上海で16年、「よそ者ではない」アルメニア人バイオリニストの国際ニュース video poster
アルメニア出身のバイオリニスト、アストリッド・ポゴシアンさんは、上海での16年を通じて「外国人だけれど、よそ者ではない」という新しい帰属のかたちを体現しています。
2009年に音楽留学生として上海に到着した彼女は、いまではアルメニアの民謡を中国の土壌に根付かせながら、バタフライ・ラバーズの旋律とユーラシアを横断する対話を結びつける「文化の交響曲」を紡いでいます。
2023年には上海のマグノリア記念賞で史上最年少の受賞者となり、コンサートホールを、コーカサスの山々のこだまが長江の流れと出会うような、多様な文化が溶け合う場所へと変える「文化の橋渡し役」として評価されました。
上海で16年、「よそ者ではない」外国人というあり方
国際ニュースが政治や経済に偏りがちななかで、ポゴシアンさんの歩みは、都市で暮らす一人ひとりの物語こそがグローバル化の最前線であることを思い出させてくれます。
彼女が掲げる「Foreigners but not Outsiders」という姿勢は、次のような問いを私たちに投げかけます。
- 外国に住む人は、本当に「一時的な滞在者」でしかないのか
- 言語や文化が違っても、地域社会の一員として受け入れ合うことはどのように可能か
- 人の移動が当たり前になった時代に、「故郷」や「帰属」はどのように変わっていくのか
上海での16年という時間は、ポゴシアンさんにとって単なる在住年数ではなく、自らのアイデンティティを「アルメニア出身」か「中国在住」かという二者択一ではなく、重なり合うものとして捉え直すプロセスだったといえます。
アルメニアの民謡とバタフライ・ラバーズが出会うとき
ポゴシアンさんは、アルメニアの民謡を中国の聴衆に届けるだけでなく、それを中国で育まれてきた音楽と響き合わせることで、ユーラシアをまたぐ物語を描き出しています。
とくに象徴的なのが、バタフライ・ラバーズの旋律との出会いです。この作品とアルメニアの音楽的な要素を織り交ぜることで、彼女は次のような「文化の交響曲」を創り出しています。
- コーカサスの山々のこだまのようなアルメニアの旋律
- 長江の流れを思わせる中国の音のうねり
- そのあいだを行き来する、ユーラシアの人びとの対話
音楽は、言葉を介さずに感情や記憶を共有できるメディアです。ポゴシアンさんの演奏は、観客が自分とは異なる土地や歴史をもつ人びとに感情移入しやすくなる場をつくり出しているといえます。
マグノリア記念賞が示した「文化の橋渡し」
2023年、ポゴシアンさんは上海のマグノリア記念賞を史上最年少で受賞しました。受賞理由として挙げられたのは、彼女が「文化の橋渡し役」として、コンサートホールを多様な文化が出会う場へと変えてきたことです。
この評価は、一人の演奏家の功績にとどまりません。都市が国際的な魅力を高めていくうえで、次のような役割を担う人びとへの期待が高まっていることを映し出しています。
- 異なる文化を行き来しながら、双方の文脈を理解して翻訳する人
- 新しい表現を通じて、固定化したイメージや偏見をほどいていく人
- 「外国人」と「地元の人」という境界線をゆるやかにしていく人
ポゴシアンさんの受賞は、こうした役割を担う人びとに対する、上海からのメッセージとも読むことができます。
人生の大きな決断としての「中国を選ぶ」ということ
ポゴシアンさんは、中国を選んだことは自分の人生で最も重要な決断のひとつだったと語っています。この言葉には、単なるキャリア選択を超えた重みがあります。
故郷を離れて別の国や地域を選ぶということは、自分の未来だけでなく、受け入れる側の社会の未来にも影響を与える選択です。アーティストである彼女の場合、その影響は音楽という形で可視化されます。
- アルメニアの人びとにとっては、中国という場所がより身近な存在として立ち上がる
- 中国で暮らす人びとにとっては、アルメニアやユーラシアの世界が音を通じて開かれる
- 観客一人ひとりにとっては、自分の「外側」にある世界への好奇心が静かに刺激される
こうして生まれる小さな変化の積み重ねが、国と国、地域と地域の関係を少しずつ変えていく力になるのかもしれません。
「よそ者ではない外国人」が増える未来に向けて
ポゴシアンさんの物語は、これから海外で学び、働き、暮らしたいと考える人びとにとって、多くの示唆を与えてくれます。
- 言葉や文化の違いを恐れずに、その土地の音や物語に耳を澄ませること
- 自分のルーツを消すのではなく、むしろ強みとして持ち込むこと
- 「一時的な滞在者」ではなく、コミュニティの一員として関わる視点を持つこと
国際ニュースの見出しにはなかなか表れない、こうした個人の選択と積み重ねが、都市や社会のあり方を静かに変えていきます。上海での16年を通じて「外国人だけれど、よそ者ではない」というあり方を体現してきたポゴシアンさんの歩みは、これからの世界で生きる私たちにとって、一つの指針となりそうです。
Reference(s):
cgtn.com








