神舟19号が持ち帰った宇宙実験サンプル、中国の研究現場へ
中国の有人宇宙船「神舟19号」が約6か月の任務を終えて地球に帰還し、宇宙で行われた実験から得られたサンプルが北京市内の研究者たちに引き渡されました。生命科学から新素材まで、多彩な宇宙実験が次のステージに進もうとしています。
宇宙サンプル、北京の研究チームへ
神舟19号の乗組員が持ち帰ったのは、合計37.25キロに及ぶサンプルです。25件の宇宙実験で得られた成果で、宇宙生命科学、材料科学、新技術の3分野を中心に構成されています。
サンプルの受け渡しは、中国科学院(CAS)の宇宙利用工学技術センターで行われました。式典では、宇宙ステーションでの実験を担当したチームから、地上での詳細解析を担う複数の研究グループへと資料が手渡されています。
主なポイントは次の通りです。
- 任務期間:約6か月
- 持ち帰ったサンプルの総量:37.25キロ
- 実験の件数:25件
- 分野:宇宙生命科学、材料科学、新技術など
過去最大規模の生命科学サンプル
今回のサンプルのうち、20件は生命科学に関する実験から得られたものです。骨細胞や骨芽細胞(こつがさいぼう)、ヒト気管支上皮細胞、ヒトや動物の初期胚、各種タンパク質サンプル、ショウジョウバエなどが含まれています。
中国の宇宙ステーションが2022年末に本格運用を開始して以来、これほど多様な生物試料が一度に地球へ戻ってきたのは初めてとされています。生きた細胞や胚など、生物学的にデリケートなサンプルは、着陸地点である中国本土北部・内モンゴル西部の東風着陸場から、すぐに北京へと輸送されました。
なぜショウジョウバエが重要なのか
ショウジョウバエは、白いマウスやゼブラフィッシュと並んで、生命科学の定番モデル生物です。人の病気に関わる遺伝子と似た遺伝子を多く持つことから、これまでの研究はノーベル賞6件に結びついてきました。
神舟19号が持ち帰ったショウジョウバエは、貨物船「天舟8号」が11月に宇宙ステーションへ運んだ個体の子孫です。月や火星のように、重力がほとんどなく磁場も極めて弱い環境を模した条件で、世代を重ねてどのように成長・繁殖するのかが調べられました。
宇宙ステーション内部では、すでに3世代にわたる繁殖に成功しており、地上に戻ったサンプルから、遺伝子や行動パターンの変化が詳しく解析される見通しです。
無重力が「本能」に与える影響
中国科学院生物物理研究所の研究者であるLi Yan(リー・イエン)氏は、軌道上で撮影された映像から、ショウジョウバエが重力のない環境にうまく適応できず、ふわふわと漂ったり、衝突したりする様子が確認できたとしています。
Li氏によると、求愛や摂食といった本能的な行動にも異常が見られた可能性があり、データを精密に解析する必要があるといいます。こうした挙動の変化の背景に、神経系や遺伝子レベルでどのようなメカニズムの変化が起きているのかが、今後の焦点です。
Li氏は、将来、人類が月や火星、さらには星間空間へと長期的に進出する可能性に触れつつ、次のように指摘しています。重力がほぼないうえに磁場も極めて弱い環境で、生物が生存し、繁殖し、正常な脳機能や行動パターンを維持できるかどうかは、いまだ未知の領域だということです。その前段階として、ショウジョウバエなどのモデル生物で変化のメカニズムを探ることが重要だとしています。
宇宙で試される新素材
神舟19号が地球に持ち帰ったサンプルのうち、22種類は材料科学や新技術に関連するものです。高強度鋼や、月面の土壌を補強するための材料などが含まれており、これらも順次北京の研究機関へ送られる予定です。
材料を宇宙環境にさらすことで、放射線、極端な温度変化、微小重力などが強度や劣化にどのような影響を与えるのかを調べることができます。将来、月や火星の地表に基地や設備を建設する際の設計指針にもつながる可能性があります。
私たちにとっての意味
今回の神舟19号のサンプル回収は、単なる技術的な成果にとどまらず、「長く宇宙で暮らすと、人や生き物の体と心はどう変わるのか」という根源的な問いに迫る試みでもあります。
こうした宇宙実験は、次のような分野への応用が期待されています。
- 長期宇宙滞在や将来の月・火星探査に向けた健康リスクの評価
- 骨や筋肉の衰え、脳機能の変化に対する予防・治療法の研究
- 極限環境に強い新素材や構造物の開発
宇宙での生命科学・材料科学の成果は、遠い未来の話だけでなく、地上の医療や産業にもフィードバックされる可能性があります。中国本土の宇宙ステーションで進むこうした研究は、私たちが「宇宙でどう生きるか」を考えるうえで、世界的にも重要なデータを積み上げつつあると言えるでしょう。
Reference(s):
Samples from Shenzhou-19 space experiments handed over to scientists
cgtn.com








