中国、月距離で初の衛星レーザー測距に成功 深宇宙探査で新たな一歩
中国が、月までの距離に相当する約35万キロ離れた衛星とのレーザー測距に初めて成功しました。深宇宙探査や月探査の精密な航法に直結する技術であり、2025年の宇宙ニュースの中でも注目すべき一歩です。
何が起きたのか:月距離でのレーザー測距に成功
中国科学院(Chinese Academy of Sciences, CAS)傘下の Technology and Engineering Center for Space Utilization(CSU)は、水曜日に行った衛星レーザー測距実験について、金曜日に成果を発表しました。
地上には口径1.2メートルのレーザー測距システムが用意され、DRO-Aと呼ばれる衛星までの距離を測定しました。その距離はおよそ35万キロメートルで、地球と月のおおよその距離に相当します。
衛星レーザー測距とは、地上から衛星に向けて非常に短いレーザーパルスを発射し、その反射光が戻ってくるまでの時間を精密に測ることで距離を割り出す技術です。従来は主に地球周回衛星で使われてきましたが、今回は「月まで届く」スケールでの測距に成功した点が画期的だとされています。
DROという「宇宙の港」を目指すミッション
今回の主役となったDRO-A衛星は、「ディスタント・レトログレード・オービット(Distant Retrograde Orbit, DRO)」と呼ばれる軌道を探査するミッションの一環です。DROは地球と月の重力がつくる力学的なバランスを活用した軌道で、「自然の宇宙港」とも表現されます。
CSUのDROミッションでは、このDROを活用した新しい航法・運用技術の確立がねらいとされています。発表によると、このミッションによって、地球と月の間に広がる「地球・月空間」で自律飛行する衛星のためのナビゲーションシステムが構築されました。
この地球・月空間は、従来の低軌道(Low Earth Orbit, LEO)に比べて体積が約1万倍に達するとされます。今後、月周回衛星や月着陸機、さらには深宇宙探査機が増えることを考えると、この広大な空間を正確に測り、衛星が自律的に飛行できる環境づくりは、宇宙インフラ整備の基盤と言えます。
123日間の「レスキュー」が開いた道
今回の成果の裏には、DRO-A衛星をめぐるドラマもありました。DRO-Aは2024年3月に打ち上げられましたが、当初は狙っていた軌道に入ることができませんでした。
そこでCSUの技術者たちは、軌道を少しずつ修正しながら、123日間にわたる「救出作戦」に取り組みました。その結果、衛星を目標とする位置へと導くことに成功し、今回のレーザー測距実験が可能になりました。
長期間におよぶ軌道制御と運用の積み重ねがあったからこそ、35万キロ先の小さなターゲットにレーザーを正確に当て、距離を測り切るという高度な実験が実現したともいえます。
深宇宙探査と月ミッションへの意味
CSUは、今回の成果が中国の宇宙科学と深宇宙探査への能力向上を示すものだとしています。月やその先の深宇宙を目指すうえで、正確な測距と航法技術は、ロケットや探査機そのものと同じくらい重要です。
今回の実験とDROミッションによって、次のような可能性が広がると考えられます。
- 月周回衛星や月着陸機の位置・軌道をより高精度に把握できる
- 地球と月の間を行き来する輸送ミッションの安全性と効率が高まる
- 自律飛行できる衛星が増え、地上局の負担が軽減される
- 将来の月周辺拠点や深宇宙ステーションのナビゲーション基盤となる
こうした技術は、特定の国だけではなく、将来の国際協力や共同ミッションにも活用される可能性があります。地球・月空間を安定的に利用するための「共通インフラ」としての役割も期待されます。
2025年の視点:宇宙インフラ競争から「共有空間」へ
2025年現在、世界各地で月や深宇宙に向かう計画が進んでおり、地球・月空間は新たなフロンティアとして注目されています。その中で、中国が月距離での衛星レーザー測距に成功し、DROでの自律航法技術を前進させたことは、宇宙インフラをめぐる動きの一端を象徴するニュースです。
一方で、宇宙空間は一国だけのものではなく、多くの国と地域、企業、研究者が共有していく場でもあります。衛星が増えれば増えるほど、衝突回避や電波の干渉、軌道の調整など、協調が必要なテーマが増えていきます。
今回のニュースは、次のような問いを私たちに投げかけています。
- 地球と月の間の広大な空間を、世界はどのように共有し、管理していくのか
- 各国・各地域の技術が進む中で、どのような形の国際協調やルールづくりが望ましいのか
- 宇宙インフラの整備が、私たちの日常生活や産業にどのような形で返ってくるのか
通勤電車の中でニュースをチェックする私たちにとって、35万キロ先の出来事は遠く感じられるかもしれません。しかし、測距技術やナビゲーションシステムといった地味に見える基盤技術こそ、将来の月旅行や宇宙資源利用、通信・測位サービスの土台になっていきます。
月までの距離をレーザーで正確に測る——そんな一見シンプルなチャレンジの先に、これからの宇宙時代の姿が少しずつ見え始めています。
Reference(s):
China achieves its 1st lunar-distance satellite laser ranging
cgtn.com








