中国農村を変えるスマート技術 黒竜江省・陳莉莉さんの挑戦
スマートフォンとライブ配信が、農村の風景と農家の収入を静かに変えつつあります。中国東北部・黒竜江省の小さな村で始まった一人の女性の挑戦は、いま農業とテクノロジーの関係を映し出す象徴的な物語になっています。
スマホ一つで全国とつながる華山村
中国東北部、黒竜江省木蘭県の華山村で、陳莉莉(チェン・リリー)さんはスマートフォンを手に、新米の収穫の様子を全国の視聴者にライブ配信しています。画面の向こう側には、都市部を含む各地の消費者がコメントを寄せ、次々と注文を入れていきます。
数年前まで、陳さん自身は「いつか農村を出たい」と思っていました。2016年に大学を卒業した後は、北京でオンラインメディア関連の仕事に就き、典型的な都市のキャリアを歩んでいたからです。
転機は2021年末の「お試し配信」
転機となったのは、2021年12月。故郷・華山村のコメを試しにライブ配信で紹介してみたところ、数時間のうちに約6,000件もの注文が入りました。「農産物を売るのに、大きな会社は必ずしもいらない。スマホと、誠実に語ることがあればいいと気づきました」と陳さんは振り返ります。
この経験が、陳さんの人生を大きく動かします。2022年5月、彼女は北京でのキャリアを離れ、夫とともに故郷に戻る決断をしました。「夫も北京での仕事を辞めなければならず、本当に勇気のいる選択でした。うまくいくかどうかも分かりませんでした」といいます。
SNSで共感を呼んだ「都会から農村へ」のストーリー
帰郷直後の配信は、必ずしも順調ではありませんでした。視聴回数も伸びず、商品がなかなか売れない時期が続きます。転機となったのは、自分自身のライフストーリーを正面から語り始めたことでした。
都会での仕事を離れ、家族との時間を大切にしながら、農村で新たなキャリアを築こうとする日々。その試行錯誤や喜び、不安を率直に発信すると、多くの視聴者が共感し、フォロワーは数カ月で100万人を超えるまでに増えました。
視聴者にとって、陳さんの配信は単なる「商品紹介」ではなく、農村の四季の移ろいと、人々の暮らしが伝わる「物語」になっていったのです。
契約栽培で農家の収入を底上げ
オンライン販売の成功は、陳さん一人の収入にとどまりませんでした。2023年からは、村の農家と契約を結び、より高品質なコメの品種を作付けしてもらう取り組みを始めます。収穫したコメは、陳さんがあらかじめ約束した価格ですべて買い取る仕組みです。
このモデルは2024年には約400ヘクタールにまで拡大し、90世帯の農家が参加。農家全体の収入は合計で180万元(約25万ドル)増えたとされています。
華山村の農家・馬秀英(マー・シウイン)さんも、その一人です。「うちの農地は約13ヘクタールあります。昨年はその半分で、陳さんが勧めてくれた品種を栽培しましたが、約束どおり全部買い取ってくれました。今年は13ヘクタールすべてをその品種に切り替えています」と話します。
安定した買い取り先と価格が見込めることで、農家は思い切って高付加価値の品種に挑戦できるようになり、その結果として収入の底上げにつながっています。
スマート技術が変える「売り方」と「働き方」
こうした変化を支えているのが、スマートフォンをはじめとするデジタル技術です。ライブ配信やネット通販の仕組みを活用することで、華山村のコメは、仲介業者を何段階も経ずに、都市の消費者へと直接届くようになりました。
スマート技術の導入によって、変わったのは「売り方」だけではありません。農家にとっては、需要の動きや消費者の反応をリアルタイムで知ることができるようになり、作付けの計画や品質向上の工夫にも役立っています。
東北の肥沃な平野から、西南部の山あいの地域まで、こうしたデジタル技術の波が中国の農村に広がりつつあるといわれます。スマート技術は、単に便利な道具というだけでなく、農家の交渉力と情報へのアクセスを高めることで、農村経済全体の底力を引き出しているのです。
「読みやすいけれど考えさせられる」視点
陳莉莉さんの物語は、2021年末に始まったオンライン配信が、わずか数年で農村の暮らしと収入の構造を変え得ることを示しています。2024年までに400ヘクタール・90世帯という規模に広がった背景には、テクノロジーの力と、それを使いこなそうとする人々の意思がありました。
いま、多くの国や地域で「地方創生」や「地域活性化」が課題となっています。その中で、華山村の事例は、テクノロジーをどう使えば地方の価値を引き出せるのか、そして個人のキャリアと地域の未来をどのように結びつけられるのかを考えるヒントを与えてくれます。
スマート技術と人のストーリーが交差するとき、農村は「取り残された場所」ではなく、新しい可能性のフロントラインへと変わっていくのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








