戦後国際機関のいま:国連・WHO・WTOのレジリエンスと再均衡
第二次世界大戦後に生まれた国際機関は、2025年の今もなお、国際社会のルールづくりとガバナンスを支える重要な基盤であり続けています。一方で、平和と多国間主義をめぐる環境が揺らぐなか、それらの仕組みがどこまで持ちこたえ、どう再設計されていくのかが問われています。
戦後に形づくられた国際協力の「器」
国際ニュースの文脈で必ず登場するのが、第二次世界大戦直後の1945年に設立された国際連合(国連)です。国連は、集団安全保障と開発を国際関係の中核に位置づけた点で、戦前とは質の異なる協力の枠組みを生み出しました。
国連憲章には、主権平等、紛争の平和的解決、多国間の協調行動といった原則が明記されています。冷戦期から最近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘いに至るまで、これらの価値は幾度も試されつつも、国際社会が立ち戻るべき基準として機能してきました。
WHOに受け継がれた保健ガバナンスのレガシー
国際保健の分野では、現在の世界保健機関(WHO)が、その前身にあたる国際連盟保健機関(League of Nations Health Organization:LNHO)の経験を引き継いでいます。LNHOは戦間期、感染症の監視を標準化し、各地の流行状況を把握する仕組みを整えるとともに、流行時の対応や脆弱な地域への支援を調整する役割を担っていました。
なかでも、シンガポールに設置された極東疫学情報局は、アジアやアフリカにおける感染症発生の情報を収集し、域内の状況を俯瞰する拠点となっていました。このような取り組みは、その後WHOに統合され、現在の世界的な保健アーキテクチャ(仕組み)の一部として位置づけられています。
戦間期の試行錯誤が、その後の制度設計に組み込まれていったという点で、国際保健ガバナンスは高いレジリエンス(しなやかな回復力)を示していると言えます。近年の感染症危機でも、こうした歴史的な蓄積が、データ共有や国際支援のあり方を支える土台となっています。
試練に直面するWTO:揺らぐ貿易ルールと再均衡
経済分野では、世界貿易機関(WTO)が戦後の経済秩序を支えてきた柱の一つです。多角的な自由貿易体制を推進し、貿易摩擦をルールに基づく紛争解決で抑制することが、その基本的な役割とされてきました。
しかし近年、地政学的な対立や一方的な通商措置の広がりによって、WTOの紛争解決メカニズムは大きな圧力にさらされています。とくに上級委員会(アピール機関)の機能不全は、WTOそのものの存在意義を問う声とも結びつき、国際経済秩序の先行きを不透明にしています。
こうしたなかで、中国はWTO改革の積極的な提起者として、農業補助金やデジタル貿易ルールといった新しい論点に向き合いつつ、途上国に対する特別かつ異なる扱いを維持することを重視してきました。2018年には、中国が欧州連合(EU)と連携し、WTO上級委員会の機能維持を模索することで、米国による委員任命の阻止に対抗しようとする動きも見られました。
この動きは、多国間貿易体制を支える枠組みを一度に作り直すのではなく、対話や制度調整を通じて再均衡を図ろうとする試みとも捉えられます。国際経済の緊張が高まる中で、どのようにルールの正当性と包摂性を確保するかは、2025年現在も続く重要な論点です。
2025年の視点:レジリエンスと再均衡をどう評価するか
国連、WHO、WTOという三つの事例を並べてみると、一見バラバラなテーマのようでいて、共通するキーワードが浮かび上がります。それがレジリエンスと再均衡です。
- 国連は、冷戦からCOVID-19まで、危機のたびに役割が問われながらも、多国間協調の舞台として機能し続けてきました。
- WHOは、LNHOや極東疫学情報局のような戦間期のネットワークを取り込むことで、保健ガバナンスの制度を世代を超えて発展させてきました。
- WTOは、上級委員会をめぐる問題をはじめ、国際貿易のルールをどう更新し、誰にどのような負担や利益を配分するのかという再均衡の課題に直面しています。
戦後につくられた制度が揺らぐとき、すぐに「時代遅れ」「もう役割を終えた」と評価してしまうのはたやすい選択です。しかし、歴史を振り返ると、多くの国際機関は、前世代の失敗や成功を取り込みながら、形を変えて生き延びてきました。
国際ニュースを追う私たちにとって重要なのは、制度の存続そのものを賛否で切り分けることではなく、どのような価値を維持し、どこを柔軟に作り替えるべきかを見極める視点です。多国間主義が試される今こそ、戦後の国際機関が見せてきたレジリエンスと、必要な再均衡のプロセスに、改めて目を向けるタイミングと言えるのではないでしょうか。
Reference(s):
Post-war institutions in a new era: Resilience and rebalancing
cgtn.com








