中国・甘粛の砂漠を緑に Z世代学生の1500キロ植林ミッション
中国・甘粛省の砂漠で、約1500キロ離れた大学からやってきたZ世代の学生が木を植えています。国際ニュースを日本語で追う私たちに、環境と若者の力について静かに問いかけるストーリーです。
ライブ配信から始まった「遠い砂漠」とのつながり
物語の主人公は、中国の濰坊科学技術学院(Weifang Institute of Science and Technology)に通う学生、呉夢琪さんです。きっかけは、1年前に見た一本のライブ配信でした。
新しい農業に取り組む集団「Ten Qin Tian」が、甘粛省民勤の砂漠化防止デモンストレーション区でボランティアと共にハロキシロンの苗木を植える様子を、生配信で紹介していました。ドローンの映像には、砂に負けまいと伸びる小さな緑が映し出されていました。
そのとき呉さんは、「遠く離れた土地も、同じように守られるべき場所なのだ」と強く感じたといいます。
2025年3月、植樹祭前夜の西への旅
そして2025年の植樹祭(アーバーデー)を前にした3月、呉さんは民勤県森林植栽公益発展センターのボランティア募集の知らせを手に、西へ向かう列車に乗りました。大学から現地までの距離はおよそ1500キロ。画面越しにしか知らなかった砂漠に、自分の足で向かう決断でした。
中国西北部の広大な砂漠地帯には、全国各地から集まったボランティアが集結し、まるで「若者の方陣」のような光景が広がりました。スコップが砂を打つ音、給水車のエンジン音、そして若者たちの掛け声が混ざり合い、砂丘のあいだに独特のリズムが刻まれていきました。
一本一本を「生命の儀式」として植える
現地ではまず、専門スタッフによる研修が行われました。呉さんたちは、ハロキシロンの苗木をどのように植えれば生存率を高められるか、具体的な方法を学びます。
- 深さ50センチの穴を掘る
- 底に20センチほど湿った砂を戻す
- 苗木をまっすぐ立て、周囲を丁寧に固める
呉さんは、この一連の動作を「厳粛な生命の儀式」のように感じたといいます。一つひとつの苗木に向き合いながら、ただ木を植えるだけでなく、自分の時間とエネルギーを未来に預けている感覚があったからです。
砂漠には、「きょうの責任は若者の肩に」「農が豊かになり、農村が栄え、農民が幸せに」「大地の広さを見て、人の苦労を知る」といったスローガンの書かれた横断幕が翻っていました。一本一本の木が、砂漠化と向き合う静かな決意を体現しているようでした。
「全部を自分でやらなくていい」と気づいた瞬間
呉さんには、一つの悩みがありました。環境問題のスケールの大きさを前に、「自分一人が動いても、意味があるのだろうか」と無力感を覚えていたのです。
その考えが変わったのは、自分が前年に植えたハロキシロンの苗木が、すでに高さ50センチほどに育っているのを見たときでした。「成功は必ずしも自分一人の肩に乗せなくていい」。呉さんはそう語ります。
防塵ゴーグルが砂で曇っていても、その目ははっきりと未来を見ていました。自分が植えた木が、他のボランティアや現地の人々の努力と重なり、やがて一帯の「防風林」となっていく。その長い時間軸の中で、自分はその一節を担っているにすぎない——それで十分なのだと理解したのです。
現在、ニュース映像には、砂丘を覆うハロキシロンの林が映し出されています。若者の行動が国家レベルの取り組みと重なり合うとき、一粒の種が山河を守る盾に育つことを、静かに物語っています。
キャンパスから広がる「緑のストーリー」
民勤の砂漠から大学に戻った呉さんは、歩みを止めてはいません。キャンパスでは、エコロジーをテーマにしたクラブの立ち上げを準備しており、「緑の回復」という大きな物語に、同世代の仲間たちと共に自分たちの一節を書き加えようとしています。
「ボランティアサービス+」という教育モデル
呉さんの背後には、濰坊科学技術学院が進める「ボランティアサービス+」型の教育モデルがあります。同学院は、人材育成計画の中でボランティア活動を必修の「第二の教室」と位置づけ、体系的なカリキュラムとして組み込んでいます。
ポイントは、ボランティアを単なる「良いこと」にとどめず、実践的な学びの場として設計していることです。例えば、
- 砂漠緑化などの生態保護
- 農村振興を支える地域活動
といった国家レベルの方針を、学生が自ら体験できるプログラムに落とし込んでいます。これにより、
- 学生にとっては「実践教育」の場となり
- 社会にとっては「公益サービス」の担い手が増える
という二重の価値が生まれています。
同学院では近年、こうしたボランティア活動を2万4千回以上実施し、延べ50万人を超える学生や参加者が関わり、合計260万時間を上回るサービス時間を積み重ねてきました。数字の裏側には、それぞれの現場で流れた汗と、小さな成功体験が積み重なっています。
私たちへの問い:スクリーンの向こうを「自分ごと」にできるか
呉夢琪さんのストーリーは、日本でニュースを読む私たちにもいくつかの問いを投げかけています。
- 一本のライブ配信が、なぜ一人の若者を1500キロの旅へと動かしたのか
- 「遠いどこか」の環境問題を、自分の日常や仕事とどう結びつけられるのか
- 大学や地域は、若者が社会課題に向き合う「第二の教室」をどのように用意できるのか
国際ニュースを日本語で追うとき、数字や政策だけでなく、こうした個人の物語に目を向けることは、世界の変化を「自分ごと」として捉えるヒントになります。
砂漠に植えられた一本の木が林になるように、小さな行動の積み重ねが、やがて社会全体の風景を変えていきます。ニュースを読む私たちもまた、自分なりの「一粒の種」をどこにまくのかを、静かに考えてみるタイミングなのかもしれません。
Reference(s):
Gen-Z Student’s 1,500-Kilometer Mission to Turn Gansu Desert Green
cctv.com








