中国の天文学者、銀河面の向こうに1300個超の新クエーサーを発見
中国の大型望遠鏡を使った最新の宇宙観測で、私たちの天の川銀河の「銀河面」の向こう側から、1300個を超える新しいクエーサー(準星)が見つかりました。宇宙の大規模構造や銀河の進化を探るうえで重要な手がかりとなる成果として、国際的に注目されています。
銀河面の背後から1982個、そのうち1338個が「新発見」
今回の成果を発表したのは、中国の天文学者を中心とする国際チームです。中国の大型観測装置である「LAMOST(Large Sky Area Multi-Object Fiber Spectroscopic Telescope)」を用いて分光観測を行い、銀河面の背後にあるクエーサーを系統的に探しました。
その結果、銀河面の方向から合計1982個のクエーサーを特定し、そのうち1338個がこれまで知られていなかった「新しいクエーサー」であることが分かりました。研究成果は、天文学専門誌「Astrophysical Journal Supplement Series」に掲載されています。
観測と分析には、次の機関が参加しました。
- 中国のNational Astronomical Observatories
- 北京大学(Peking University)
- University of Chinese Academy of Sciences
- 北京師範大学(Beijing Normal University)
- オランダのライデン大学(Leiden University)
中国国内の複数の研究機関に、欧州の大学が連携した形での成果であり、国際協力による宇宙研究の一例といえます。
そもそもクエーサーとは何か
ニュースによく登場するクエーサーとは、遠方の銀河の中心にある、非常に明るい天体です。銀河の中心付近では、巨大な重力源のまわりにガスやちりが落ち込み、高温になって強い光を放ちます。その明るさは、銀河全体の光を上回ることもあります。
天文学者がクエーサーを重要視する理由は、単に「明るいから」ではありません。今回紹介された研究でも、クエーサーは次のようなテーマを探る「道しるべ」として使われています。
- 宇宙の大規模構造(銀河がどのような網目状構造を作っているか)
- 超大質量ブラックホールの性質と成長
- 宇宙再電離(初期宇宙でガスが再び電離した時代)の理解
- 銀河の形成と進化の歴史
今回見つかったクエーサーは、銀河面の背後という「これまで空白が多かった領域」を埋める役割を担います。これにより、クエーサーを使った宇宙地図が、より均一で精密なものになることが期待されます。
銀河面とは何か――なぜ観測が難しいのか
今回の研究の舞台となった「銀河面」とは、私たちの天の川銀河の円盤部分にあたる領域です。星やガス、ちりが特に高密度に集まっており、夜空に見える夏の天の川も、この銀河面を内側から見ているものです。
多くの大規模クエーサーサーベイ(クエーサー探索プロジェクト)は、これまで北天・南天ともに銀河面を避けてきました。その理由は単純で、「見えにくい」からです。
- 高いダスト減光:銀河面にはちり(ダスト)が多く、後ろにある天体からの光をさえぎってしまいます。
- 星の密度が高い:星が非常にたくさん重なって見えるため、遠方の暗い天体を見分けるのが難しくなります。
研究代表の呉雪冰(Wu Xuebing)教授によると、こうしたダストによる減光と星の高密度分布が、銀河面の背後にあるクエーサーの探索を長年困難にしてきました。今回の発見は、その「観測の壁」が少しずつ崩れつつあることを示しています。
LAMOSTと分光サーベイが切り開く新しい宇宙地図
今回の成果の鍵となったのが、LAMOSTによる分光サーベイです。分光観測とは、天体からの光を虹のように波長ごとに分け、そのパターンから天体の種類や距離、運動などを調べる手法です。
呉教授は、この発見が「銀河面の背後にあるクエーサー探索における分光サーベイの可能性」を示したとしています。画像だけでは見分けがつきにくい天体も、スペクトル(光の波長パターン)を見ることでクエーサーかどうかを判定できるためです。
クエーサーは「宇宙ガス」を読むための優秀なトレーサー
論文の第一著者である霍志英(Huo Zhiying)氏は、銀河面の背後にあるクエーサーは、私たちの銀河やその周囲に存在するガスを調べるうえで優れた「トレーサー(目印)」になると指摘しています。
クエーサーの光が私たちに届くまでの間に、天の川銀河内や銀河間空間のガスを通過すると、そのガスの成分や運動によって光のスペクトルに特徴的な「吸収線」が刻まれます。これを詳しく調べることで、次のような情報が得られます。
- 天の川銀河内のガスの化学組成(どの元素がどれくらいあるか)
- ガスの運動(どの方向にどれくらいの速さで動いているか)
- 銀河の外側や銀河間空間に広がるガスの分布
霍氏によると、今回見つかったクエーサー群は、銀河面付近における既知のクエーサーの「空白」を埋めることで、より均一な空間分布を実現し、精度の高い天体基準枠(アストロメトリック・リファレンスフレーム)の構築にも利用できるとされています。
なぜこの発見が「これからの宇宙研究」に効いてくるのか
今回の成果は、一見すると「クエーサーをたくさん見つけた」という数の話に見えますが、長期的には次のような広がりを持つ可能性があります。
- 宇宙地図の精密化:銀河面方向のクエーサーが増えることで、全天にわたる宇宙地図がより均質になり、重力理論の検証や宇宙膨張の精密測定に役立つ可能性があります。
- 銀河とガスの相互作用の理解:天の川銀河を取り巻くガスの流入・流出を読み解くことで、銀河がどのように成長し、星形成を続けてきたのかを探る糸口になります。
- 観測技術の進歩:ダストや星の多い領域でも大量の天体を識別できることは、今後の大型サーベイ計画にとって重要な実績となります。
デジタルネイティブ世代の読者にとっては、「ビッグデータとしての宇宙」をどう読み解くかという観点からも興味深いテーマです。今回のように、観測装置とデータ解析技術の組み合わせによって、これまで「見えていなかった領域」が次々と開かれつつあります。
私たちがこのニュースから考えられること
宇宙の話は遠い世界のニュースに感じられますが、次のような問いとして日常の視点にもつながります。
- 「見えにくい領域」にこそ、新しい発見の余地が残っているのではないか。
- 大量のデータをどう整理し、どんな問いを立てるのかが、研究の成果を左右するのではないか。
- 国境を超えた研究協力が、どの分野であれブレークスルーを生むのではないか。
銀河面の向こうに隠れていたクエーサーたちは、単なる点の光ではなく、私たちのものの見方そのものを少し拡張してくれる存在でもあります。今後、LAMOSTをはじめとする各国の観測施設が、どのような「見えなかった宇宙」を次々と描き出していくのか、引き続き注目したいところです。
Reference(s):
Chinese astronomers discover 1,300 new quasars behind Galactic plane
cgtn.com








