中国、主要病院で高齢者医療を強化 老年科クリニック拡充へ
中国の国家衛生健康委員会(NHC)が、全国の主要総合病院に対し、高齢者向けの老年科クリニック設置を求める新たな指針を打ち出しました。急速に進む高齢化に対応するため、外来から入院、リハビリまでを一体で支える医療体制づくりを進めるねらいがあります。
新指針のポイント:老年科クリニックを主要病院に義務化
今回示された指針では、中国各地の上位2区分に分類される総合病院に対し、専用の老年科クリニックを設けることが求められています。これは2019年版の指針を改定したもので、高齢者医療の重要性を一段と高める内容です。
老年科クリニックには、少なくとも以下の機能を備えることが求められます。
- 外来診察室
- 入院用の病棟
- 高齢者の状態を総合的に評価するための「包括的評価室」
病床数についても具体的な基準が示されており、最上位のtertiary hospitals(トップティアの総合病院)は少なくとも20床、二次レベルの総合病院は少なくとも10床を老年科向けに確保する必要があります。
命を支える設備から生活支援まで
指針は、老年科クリニックに求められる設備についても詳しく定めています。高齢患者の急変に対応するため、以下のような生命維持に直結する機器の配備が必須とされています。
- 気管挿管に必要な器具
- 簡易型の人工呼吸器
- 心電図モニター
- 除細動器(心停止時などに用いる医療機器)
このほか、病院側に「設置が望ましい」とされる設備として、日常生活やリハビリを支える機器も挙げられています。
- 高齢者が利用しやすい入浴設備
- 電動式の介護ベッド
- 自力での移乗を助ける補助機器
- 経腸栄養(胃ろうなど)に用いる注入ポンプ
- リハビリテーション用のトレーニング機器
医療だけでなく、生活の質(QOL)やリハビリを含めた「トータルケア」を病院内で完結できる体制づくりを目指していることが分かります。
多職種と伝統医学を組み合わせた包括ケア
新指針の特徴のひとつが、多職種によるチーム医療と、伝統医学の積極的な活用です。老年科クリニックには、次のような分野の専門職が関わることが求められています。
- 内科
- 腫瘍(がん)医療
- 伝統中国医学(TCM)
- リハビリテーション
- メンタルヘルス(精神保健)
- 看護
- 薬剤
- 栄養
高齢者は複数の慢性疾患を抱えながら、急性の病気にもかかりやすいとされています。こうした背景から、老年科クリニックは「老年症候群」と呼ばれる高齢期特有の症状や、多疾患併存、急性疾患までを一体的に診る場として位置づけられています。
特に、伝統中国医学の治療やケアを取り入れながら、身体面・心理面・生活面を総合的に支える「ホリスティック(全人的)」なアプローチを打ち出している点は、中国らしい特徴といえます。
急速に進む高齢化:中国が直面する現実
こうした医療体制の強化の背後には、中国の急速な高齢化があります。2023年時点で、60歳以上の高齢者人口は約3億1,000万人に達し、総人口の22%を占めました。今後も高齢者の割合が高まると見込まれるなか、高齢者向けの医療・介護体制をどう整えるかは、重要な政策課題になっています。
NHCはここ数年、高齢者の健康サービス体制の構築と改善を目指す政策文書を相次いで出してきました。2024年11月には通知を出し、2027年末までに、上位2区分の総合病院の80%が標準化された老年科を備えることを目標として掲げています。
その間にも整備は進んでおり、NHCのデータによると、老年科を持つ上位2区分の総合病院の数は、2021年の4,685施設から2023年には6,877施設へと増加しました。短期間で高齢者医療の受け皿を広げてきたことがうかがえます。
必要性は高いが、現場には課題も
一方で、老年科の新設と安定運営には、現場レベルでの課題も指摘されています。老年医学はまだ発展途上の専門領域とされており、専門的な訓練を受けた医師や看護師などの人材が十分とはいえない状況です。
さらに、老年科の診療報酬が相対的に低いことなどを背景に、医療機関にとって老年科部門の整備が必ずしも魅力的な投資とはみなされにくいという指摘もあります。その結果として、独立した老年科部門の設置や充実に積極的になりにくい病院もあるとされています。
こうした人材不足と経済的インセンティブの問題は、新指針が掲げる理想と、現場での実行力の間にギャップを生む可能性があります。今後は、教育・研修や報酬体系の見直しなどを含め、医療現場が老年科に取り組みやすい環境づくりがどこまで進むかが鍵になりそうです。
高齢化社会の「次の一手」を考える視点
高齢化への対応は、アジアを含む多くの国と地域が共通して直面しつつあるテーマです。中国が老年科クリニックの標準化というかたちで、高齢者医療を病院の中心的な機能として位置づけようとしていることは、今後の議論のヒントにもなります。
今回の動きから、少なくとも次のような論点が浮かび上がります。
- 高齢化の進行を見据え、専門診療体制を早い段階から整備できるか
- 救急から慢性期、リハビリ、生活支援までを一体的に設計できるか
- 医療者のキャリアとして魅力ある老年医学をどう育てるか
- 診療報酬や制度設計を通じて、病院が高齢者医療に前向きになれる環境を整えられるか
2025年現在、中国の高齢者医療をめぐる取り組みは進行中のプロセスにあります。新指針が示す方向性と、現場が抱える課題の両方を踏まえながら、今後の動きを追っていくことが、高齢化社会を考えるうえでの重要な手がかりになりそうです。
Reference(s):
China steps up geriatric healthcare services at major hospitals
cgtn.com








