中国宇宙ステーション神舟20号、ゼブラフィッシュなど新生命科学実験へ
中国の宇宙船「神舟20号」の宇宙飛行士たちが、中国宇宙ステーションでゼブラフィッシュやプラナリア、ストレプトマイシズを使った新たな生命科学実験に取り組みます。深宇宙探査や地上での医療・農業にもつながる可能性がある注目の取り組みです。
中国有人宇宙局(CMSA)は水曜日、中国宇宙ステーションに滞在中の神舟20号クルー(タイコノート=中国の宇宙飛行士)が、3つの新しい生命科学実験を実施すると発表しました。
今回の実験は、ゼブラフィッシュ、プラナリア、そしてストレプトマイシズという3種類の生物を対象に、微小重力(ほぼ無重力)環境が生命に与える影響を探るものです。さらにクルーは、生命科学や微小重力物理学、新しい宇宙技術など、合計59件の実験と技術実証にも取り組む計画です。
神舟20号クルー、宇宙で何をするのか
中国宇宙ステーションでは、すでに200件を超える科学・応用プロジェクトが軌道上で実施されてきました。現在、こうした宇宙科学実験は計画どおり順調に進んでいるとされています。
2024年末には、中国宇宙ステーションでの研究成果をまとめた初の報告書が公表されました。今後も定期的に成果が発表され、宇宙ステーションが「実験と応用の場」として本格稼働していることがうかがえます。
その最新章となるのが、神舟20号クルーによる生命科学実験です。長期滞在する人類の健康をどう守るか、宇宙環境をどう地上の課題解決に結びつけるか――そのヒントを探る試みでもあります。
ゼブラフィッシュ実験――骨と心臓を守るヒントに
1つ目のテーマは、ゼブラフィッシュを使った実験です。ゼブラフィッシュは小型の淡水魚で、体が透明に近く、心臓や骨などの発生や病気の研究に広く使われています。
今回の研究は、神舟18号ミッションで構築された「ゼブラフィッシュと水草(オオカナダモ)の二重生態系」を土台に、より高度な生命現象を調べるものです。
焦点となるのは「タンパク質恒常性」です。これは細胞の中でタンパク質が作られ、壊され、入れ替わるバランスが適切に保たれている状態を指します。微小重力がこのバランスをどう変えてしまうのかを、ゼブラフィッシュという高等脊椎動物を使って詳しく調べます。
研究チームは、タンパク質恒常性の乱れが、無重力によって起きる骨量の減少や心血管の機能不全にどのように関わっているのかを明らかにしようとしています。これは、長期の宇宙滞在で宇宙飛行士の骨や心臓をどう守るか、そして将来の深宇宙探査に向けた医療対策を考えるうえで重要な一歩となります。
プラナリア再生実験――驚異の自己修復力を宇宙で検証
2つ目は、プラナリア(扁形動物の一種)を用いた再生実験です。プラナリアは体を切っても再び完全な個体に再生する、非常に強い再生能力で知られています。
中国にとって、宇宙空間でのプラナリア再生実験は今回が初めてです。研究者たちは、この生物の優れた再生能力を手がかりに、1個体のレベルで「再生がどのような仕組みで成り立っているのか」という根本的な問いに迫ろうとしています。
微小重力や宇宙放射線など、地上とは異なる環境に置かれたとき、プラナリアの再生プロセスがどのように変化するのかを分析することで、組織や臓器の修復メカニズムの理解が進む可能性があります。これは、宇宙でのけがや健康問題への対処だけでなく、地上の再生医療や創傷治療のヒントにもなりうるテーマです。
ストレプトマイシズ研究――宇宙から農業と環境を支える
3つ目の実験対象は、ストレプトマイシズと呼ばれる細菌です。ストレプトマイシズは土壌中に多く存在し、土壌を豊かにし、植物の成長を促し、生態系の安定に貢献することで知られています。
今回の研究では、宇宙環境がストレプトマイシズの「有用な物質や酵素の発現」にどのような影響を与えるかを調べます。ここでいう有用な物質とは、農業や環境保全、産業利用など、実際の応用につながる可能性のある化合物のことです。
微小重力や宇宙放射線のもとで、これらの細菌がどのように振る舞うかを理解できれば、将来的に宇宙資源を活用した微生物技術の開発につながると期待されています。宇宙で培った知見をもとに、地球上の持続可能な農業や環境対策に役立つ新たなソリューションが生まれるかもしれません。
合計59件の実験――脳オルガノイドから超伝導材料まで
神舟20号クルーが手がけるのは、これら3件の生命科学実験だけではありません。滞在中には、宇宙生命科学、微小重力物理学、新しい宇宙技術などの分野で、合計59件の実験と技術実証が予定されています。
公表されているテーマには、次のような先端的な研究が含まれています。
- 血管を持つ脳オルガノイドの培養:オルガノイドとは、幹細胞から作るミニ臓器モデルです。チップ上に血管構造を備えた脳オルガノイドを育てることで、宇宙環境が脳の発達や神経機能に与える影響を調べる可能性があります。
- ソフトマターの非平衡ダイナミクスの研究:ソフトマターとは、ゲルや高分子、コロイドなど、日用品にも多く使われる柔らかい物質の総称です。重力の影響が小さい宇宙では、こうした物質の動きや構造変化を、地上よりも純粋な形で観察できます。
- 高温超伝導材料の宇宙製造プロセスの研究:高温超伝導体は、電気抵抗がほぼゼロになる特性を持つ材料で、電力輸送や大型磁石などへの応用が期待されています。宇宙での製造・加工プロセスを探ることで、より高性能な材料設計のヒントを得ようとする試みです。
重力の影響をほとんど受けない宇宙は、物質や生体のふるまいを「純粋な条件」で観察できる実験室でもあります。そこで得られた知見は、地上の工学や医療技術の高度化にもつながると考えられています。
なぜ今、宇宙で生命科学なのか
宇宙生命科学の研究は、単に「宇宙で珍しい実験をする」ためのものではありません。長期の宇宙滞在や将来の深宇宙探査を現実のものにするための基盤づくりでもあります。
無重力や宇宙放射線の影響で、骨がもろくなったり、筋肉が落ちたり、心血管や神経、免疫などにさまざまな変化が起きることが知られています。こうした変化のメカニズムを、細胞やモデル生物のレベルから理解することで、より効果的な予防や治療の方法を探ることができます。
同時に、宇宙は地上では再現しにくい条件を利用できる「特別な研究環境」でもあります。微小重力を活用した細胞培養や材料製造、微生物の利用などは、地球上の医療、農業、環境、産業にも応用されうるテーマです。
神舟20号クルーが進めるゼブラフィッシュ、プラナリア、ストレプトマイシズの3つの実験は、宇宙で生きることの意味と、宇宙から地球をどう支えるかを考えるうえで、小さいけれど大きな一歩と言えそうです。今後公表される成果が、どのような新しい視点をもたらすのか注目されます。
Reference(s):
China's Shenzhou-20 crew to conduct three new life science experiments
cgtn.com








