中国・鄭州の「空からのフン問題」が問う、都市と野生動物の新しい関係
中国・鄭州の中心部で、サギの仲間のゴイサギが街路樹に集団で営巣し、歩行者や車にフンが降りかかることから「Sky Droppings Road(空からのフン通り)」と呼ばれる一角が生まれています。この現象をめぐる議論は、単なる迷惑問題を超えて、2025年の都市が野生動物とどう共生していくべきかという大きなテーマを映し出しています。
鄭州で起きている「空からのフン」現象とは
ここ数週間、鄭州の中心街に並ぶプラタナス(街路樹)に、ゴイサギのコロニー(集団繁殖地)が形成されています。春から夏にかけて、これらのサギが頭上の枝にとまり、下を行き交う人や車にフンが落ちてくるため、その通りは半ば自虐的に「空からのフン通り」と呼ばれるようになりました。
住民の受け止め方は分かれています。
- 都市部に野鳥が戻ってきたことを「都市の生態系が回復している証拠」と歓迎する声
- 衣服や車が汚れる日常的なストレスから「迷惑な存在」として排除を求める声
この対立が、ゴイサギを移転させるべきか、それとも共生の道を探るべきかという議論を呼び起こしています。
なぜ単純な「移転」では解決にならないのか
ゴイサギの移動や営巣は、偶然ではありません。鄭州でのゴイサギの飛来は、長年の移動パターンや周辺環境の変化を反映したものであり、都市の生態系が発展してきた結果ともいえます。
そのため、単に「うるさいから」「汚れるから」といった理由で急いで追い払ったり、強制的に別の場所へ移したりすると、次のような問題が生じる可能性があります。
- 生態バランスの乱れ:ゴイサギは都市の食物連鎖の一部であり、急な個体数の変動は他の生物にも影響を与えます。
- 問題の場所移動:一カ所から追い出しても、別の住宅街や公園に移るだけで、根本的な解決にならないおそれがあります。
- 「自然を制御する」発想の固定化:人間中心で「都合の悪い自然は排除する」という考え方が強まると、長期的には都市の生態的な豊かさを損ないかねません。
専門家が提案しているのは、「自然をコントロールする」発想から、「自然に適応する」都市づくりへの転換です。人間だけでなく、野鳥を含むさまざまな生物も、都市空間を共有する存在として位置づけ直す必要があります。
「迷惑」から「共生」へ:都市ガバナンスの転換
従来の都市ガバナンス(都市を管理・運営する考え方)は、人間の生活の快適さを最優先にし、「好ましくない」とされた動物を追い払う方向に傾きがちでした。しかし、鄭州の議論は、野生動物にも都市空間を利用する権利があるという発想への転換を促しています。
ゴイサギとの共生を図るためには、次のような、よりきめ細かい対策が考えられています。
- 季節的なバッファゾーンの設定:繁殖期には営巣地周辺に一時的な立ち入り制限や迂回ルートを設け、人と鳥の距離を調整する。
- 保護ネットやカバーの設置:人通りの多い歩道やバス停、駐車エリアなどに限定して、フンが直接落ちないような簡易的な設備を設置する。
- 市民への情報提供と教育:なぜゴイサギがこの場所を選ぶのか、都市生態系にどんな役割を持つのかを分かりやすく伝え、一定の「許容」を社会的に共有する。
ポイントは、「追い出すか受け入れるか」の二択ではなく、都市の設計と運用を通じて、人と野鳥が共存できるグラデーションをつくることです。
世界の都市に見る、人と野生動物の共存モデル
鄭州のケースは特異なものではなく、世界の都市でも共通する課題です。各地では、人と野生動物の距離感を調整しながら共生を図る試みが進められています。
アムステルダムの「コウモリ回廊」
オランダのアムステルダムでは、コウモリの生息地を守りつつ、住宅密集地からは一定の距離を保てるよう、「コウモリ回廊」と呼ばれるルートが整備されています。街路樹や水辺、建物の隙間など、コウモリが移動しやすい連続した空間をつなぎ、住居周辺に集中しないよう配慮した設計です。
鄭州のゴイサギ問題も、街路樹の配置や緑地のネットワークを工夫することで、「鳥のための回廊」をつくり、人と野鳥の接点をコントロールする視点が参考になりそうです。
垂直の森と「ガーデンシティ」の発想
世界の大都市では、建物の外壁やバルコニーに大量の樹木や植物を配置した「垂直の森」型の高層ビルも登場しています。こうした建築は、単なる景観づくりにとどまらず、鳥や昆虫が身を隠し、休息できる場として機能し始めています。
また、シンガポールは「ガーデンシティ(庭園都市)」のブランドを掲げ、人と動物を都市の共演者として扱う都市像を打ち出しています。街路樹や公園、建物の緑化を通じて、都市全体を一体の生態系として設計する考え方は、鄭州をはじめとするアジアの都市にとっても重要なヒントとなります。
共生のカギとなる三つの柱
ゴイサギと人間が共に暮らす都市を実現するには、次の三つの柱が欠かせないとされています。
- 1. 自然な行動への敬意
野鳥がどこに巣をつくり、どの時間帯に活動し、どんなルートで飛ぶのか。その「当たり前の行動」を出発点として、都市側が動線や施設を調整する姿勢が求められます。 - 2. 柔軟なガバナンス
一度ルールや設備を決めたら終わりではなく、季節や個体数、市民の受け止め方の変化に応じて、対策をアップデートしていく柔軟性が必要です。 - 3. 社会契約としての共生意識
「都市は人間だけのものではない」という認識を、市民がゆるやかな社会契約として共有できるかどうか。一定の不便やリスクも含めて、「生き物と一緒に暮らす都市」を選ぶかどうかが問われています。
都市管理のゴールは、あらゆる衝突をゼロにすることではなく、避けられない摩擦を、学びや共感、環境の改善につなげていくことだといえます。
「空からのフン通り」が示す、多種共生の都市ビジョン
鄭州の「Sky Droppings Road」をめぐる論争は、単なる野鳥保護の是非を超えた問題です。人間中心の都市観から、複数の種が共に暮らす「多種共生」の都市観へと移行していけるかどうかを問う象徴的な出来事でもあります。
そのためには、次のような発想の転換が鍵を握ります。
- ノンヒューマン・ゾーンの設計:公園や河川敷だけでなく、街路やビルの一部にも「人よりも他の生き物を優先する」ゾーンや時間帯を設ける。
- 都市の「代謝」の一部として捉える:フンや落ち葉、鳴き声といった動物の痕跡を、単なる「汚れ」「騒音」ではなく、都市が生きている証として見る視点を養う。
こうした工夫を積み重ねたとき、都市は初めて「文明」を名乗るにふさわしい姿に近づいていくのかもしれません。舗装された道に残る靴跡だけでなく、爪痕や羽ばたきの痕跡も歓迎される都市――鄭州の議論は、その未来像を私たちに静かに問いかけています。
Reference(s):
Resolving Zhengzhou’s 'Sky Droppings' Dilemma: Why Simple Relocation Isn’t the Answer
bjnews.com.cn








