北京国際映画祭でケニア映画が躍進 アフリカ映画と中国の新しい架け橋
ケニア映画「Nawi: Dear Future Me」が、2025年の第15回北京国際映画祭で主要コンペ部門の一つであるTiantan Awardにノミネートされ、さらに審査員特別賞にあたるSpecial Jury Honorを受賞しました。アフリカ映画が中国でこれほど注目を集めるのは画期的で、中国とアフリカの文化交流の新しい動きとして国際的にも注目されています。
ケニア映画「Nawi」が北京で高い評価
北京国際映画祭は、中国・北京で毎年開催される国際映画祭で、Tiantan Awardはその中心となる賞です。今年の第15回では、ケニア作品「Nawi: Dear Future Me」がノミネート作品の一つとして選ばれ、最終的にSpecial Jury Honorを獲得しました。
この快挙は、アフリカの物語が中国の観客に広く届きつつあることを象徴しています。アフリカ映画は近年、欧米の映画祭で存在感を高めてきましたが、中国本土の大きな映画祭でここまで評価される例はまだ多くありません。
「家」と少女の未来をめぐる物語
タイトルの「Nawi」は、ケニアの現地の言葉で「家」を意味します。共同監督を務めたケニア人映画監督のバレンティン・チェルゲットさんにとって、この作品は非常に個人的な物語でもあります。
作品の主人公は、勉強が得意で医者になることを夢見る13歳の少女ナウィ。ところが、彼女は家畜との交換を条件にした早婚を強いられます。こうした慣習は、今も一部の地域で続いているといわれますが、ナウィはその運命に従わず、教育の機会を求めて家を飛び出します。
監督自身の経験から生まれたテーマ
チェルゲットさんは、自身の少女時代の経験が作品の背景になっていると語ります。彼女は「女の子はこうあるべき」「妻としてこう振る舞うべき」と繰り返し教え込まれて育ったといいます。その中で、「本当にそうなのか」「違う生き方はないのか」という問いが少しずつ膨らんでいきました。
「子どものころは、いつか自分に特別な力が宿って世界を変えられると信じていました。でも大人になって気づいたのは、私の力は『物語を語ること』の中にあるということでした」とチェルゲットさんは話します。映画という手段を通じて、彼女は性別役割や教育の機会など、アフリカの社会が抱える課題に静かに光を当てています。
国境を越える共感とアフリカ映画の現在
「Nawi: Dear Future Me」は、ケニアの首都ナイロビをはじめとする都市部で上映された際、会場が満席になるほどの反響があったといいます。観客は、少女の葛藤や家族との緊張関係、自分の未来を自分で選びたいという切実な思いに強く共感しました。
さらに興味深いのは、中国での受け止められ方です。チェルゲットさんによると、中国の観客はケニアの文化的背景を詳しく知らないにもかかわらず、作品の感情の動きやテーマに深く共鳴したといいます。この「文化は違っても感情は共有できる」という体験が、映像作品ならではの力を改めて示しました。
北京国際映画祭での受賞は、単に一作品の成功にとどまりません。アフリカの物語が「周縁」ではなく、国際映画祭の中心的な舞台で語られ、評価されるようになってきていることを示す出来事でもあります。
映画がつなぐ中国とアフリカ
チェルゲットさんはインタビューの中で、「私たちは娯楽のためだけに物語を語っているのではありません。理解や共感、対話のための『橋』をかけているのです」と語りました。
近年、中国映画は「流浪地球(The Wandering Earth)」や「哪吒之魔童降世(Ne Zha)」などの作品を通じて、世界市場で存在感を高めています。一方で、アフリカの映画作家たちも、国内外での上映機会を広げようと模索を続けています。そうした中で、中国本土とアフリカの映画人が協力し合うことには、次のような意味があります。
- 互いの社会や日常を、ステレオタイプではなく当事者の視点から知ることができる
- 若い世代同士の交流を促し、将来のビジネスや文化協力の土台を作る
- 多様な声が国際的なメディア空間に届くことで、世界の「物語のバランス」を少しずつ変えていく
湖南省で計画されている中国・アフリカ映画会議のような取り組みは、こうした交流を継続的なものにしていくための重要な場となりそうです。共同制作や人材育成のプログラムが増えていけば、両地域の映画はお互いの観客にとって、より身近なものになっていくでしょう。
私たちがこのニュースから考えたいこと
「Nawi: Dear Future Me」がケニアの農村から北京のレッドカーペットへと歩みを進めた旅路は、アフリカ映画の快挙であると同時に、「誰の物語が、どこで、どのように語られるのか」という問いを私たちに投げかけています。
日本に暮らす私たちにとっても、このニュースは他人事ではありません。少女の教育、伝統と変化、家族の期待と個人の夢――こうしたテーマは、多くの社会に共通するものです。アフリカと中国の映画人が協力して紡ぐ物語の中に、私たち自身の社会や未来を考えるヒントを見出すことができるかもしれません。
短い通勤時間やスキマ時間に、世界のどこかで生まれている新しい物語に少しだけ耳を傾けてみる。その積み重ねが、遠く離れた場所どうしを確かにつなぐ「橋」となっていきます。
今回の受賞をきっかけに、アフリカと中国の映画人が、対等なパートナーとして共に物語を紡ぐ時代が本格的に始まろうとしています。静かながらも力強いこの変化が、今後どのような作品となって私たちの前に現れるのか、注目していきたいところです。
Reference(s):
cgtn.com







