止める乳酸ブロッカー「シリビン」
がん細胞の増殖を止めるかもしれない「乳酸ブロッカー」が、中国の研究チームによって見つかったとの報告です。肝がんの増殖を支える乳酸の運び方を解き明かし、それを断ち切る天然化合物シリビンが特定されたことで、新たながん治療の可能性が見えてきました。
何が発見されたのか
中国の研究者らは、がん細胞の重要なエネルギー源となる「乳酸」の輸送メカニズムを詳しく解析し、その流れを遮断する天然化合物「シリビン」を特定しました。
研究を主導したのは、中国・天津大学のYe Sheng教授のチームです。チームは、肝がんの増殖を支える乳酸の動きを分子レベルで解き明かし、その過程を止める新しい戦略を示しました。
乳酸とがん細胞:なぜ「燃料」になるのか
乳酸は、筋肉が激しく動いたときなどにたまる物質としてよく知られていますが、この研究では、乳酸ががん細胞にとって「重要な代謝燃料」であることが改めて強調されています。
- がん細胞は、酸素が少ない環境(低酸素)でも、十分にある環境(常酸素)でも乳酸を作り出すことができます。
- 作られた乳酸は、腫瘍の成長を支えるエネルギー源として利用されます。
- さらに乳酸は、免疫細胞の働きを弱め、がん細胞を攻撃する「免疫監視」を妨げる役割も担っています。
つまり乳酸は、がんにとって「エネルギー」と「免疫から身を守る盾」の両方の役割を果たしている、といえます。
MCT1という「通り道」を止める
今回のニュースの核心は、乳酸そのものではなく、その出入りを制御する「通り道」にあります。それが「MCT1(モノカルボン酸トランスポーター1)」と呼ばれるタンパク質です。
MCT1は、がん細胞の中で作られた乳酸を外に運び出す役割を担っています。これによって、
- 細胞の内側の酸性度(pH)が保たれる
- 外に出た乳酸が周囲の腫瘍細胞のエネルギー源になる
という二重の効果が生まれ、結果的に腫瘍全体の増殖を支えています。
研究チームは、MCT1が効率よく乳酸を運ぶためには、特定のアミノ酸どうしの精密な相互作用が重要だと突き止めました。ここを標的にすることで、乳酸輸送をピンポイントで止められる可能性が見えてきたのです。
伝統医療に由来する「シリビン」がブロッカーに
この分子メカニズムの理解をもとに、研究チームは多数の候補物質の中から、MCT1を阻害できる天然化合物「シリビン」を見いだしました。シリビンは、中国の伝統医学に由来する成分とされています。
研究によると、シリビンはMCT1の「基質ポケット」と呼ばれる部分に正確に結合し、乳酸の通り道をふさぐ形でその機能を妨げます。その結果、
- がん細胞の内部に乳酸がたまり、有害なレベルに達する
- 乳酸をエネルギーとして利用していた腫瘍細胞のネットワークが崩れる
といった変化が起き、肝がん細胞の増殖が抑えられることが示されました。
培養細胞と動物実験で確認、今後の課題は
Ye Sheng教授らは、培養細胞(シャーレで育てた細胞)と動物モデルを用いた実験で、シリビンが肝腫瘍の成長を抑える効果を持つことを確認しました。研究チームは、このシリビンを「有望ながん治療候補」と位置づけています。
一方で、今回明らかになっているのは、あくまで研究室レベルと動物実験での結果です。今回伝えられた情報の範囲では、ヒトを対象とした臨床試験の段階や、実際の医療現場での使い方については示されていません。
患者や家族にとって気になる点ですが、現時点(2025年末)で、シリビンが標準的ながん治療として利用できるという話ではありません。既存の治療を自己判断でやめたり、新たなサプリメントなどを試したりする前に、必ず主治医と相談することが重要です。
「次世代がん治療」への期待と冷静な視点
Ye Sheng教授は、「この研究はがん代謝の理解を深めるだけでなく、次世代のがん治療の土台を築くものだ」と述べています。乳酸の輸送という、これまで見過ごされがちだったプロセスを標的にするアプローチは、新しい治療戦略につながる可能性があります。
今回の成果は、がん細胞の「代謝」を狙うという考え方の中に位置づけられるアプローチです。乳酸という「燃料」を断つことで、
- がん細胞どうしが支え合う「代謝ネットワーク」を断ち切る
- 免疫細胞が働きやすい環境をつくる
という二つの方向から腫瘍を揺さぶる戦略を示したと言えるでしょう。
私たちはこのニュースをどう受け止めるか
国際ニュースとしてこの成果を読むとき、二つの視点が大切です。
- がん治療の可能性がまた一つ広がったという「希望のニュース」であること
- 同時に、治療として実現するまでには、時間と慎重な検証が必要だという現実
newstomo.comの読者の多くは、日々の生活や仕事の中で、医療やサイエンスのニュースを次の会話のきっかけにしている方々です。今回の中国の研究チームによる発見は、
- なぜがんは増え続けるのか
- その「燃料」を断つにはどうすればよいのか
という問いを、身近な言葉で考えるきっかけを与えてくれます。
今後、シリビンやMCT1を標的とする薬が、実際の医療としてどこまで進むのか。2020年代後半のがん研究を見ていくうえで、注目しておきたいトピックの一つと言えそうです。
Reference(s):
Chinese scientists discover natural blocker of cancer growth
cgtn.com








