中国駐米大使「いかなる関税・貿易戦争にも反対」その狙いは
米中の経済関係が揺れるなか、中国の謝鋒・駐米大使が関税や貿易戦争への明確な反対姿勢と、中国経済の底力を強調しました。伝統中国医学のたとえを用いて、世界経済の「治療法」を語った発言です。
謝鋒・駐米大使「関税・貿易戦争には断固反対」
謝鋒大使は、米国で開催された伝統中国医学文化オープンデーの場で演説し、中国はあらゆる形の関税戦争や貿易戦争に断固反対すると表明しました。
謝大使は、中国が関税戦争や貿易戦争に反対するのは「自国の国益と尊厳を守るためであると同時に、国際的な経済・貿易秩序、公平さと正義を守るためでもある」と指摘しました。そのうえで、「もしどの国であれ、中国に対して関税戦争や貿易戦争を仕掛けるのであれば、中国は恐れずに向き合い、断固たる対抗措置をとる」と強調し、必要な場合には報復を辞さない姿勢を示しました。
伝統中国医学の発想で世界経済を語る
今回の演説で特徴的だったのは、謝大使が伝統中国医学(TCM)の考え方を、世界経済や貿易政策の議論に重ね合わせた点です。
謝大使は、中国の古い言葉として「最も優れた医者は国を治し、その次に優れた医者は個人を治す」という趣旨の言葉を紹介しました。ここには、中国文明が「世界全体の共通の利益を促進し、一人ひとりの人間に利益をもたらす」という価値観を持っているというメッセージを込めました。
伝統中国医学は、症状と原因の両方に目を向け、体の土台を整えながら源を養うことを重視します。謝大使は、病気を治すには、原因を正しく見極め、問題から目をそらさず、的確な薬を用いることが重要であり、症状だけを追いかけたり、自分の病気なのに他人に処方箋を押しつけてはならない、という考え方を説明しました。
そのうえで、世界経済の停滞をめぐっては、「世界成長がボトルネックに直面している主な理由は、成長の原動力が不足していることだ」と指摘し、限られたパイの取り合いをするのではなく、「長期的な視点からパイそのものを大きくすることが賢明だ」と訴えました。
「症状」と「根本原因」をどうとらえるか
謝大使の比喩を整理すると、次のようなメッセージが読み取れます。
- 短期的な関税の応酬や貿易制限は「対症療法」にすぎない
- 真の課題は、世界全体の需要や投資、技術革新といった「成長エンジン」の不足にある
- 自国の問題を他国に転嫁するような措置は、根本治療にはならない
関税や貿易戦争を「症状を悪化させる処方箋」にたとえ、成長の原動力を高める協力こそ必要だと訴えていると言えます。
グローバル化と相互依存への警鐘
謝大使は、ここ数十年の世界的な繁栄を支えてきたのは、グローバル化や国境を越えた結びつき、各国の補完関係だと位置づけました。こうした流れは、持続的で共通の発展を実現するために、各国が選ばざるを得ない道だとも強調しました。
一方で、相互依存関係を政治的な圧力手段として「武器化」することに警鐘を鳴らしました。謝大使は、相互依存を武器として使えば、かえって自らを孤立させ、ブーメランのように自国にも跳ね返ってくると指摘しました。
また、関税障壁は国際貿易の流れを詰まらせ、世界経済の「健康状態」を損なうと警告。世界の産業・サプライチェーンが遮断されれば、各国は供給不足と物価高騰に直面し、人々の暮らしを直撃するとしました。そのうえで、「根本的な解決策は、世界経済の流れを円滑にし、その活力と躍動感を保つことだ」と強調しました。
- サプライチェーンの遮断 → 供給不足
- 関税障壁の拡大 → 物価上昇と企業コストの増加
- 結果として、各国の人々の生活水準を押し下げるリスク
こうした構図を示しながら、貿易や投資の流れを維持・強化する方向こそが、世界経済の「体力」を取り戻す道だと訴えた形です。
中国経済のレジリエンスと開放姿勢をアピール
謝大使は同じ演説の中で、中国経済の強さと将来性についても具体的な数字を挙げて説明しました。
まず、2025年第1四半期の中国の国内総生産(GDP)は前年同期比5.4%増と、主要国の中でも高い伸びを示したと紹介しました。また、同じ期間の中国の輸出入総額は過去最高を更新し、そのうち一帯一路に参加する国々が全体の半分以上を占めたと述べました。
さらに、中国国際消費品博覧会や広州交易会では、参加したブランドや企業の数が過去最多となり、海南自由貿易港で開催された2025年グローバル産業投資促進会議では、合計で320億ドル超の投資プロジェクトが成約したと説明しました。
謝大使は、中国が依然として巨大な成長ポテンシャルを持つ市場であり、世界経済をけん引する重要なエンジンであり続けていると強調。外国からの投資にとっても魅力的な目的地だとアピールしました。
そのうえで、中国の発展はこれからも世界全体に機会をもたらすとし、「門戸を閉ざすのではなく開き、障壁を築くのではなく取り除き、自らの利益だけでなく世界を力づける」と述べました。高品質な発展と高水準の対外開放を通じて、世界により大きな安定と確実性をもたらしていくと強調しました。
今回の発言から見える中国のメッセージ
今回の謝大使の発言には、少なくとも二つのレイヤーが重なっているように見えます。
- 一方では、関税や貿易戦争には断固反対し、必要な場合は対抗措置も辞さないという、強い防御的メッセージ
- 他方では、グローバル化と開放的な経済秩序を守り、世界全体の成長を重視するという、協調的なメッセージ
伝統中国医学のたとえを用いたのは、短期的な「対症療法」と長期的な「根本治療」を対比させ、世界経済の問題を大局的に捉えるべきだという考えを印象づける狙いがあると考えられます。
日本の読者にとっての論点
サプライチェーンの遮断や物価高騰が世界中の暮らしに影響を与えるという指摘は、日本の企業や消費者にとっても無関係ではありません。関税や貿易戦争が激化すれば、輸入コストや部材調達、海外市場での販売に影響が出る可能性があるためです。
一方で、謝大使が強調したように、中国が巨大な市場と投資先であり続けるという見方は、多くの企業にとって依然として重要な前提となっています。開放の継続と、世界経済に安定をもたらすというメッセージは、グローバルに事業を展開する企業や投資家にとって、今後の戦略を考えるうえでの材料となりそうです。
伝統中国医学になぞらえた今回の発言は、世界経済の「症状」だけでなく、「根本原因」に目を向けることの必要性を改めて投げかけています。短期的な対立や関税の応酬を超えて、共通の成長エンジンをどう再構築していくのか。米中関係を含む各国間の対話と協力の行方が、今後も注目されます。
Reference(s):
China's U.S. envoy: Beijing opposes tariff or trade war of any form
cgtn.com







