4億年前の謎の魚パレオスポンディルス、中国・豪研究が正体に迫る
約4億年前に生きていた謎の古代魚パレオスポンディルスの正体に、中国本土とオーストラリアの研究チームが一歩近づきました。スコットランド以外では初となる化石の発見と、CTスキャンと3D復元による精密解析が、長年の「進化上の位置づけ」の謎に新たな光を当てています。
スコットランドの外で初めて見つかった化石
今回の成果は、中国科学院の研究機関である脊椎動物古生物・古人類研究所(IVPP)が明らかにしたものです。中国本土とオーストラリアの共同研究チームは、これまでスコットランドでしか見つかっていなかったパレオスポンディルスの化石を、オーストラリアで初めて確認しました。
新たに見つかった化石は「パレオスポンディルス・オーストラリス」と名付けられ、オーストラリア・クイーンズランド州西部のジョージナ堆積盆地クレイヴンズピーク層から発見されました。ここは古生代デボン紀前期エムシアン期にあたる地層で、年代はおよそ4億年前とされています。今回の発見により、この種の既知の生存期間は従来の推定より約1千万年さかのぼることになりました。
この地層からは、顎のない魚、硬い装甲をもつ板皮魚、初期のサメ、トゲをもつ魚、多様な硬骨魚なども見つかっており、当時の海が多様な脊椎動物で満ちていたことを物語っています。
「最も謎めいた初期脊椎動物」と呼ばれた小さな魚
パレオスポンディルスが最初に記録されたのは1890年のことです。体長は数センチほどのウナギのような細長い姿をした小型の脊椎動物で、これまでにスコットランドから1000体を超える標本が見つかってきました。しかし、その骨格は他の魚とは大きく異なっており、研究者を長年悩ませてきました。
この不思議な生き物は、無顎類のヌタウナギから肉鰭類の幼生に至るまで、ほとんどあらゆる主要な魚類の仲間に分類し直されてきましたが、どの説も決定打にはなりませんでした。そのため、パレオスポンディルスは「最も謎めいた初期の脊椎動物の一つ」と評されてきました。
今回の研究成果は、学術誌『National Science Review』の表紙論文として掲載され、併載された論評では、解剖学的な解釈が進んだことで従来のいくつかの仮説が否定され、パレオスポンディルスに対する理解が大きく改善されたと評価されています。
CTスキャンと3D復元が「脳」を丸ごと再現
研究チームは、CTスキャンと3D復元技術を用いて、パレオスポンディルスの神経頭蓋(脳を収める頭骨部分)の構造を詳細に再現しました。断片的な化石から三次元的な脳の空間構造を復元することで、従来は見えなかった内部の形態が明らかになりました。
オーストラリア産の化石には、三次元的に保存された脳構造や鉱物化した軟組織が含まれており、高解像度CTデータをもとに、研究者たちは脳腔全体を復元しました。平衡感覚をつかさどる半規管や、脳神経が通る神経管といった微細な構造まで描き出すことに成功し、進化の系統を判断するうえで重要な形態データが得られたと、研究チームを率いるLu Jing氏は説明しています。
このデータに基づいて行われた系統解析の結果、パレオスポンディルスは、かつて有力視された四足動物の祖先側の系統ではなく、サメやエイなどに代表される軟骨魚類のグループに属する可能性が高いことが示唆されました。長年の論争に一石を投じる結果であり、初期の顎をもつ脊椎動物の多様化を考えるうえで重要な手がかりとなりそうです。
新しいデータ再構成手法が古生物学を加速
今回の研究では、化石データそのものだけでなく、解析手法の面でも新しい取り組みが行われました。研究チームは、異なるプラットフォーム間で体積データを扱える独自の再構成手法を開発し、CTデータの効率的な復元と相互検証を可能にしたとしています。
- 高精度の三次元復元を、より短時間で行える
- 複数の研究者・研究機関が同じデータを共有し、検証しやすくなる
- 化石の内部構造の可視化が進み、形態の細かな違いを比較しやすくなる
このようなデジタル技術の進展によって、古生物学の研究は「化石を削って中を見る」時代から、「データを読み解いて過去を復元する」時代へと大きくシフトしつつあります。研究チームは、新手法が今後の形態解析や国際的なデータ共有の基盤となり、古生物学研究のあり方を大きく変えていくと期待しています。
4億年前の小さな魚が投げかける大きな問い
体長わずか数センチのパレオスポンディルスは、これまで分類さえ定まらない「厄介な化石」でした。しかし、その正体に少しずつ迫ることで、脊椎動物がどのように進化し、今日の多様な魚類や陸上動物へとつながっていったのかを理解するヒントが得られます。
今回の国際共同研究は、最先端のCT技術とデータ科学を駆使することで、百年以上前から知られていた化石に新しい意味を与えました。デジタル技術の力で「既に発見されたもの」をもう一度見直すことで、私たちの進化史に対する見方は今後も静かに、しかし着実に更新されていきそうです。
Reference(s):
cgtn.com








